第拾陸話 野外実践訓練2

 ウツギの野外実践訓練のペアがツバキに決まってから一週間後、ウツギたちは野外実践訓練当日をむかえていた。


 ウツギは自前の一角熊の装備一式を装備しており、ツバキは自身の髪と瞳と同じ色をした皮鎧にこれまた赤色の手甲を装備し、今か今かと野外実践訓練の開始を待っている。


「ウツギ!お前の装備全身一角熊製じゃないか、そんな高価なものどうやって手に入れたんだ?」


「一年前に村の近くの森で偶然一角熊に出くわしてね。その時にウルシと一緒にホーンベアを斃したんだよ」


「へ~ホーンベアって言ったら大人でも苦戦する魔物じゃないか、流石だな」


「まあ辛勝だったけどね。危うく殺されるところだったよ」


「それでも勝は勝だぞ、流石はあたしのライバルってところだな」


「今のツバキならホーンベアくらい簡単に斃せると思うけどなぁ」


「それは当然だな」


 言ってツバキはへヘンと胸を誇らしげに張る。


 ウツギとツバキの二人がそんなやり取りを続けていると、タビラコが現われ気だるげに口を開いた


「よ~し、全員揃ってるな、それじゃあ野外実践訓練の最終確認をするぞ。場所はこの茨木山で行うわけだがこの山には一つだけルールがある。それは竜の住処のある頂上付近には絶対に近づかないこと。近づかなけりゃあ竜の方から俺たちに近づくことは無いからな」


 そこまで聞いて疑問に思ったウツギが手を挙げる。


「どうして大丈夫だと言い切れるんですか?」


「竜と女王様が相互不可侵の契約を結んでいるんだよ。だからこちらから近づくなんて命知らずな行動をとらなきゃ大丈夫だ」


「なるほど、それでこんな場所でも野外実践訓練が出来るわけですね」


「ま、そういうことだな。それじゃあ今からお前らに緊急時の信号弾と発信機を渡すから各自それを受け取ったら訓練開始だ。他に質問はあるか?」


「もし、たまたま山頂から降りてきた竜と出くわしたらどうするんですか?」


「全力で逃げろ、逃げりゃあ竜の方も追ってくることはないからな」


「わかりました」


「他に質問のあるヤツもいなさそうだし、信号弾と発信機を配るぞ」


 言ってタビラコは筒状の信号弾と、イヤーカフス型の発信機を生徒全員に配る。ウツギはそれらを受け取ると発信機を右耳に装着する。


「よし!全員発信機は装備したな。それじゃあ訓練開始だ全員山に入れ」


「「はい!!」」


 言って生徒全員が一斉に動き出す。まずはベースキャンプの場所の確保。場所は当然早い者勝ち、ウツギとツバキもベースキャンプの場所を確保するために動き出す。


「ウツギ私に付いてこい、去年使った場所があるからなそこをベースキャンプにするぞ」


「わかった」


 ツバキは早速身体強化の魔法を使用して山中を駆けだす。それに続くようにウツギも身体強化の魔法を使用してツバキの後を追う。


 そうしてしばらくするとツバキは急に止まり、不思議に思ったウツギはツバキに語りかける。


「ツバキ目的の場所に着いたのかい?」


「し!!ウツギ声を落とすんだ」


 ツバキの真剣な眼差しである一点を指差す。その先をウツギが見るとそこは開かれた場所で一匹の猪がいた。


「よかったなウツギ、アソコが私たちのベースキャンプになる場所なんだが、たまたま獲物も一緒だぞ」


「それで、どうするの?」


「当然あいつを狩る」


「わかった。僕は何をすればいい?」


「二手に分かれてあいつを挟撃する。攻撃は私がするからウツギはあいつの正面に回り込んでくれ」


「わかった」


 言ってツバキとウツギは猪を挟撃するべく動き出す。ウツギは猪に気取られないよう慎重に動き猪の正面まで移動すると、ツバキの合図を待つ。


 そしてツバキが猪の後方に移動しフレイムランスを出現させる。すると猪はツバキのフレイムランスに気付いたのか突然逃げ出す姿勢を取った。


「まずい気取られた!」


 瞬間、ウツギは抜刀し身体強化の魔法を再度発動。一瞬で猪に肉迫すると猪の首を両断した。


「ふう」


 ウツギが吐息を一つこぼすと、ツバキが草むらの中から現れる。


「ごめんなウツギ、気付かれちまった」


「結果オーライだよツバキ」


「しっかし、おかしいなぁ去年なら気付かれることもなかったのに……」


 小首をかしげるツバキ。


「気が立っていたんじゃないかな?」


「たまたまか?それに去年はこんな浅い場所に猪はいなかったんだよなあ」


「たまたまは2つも同時には存在しえないということ?」


 ウツギの言葉に真剣な表情で頷き返すツバキ。


「もしかしたらこの山で何か起こっているのかもしれない」


「例えば?」


「強力なモンスターにこの場所まで追い立てられたとか……」


 強力なモンスターと聞いてウツギの脳裏に竜の存在がよぎる。しかし、竜と女王の相互不可侵の件もある。竜の存在はそこまで考えなくても良いだろう。


「猪がここまできていたことについては気がかりだけど今は訓練に集中しよう」


「そうだな、それじゃあ獲物を捌くとしようか」


 言ってツバキとウツギは解体用のナイフを取り出し、猪の解体を始めた。


 この時のことを後になってウツギは後悔することになる。なぜこの時山の異変をすぐにタビラコに進言しなかったのかと、そうすればあんなことに巻き込まれることはなかったのにと……

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