第拾漆話 野外実践訓練3
野外実践訓練2日目の朝、ウツギは日課の素振りを行っていた。
「ふわぁ~、毎日ご苦労なことだなウツギ」
背伸びをしながらそう語りかけてきたのはツバキだ。そんなツバキにウツギは素振りを止めて返す。
「おはようツバキ、よく眠れたかい?」
「おう!よく眠れたのは眠れたけど、やっぱり交代制となるとあまり寝た気がしないな」
「はは、そりゃそうだ」
ウツギとツバキは昨夜から見張り番を交代で行っていた。いつもより睡眠時間が少ないのは仕方が無いというものだ。
「それで、今日はどうする?」
「昨日の猪が残ってれば今日は何もしないで済んだんだけどな、どっかの誰かさんがほとんど喰っちまったからな今日の食料を探しに行かないといけないな」
「あれでも一応我慢した方なんだけどね」
そう言うウツギにツバキは呆れ顔。
「ほぼ猪一頭分喰っておいて何言ってんだ……兎に角今日は狩りだ。近くの川に行って魚でも取ろう」
「魚か、いいね」
「そうと決まったら早速準備していくぞ」
「うん」
早速ウツギたちは狩りの準備を行い、準備が終わると近くの川に向かって行くのであった。
◆
「やっぱり何かがおかしい」
「おかしいって何が?」
「昨日も言ったが、こんな浅い所で動物がいることがおかしいって言ってるんだ」
ツバキの言う通りウツギたちは川に向かう途中で野兎を見つけて狩ることに成功していた。それも3羽もである。
「それじゃあどうする?一旦訓練を中止して、先生に報告する?」
ウツギの提案にツバキはう~んと腕を組んで考え、ややあってから口を開いた。
「それも有りっちゃ有りなんだけどな~、ウツギはどう思う?」
言われてウツギも考える。ここで報告に戻ることも有りだろう。しかし、異常の脅威度も測れない現状で、動物が多い程度のことを報告するまでもないのではないのかという考えもある。それに一番の脅威である竜については相互不可侵の契約によりこちらから近づかなければ絶対安全ともいえるのだ。
「ツバキこの山に住む竜以外の魔物で一番の脅威ってどんな魔物?」
「う~んワイルドボアがいるっちゃいるけど、あれは猪を大きくしただけの存在だし、ウツギの斃した一角熊クラスの脅威はいないぞ」
「だったら何かあったとしても大丈夫だね。引き続き川に向かうとしよう」
「それもそうだな。あたしも少し神経質になってたみたいだ。竜の脅威がないと言える今、キユウをしてもしょうがないってもんだな」
「キユウってなんだよ」
「私もわからん」
言ってがははと豪快に笑うツバキ。そんなツバキを見てウツギは安心したのか「さて」と前置いて。
「川に行こうか」
「おう!!」
と二人は川に向かって歩み始めるのであった。
◆
そうこうしている内に川に着いた二人は川で魚を取っていた。
「よっしゃ5匹目!!」
言ってツバキは豪快に素手で魚を鷲掴み、掴まれた魚はぴちぴちとツバキの手の中で暴れている。
対してウツギは川の中に足を付け、抜刀した状態で集中していた。
――今だ!
瞬間、ウツギが川の中で剣を振るうとその場所が爆発したように爆ぜ、水しぶきが舞い数匹の魚が川岸の方へ飛ばされる。
「ひーふーみー、うん、これで5匹目だね」
「ずるいぞウツギ、男だったら素手で魚を取るもんだぞ」
「魚を取るのに素手じゃなきゃいけないなんて聞いたこともないよ」
「そりゃそうだ。今私が決めたルールなんだからな」
「じゃあ守らなくても良いね」
そう言って再度集中するウツギに、呆れ顔になるツバキ
「な~ウツギ二人合わせて魚10匹にウサギが3羽もいるんだぞ、もうこれで良くないか?」
「いやいやまだまだ足りないよ。あと10匹は取らないとお腹いっぱいにならないもん」
「もんってお前……」
そうツバキが言ったその時であった。上空から巨大な影が二人を包み込んだのだ。
「ん?」
最初に気付いたのはウツギだった。ウツギは上空の影に気付くと上を向く、そしてその正体に気付くと目を丸くしてツバキに怒鳴る。
「ツバキ!!竜だ!!装備を回収して逃げるよ!!」
「竜?なんでこんなところに?」
「いいから急いで!!」
相互不可侵の契約があるとはいえ、タビラコは竜に出くわしたら逃げろと言っていた。幸い竜はまだウツギたちに気付いていない様子である。逃げるならば今が絶好の機会だ。
ウツギたちは捕らえた獲物もそのままにし、装備を回収すると走って山の中に入って行く。
「どうして竜がこんなところにいるんだよ!」
「そんなこと僕に言われてもわからないよ。けど、ベースキャンプまで行けば一先ずは大丈夫だろうし、急ぐよ」
言ってウツギは身体強化の魔法を発動させ速度を上げる。ツバキもウツギに続いて身体強化の魔法を発動させウツギの後を追った。
しばらくしてウツギたちがベースキャンプに着くと二人は一息を吐く。
「これで一安心だ。ツバキしばらくしたら先生に報告に行くよ」
「おう、しっかし森の異変の正体は結局竜だったな」
「考えうる最悪の事態だね。どうする?信号弾を一応撃って置く?」
「いや、竜に気取られる恐れがあるからそれは止めておこう」
「それもそうだね。今はしばらく身を隠して――」
言いかけてウツギは言葉を無くした。竜の羽音が聞こえたからだ。その羽音はどんどん大きくなっていき、やがてウツギたちの目の前に巨大な赤竜が現われたのだ。赤竜は轟音と共に地面に着地するとウツギたちを見据えていた……
同音ギフテッド~角の無い鬼と蔑まれた鬼は同音スキルを駆使して生き抜きます~ ウツロうつつ @tank-u
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