第22話 夜中は、あなぐら

 ただ下に、下へと進むだけと言ってもなかなか難しかった。

 岩肌は崩れて出来た断崖。下手に触ると砂岩の壁ではかえって崩れる。

 踏み位置を考えていかないとそのまま奈落の底まで落ちかねない。


「まだ底見えないよ。もうだいぶ降りたはずなのに」

「そうですね。光がない状況ではこれが限界でしょう」

「じゃあここで休もうか?」


 普段のフカフカベッドが恋しい。

 でも今は固い岩場にじかに寝ころぶ。亡者もここなら来ても底に落ちるだけだ。

 対処の必要もないだろう。怖いのはゴーストぐらい。

 というか出会った時点でお終いだ。

 武器がそこらで拾った木の棒だけの状況では追い払うのは難しい。


「植物は意外と生えてるよね。食べれるの少ないけど」

「足場が悪くなければ獣も狩れますけど、ここまでもろい足場では下に落としてしまうだけですね」

「それ、木の棒で殴りかかろうってことでしょ。絶対やめてよ。落ちたら洒落にならない」


 私の方は木の棒と植物の蔓で弓矢を作ってはみたものの穴の反対までは届かない。

 力のせいもあるけど弓矢の質がこれ以上は上げられない。

 竪穴は楕円状で一番狭いところでも30メートルはありそうだ。

 岩壁に沿うように移動するヤギっぽい生き物はみたけど狙える距離じゃない。

 食料確保のためにらせん状に降りてきたものの食料は少ない。


「木の実が水分補給のかなめですね。幸い割と見かけるので何とかなりそうですね」

「後はこれか……」

「いやですか、これ意外とおいしいんですよ?」

「いくらしっかり焼いててもねぇ……」


 そう言いつつも手にもった串に噛り付く。見た目は完全に無視。

 うん、虫だね。完全にいもむしである。しかも、でかい。


 独特の苦みが広がるものの脂身とうまみが後から来る。

 食感はエビに近い。でも塩気がないし苦みが後を引く。美味しくはない。

 ニコラは平気で食べている。


 旅人の心得だと木の枝やらなんやらであっという間にニコラは火を起こしてそこらの葉っぱについていた虫を次から次に捕まえて焼き始めた。

 食えるけどやっぱ嫌だなあと思ってしまう。言える状況ではないので我慢する。


「これで約半分だとは思いますよ?」

「なんでわかるの?」

「上からの風の流れが微妙にここで弱くなっています。底からの吹き帰りとぶつかっているのでしょう」


 なるほどとか思うけどそんな風とか感じないし、さっきから鼻が利かない。

 臭すぎるんだろうなぁ、この竪穴。亡者の巣窟だから。

 でも出会った亡者は下に落とすだけだから戦いやすい。

 這い上がってこないことだけを祈る。


「あれだけ蹴落としたのです。そこにはものすごい数の亡者の群れがいるでしょう。戦うことは絶対に考えてはいけません。まずは魔石の確保からです」

「うん。まあ今回はいい方法が使えるもんね~」


 そう言いながら狭い壁のくぼみに身を寄せ眠る。

 あ、ヤバイこの子寝相がすごく悪いんだった。


 その晩私はニコラの抱き枕兼落下防止クッションになった。


「うへへ。どうしました、今日は。ステラの方からくっついてくるなんて珍しいですね?」


 ニコラはなぜか嬉しそうに私の背に腕を回し、胸に顔を埋める。

 そこからはひどいものだった。ニコラの自重がなかったからだ。

 前よりも仲良くなったからかスキンシップが激しい。

 その晩もやっぱりよくは寝られない。


 早く脱出しないと体がもたない……

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