第23話 夜明に、どんぞこ

 朝日に照らされ竪穴の中にまた光が差す。

 この穴わずかに斜めに開いてるようで底には光が差さない。

 あと少しだとは思うんだけど早く地面に降りたい。

 

 私を抱いて寝たニコラは肌艶がいい。元気いっぱいだ。

 私は少し疲れている。ぼろぼろである。

 あれ、これいつものことだったわ……


 まあ、下に着いた時には頼りにしたい。


「あれ、今底で何か光った気が……」

「え、どこどこ?」


 壁面をつたって下るのを再開して数分。

 ニコラが穴の底の方で何かを見たらしい。でも私にはわからなかった。


「一瞬でしたが何か赤い光が見えたと思ったのです。炎のように揺らいでいました」

「私たち以外の囚人かな?」

「いえ、それはないのではないかと。ここまで下だとゴーストの危険があります。普通の人間がここまで降りようと思うのは変です」

「だとするとどちらにしても敵の可能性が高いのか」


 ゴーストなのか、他の獣か。

 あるいは敵側の魔女か。まあ、魔女はないな。

 その場合こんな回りくどい方法で私たちを殺そうとしておいて、わざわざ出向いてくるとは思えない。


 火を使う獣ってどんなのがいただろう。今まで森で見た魔獣を思い出す。

 そうそう、この世界魔法を使える生き物も多いらしいんだよね。

 代表なのがドラゴン。あの巨体が空を飛べるのは魔法以外にない。


「ヤバ、昨日の夜その対策しないで寝てたよ。出会わなくてよかった」

「ああそれは平気ですよ。獣除けの香木も一緒に焚いてましたからね」


 知らないうちに対策済みだったらしい。やっぱりこの世界の常識と私の常識に乖離が大きすぎる。色々覚えたつもりだけどまだまだだ。


「どうやら底みたいですね……」

「亡者がいない? 逆に怖いんだけど」


 広い平らな面に着く。たぶん竪穴の底だと思うのに亡者の影はない。

 壁からの反射でいくらかは明るいけど明かりが欲しい。


「亡者を呼ぶことになるかもですが、火を焚きましょう。暗すぎます」

「真っ暗で襲われるよりは武器にもなるし、いいのかな?」


 降りた壁すぐわきでニコラは火の準備を始める。

 亡者たちは日の光をなぜか嫌う。ここならまだ襲われにくいはず。

 その時上から何かが降ってくる。巨大だ。

 そう思った時には私はニコラに投げ飛ばされていた。


「ニコラ、嘘、ニコラ返事して⁉」


 上から降ってきた大岩。ニコラはその下敷きになって消えた。

 私もその衝撃に穴の奥に投げ出される。

 奥から亡者たちの唸り声が聞こえ始めた。


「ニコラ。ニコラが、殺された……」


 目の前に広がる暗闇。そして絶望。私にできることはもうない。

 ニコラのいない世界……


 私はそのまま亡者どもの餌食になる。ああ、痛い苦しい。

 でも、これは前世でも味わっている。痛みよりも胸の中でくすぶる思い。


「ニコラ、ニコラを返せ」


 その思いがふつふつと熱へと変わる。周りが赤い燐光に包まれる。


「貴様ら全員、消えてなくなれ」


 紅い炎が白へと変わる。そのまま穴の中を真昼に変えた。

 魔法は魂の残り火の熱を種火に使う。


 ならば自身の魂を犠牲にすれば魔法は使えるはずなのだ。

 ぼろぼろの体から流れ落ち、紅い血は光ながら魔法へと変わっていった。

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今宵も魔女は寝られない 氷垣イヌハ @yomisen061

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