第5話
身体が跳ね、ハッと祐樹は目を覚ました。
いつの間にか寝ていたらしい。時計を見れば、七時はとうに過ぎている。そろそろ準備をしなければ間に合わなくなりそうだ。
寝ぼけた頭と、ほんの少しの好奇心で、祐樹は秀のワイフォンを手に取った。昨日は動いたが、あのまま消してしまった。どうなっているだろうか。
こわごわ手に取り、電源を入れてみる。少しの沈黙。やがて光が灯り、ディスプレイに画面が表示され――。
ブー ブー ブー ブー ブー
ここぞとばかりに機械が通知を知らせてきた。止まらない。祐樹がぎょっとしている間にもガンガン溜まっていく。通知音が鳴りきる前に次の通知が来るため、ワイフォンもまるでついていけていないと悲鳴を上げているかのようだった。
慌てて電源を落とし、ワイフォンを鞄に放り込む。何だか異様であまり触れていたくなかった。
「いっ……て」
ふいに手首の皮膚が痛んだ。昨日怪我したところだろう。皮膚が引っ張られるような、痺れるような違和感。
ロクなことがないと自分の手首に目を向け――ソレと、目が合った。
ソレは全体的に白く、縁はややピンク色に彩られ、細かな血管が歪に巡っている。ゼラチンのような質感。中央は黒々とした円で――。
目が合った。否、目が在った。
手首の皮膚が裂け、その中から人の目玉が覗いている。いっそ精巧な作り物にも思えるソレは、ギョロリと動き、再び祐樹へ視線を向けた。
「うわああああ!?」
何だこれ。何だこれ!
目をこすり、何度見ても変わらない。目玉は自身の腕に埋もれるようにして在り続ける。
恐る恐る触れると、痛みはなかった。しかし触れた感触も触れられた感触もある。うっすらと膜が張っているのか、ぬるりとした感触と、柔らかい――見た目の予想を裏切らないゼラチン質。
手首をこすってみるが、取れない。皮膚が引っ張られる感触と共にわずかに瞬きを繰り返される。
どたどたと部屋を出て洗面所へ駆け込んだ。水を勢いよく出し手首を突っ込む。
しかし――やはり、取れたりはしない。そもそも表面にくっついているようには見えなかった。皮膚の中に在るのだ。それでも洗い流さずにはいられなかった。
頭がおかしくなりそうだった。なっているのかもしれない。
「祐樹ー? 起きたの? そろそろ支度しないと間に合わないわよ」
「か、母さん」
「水、無駄遣いするんじゃないわよ」
とっさに手を隠し、居間を覗く。壁に掛けられた時計に目をやると、時刻は八時に近い。母の言う通りだ。もう準備をして出ないと。
しかし――でも――。
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