第拾伍話 野外実践訓練1

 ロイド・グリエスタの失踪から数か月後、ウツギは学園の授業を通じた自己研鑽に努め続け、メキメキとその実力を伸ばし続けていた。


 そんなある日のことであった。ウツギのクラスの友人である獣人族の少年――ロウガがウツギの席にやってきて語りかけてきた。

 

「ようウツギ、座学の調子はどうだ?」


「皆さんの協力もあって遅れていた分をなんとか取り戻せそうです」


 そう笑顔で返すウツギに、ロウガを腕を組んでウンウンと頷いてみせる。


「そうか、それなら良かった。俺は座学はちょっとばかし苦手で人にものを教えることなんてできないからな、お前のことが少し心配だったんだ」


「そうですか、心配してくれてありがとうございます」


「いいってことよ、別に俺は心配以外何もしていないしな」


 言ってがははと豪快に笑うロウガ。ウツギにとってロウガの存在はとても大きなものであった。

 

 ウツギは変わったと言っても外交的な性格になったというわけではない。内向的な性格はそのままで、多少外交的になった程度、友人作り苦労するタイプの性格なままである。ましてや閉鎖的な田舎に住んでいたということもあってクラスになじむのに苦労していた。


 そんなウツギに助け舟を出したのがロウガであった。ロウガはクラスで孤立しかけていたウツギに授業以外で勉強を教えてくれる者を見つけてくれたり、男子寮のルールを教えてくれるなど学園で生活する上で必要不可欠なことを教えてくれるなど様々な世話を焼いてくれたのだ。


 ウツギはそんなロウガに感謝してもしきれないほどに感謝していた。


「ほんとロウガには感謝してもしきれませんよ」


「んだよ急に」


「僕はロウガなしでは学園で生活するのに苦労していたってことですよ」


「褒めるな褒めるな、お前に褒められると背中がかゆくなっちまうよ」


 言いながらわずかに顔を紅潮させるロウガは、話を逸らすために「そう言えば」と前置いて続ける。


「そろそろ野外実践訓練の時期だな」


 聞きなれない言葉に首を傾げるウツギ。


「野外実践訓練って何ですか?」


「言ったまんまだよ。酒吞の近くに茨木山ってデッカイ山があるだろ?その山で3日間の野外訓練をするんだよ」


「具体的にどんな訓練をするんですか?」


「座学で野外活動のイロハについては習っただろ?今度はそれを実践形式で行うってやつだな。平たく言えばキャンプだよキャンプ。ただし、食糧なんかは自分たちで調達しないといけないけどな」


「それってキャンプなんですか?むしろサバイバル訓練って言った方がしっくりくるんですけど」


「平たく言えばっていったろ、山に慣れてる俺からすればキャンプもサバイバル訓練も変わりはしねぇよ」


「それはロウガだからでしょう?それに茨木山って言ったら竜の住処だって聞きますけど本当に大丈夫なんですか?」


 ウツギがそう言ったその時であった。


「大丈夫じゃなきゃ野外訓練の許可なんて降りはしないぞ」


 教卓の前にいつの間にやらタビラコが来ていた。


「おらロウガ、休み時間は終わったぞ。さっさと席につけ」


「へいへい」


「はいって素直に言え、バカヤロウ」


 言われてロウガは気だるげに自身の席に着く。それを確認したタビラコはクラス全体を見回した後に口を開いた。


「それじゃあ授業を始めるぞ、と言ってもこの時間はウツギたちが話していた野外実践訓練についての説明なわけだが……ぶっちゃけ去年と一緒だ。一週間後、お前たちにはペアを組んでもらって3日間茨木山で野外訓練をしてもらう。装備は学園支給の物もあるが、自分で用意できる者は自分で用意したものを使って良い。因みにおやつは無しな、それじゃあそれぞれペアを組め」


 言われて生徒たちは各々慣れ親しんだ者とペアを組みだす。残されたウツギは早速ロウガとペアを組もうと席を立つ。が、ウツギは制服の袖を掴まれ勢いを削がれてしまう。ウツギは嫌な予感がした。そのためあえて袖を掴む者の正体を見ようとはせずに袖を振りほどこうとする。しかし、ウツギの袖を掴む力は強く振りほどくことは出来ない。振りほどこうとするウツギと、そうはさせまいとする正体不明の何者か、何度か同じやり取りを繰り返す両者は、結局ウツギが折れる形で決着が着いた。


 ウツギは長い溜息の後に口を開く


「何か用かいツバキ」


「用って決まってるだろウツギ、あたしと組め!!」


 嘆息しながらウツギが振り返るとそこには両手でガッチリとウツギの制服の袖を掴んでいるツバキがいた。


「男女のペアが組めるわけないだろう」


「何でだ?」


 首を傾げながら純粋な眼差しをウツギに向けるツバキ


「何でって何かあったらどうするんだよ」


「なにかって何だよ」


「それは……」


 言って何かを想像するウツギ。ウツギはまだ11歳なので想像したこともとても可愛らしいものであるのだがそれはそれ、ウツギは頬を紅潮させ押し黙ってしまう。


「ウツギは私と組むのが嫌なのか?」


 若干声のトーンが落ち、うつむいてしまうツバキにウツギは困り顔。


「そうじゃないけど……先生ぇ……」


 ついにはタビラコに助けを求めてしまう。


「なっさけねぇ声を出すなよウツギ」


「助けてくださいよぉ」


「残念だがウツギ俺は同性でペアを組めなんて一言も言ってねぇ、意味わかるな?」


「えぇ~何かあったらどうするんですか?」


「実践訓練においてお前が心配するようなことはねぇよ。むしろできるモノならやってみろって言いたいくらいだよ」


「言ってるじゃないですか」


「揚げ足取るんじゃねぇよ。兎に角男女のペアも問題なしだ」


 逃げ場をふさがれたウツギはツバキの方を見る。ツバキは未だにうつむいてウツギの返事を待っていた。そこでウツギは覚悟を決めてツバキの方へ向き直る。


「良いよツバキ僕と一緒に組もう」


「本当か!?」


 うつむいていたツバキはパアと明るい向日葵のような笑顔をウツギに向ける。


「本当だよ」


「いやったあ!!」


 こうしてウツギの野外実践訓練のペアが決まったのであった。

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