最終話 お隣さんから約束された優しさが運ばれてくる

 秋稲と二人で公園にやってきた。


 ここで何を話すか。多分だけど、秋稲も俺も同じ言葉が出てくるんじゃないかという期待感がある。


 賑やかな文世ロードの外れにある公園のせいか、予想以上に人けがない。もしかすれば、こういうところをあえて選んだのかもしれないが。


 いつもどれくらい人がいるか分からないが、座れるベンチが設置されていたのでそこに二人並んで一緒に座ることに。


「ふぅっ……」


 緊張が解けたのか、座ってすぐに秋稲がため息をついた。


「やっぱり無理してたんだ?」

「う、うん。でも、思ってた以上にみんなが受け入れてくれたから安心したかな~。こうくんは?」


 あれ、呼び方が変わってる?


 以前よりももっと親しそうな感じだな。


「俺は正直言ってびっくりした。まさか秋稲が嘘っていうか盛大なハッタリをするなんて予想してなかったから」

「うん、それは私もそう思う」

「村尾には逃げられたけど、村尾の名前は出さなくて良かったのか?」


 あの場面で上手くいなくなりやがったからな。


「あの人はもういいの。どうせ逃げられないし……」


 おぉ、何だか怖い意味に聞こえるぞ。


「それって、可織ちゃん先生が何か関係してる?」

「うん。あの人が廊下に出て行ったあと、指導室に直行って聞いたの。だから何も心配しなくてよくて、私なりにハッタリをすることが出来たかな」


 あぁ、そういう意味か。どうりで可織ちゃん先生も余裕ぶっていたわけだな。普段は姿を見せない指導担当が待ち構えていればもうどうしようもないもんな。


「それはまぁ、いいんだけど……許嫁っていうのは――」

「――嘘です。私も幸くんの両親にお会いしたことないですもん。もちろん、聞いたことないです。だからクラスのみんなには落ち着いたらちゃんと言うつもりです」

「そ、そうだよな~。俺もおかしいと思ってた」


 安心したような寂しいような。


「でも、嘘でもないかもです」

「へ?」

「いい加減私も言わなきゃだし、幸くんも言いたいことがあるかなって思ってここに来ました。あるよね?」

「あ、あるかな……」


 そうなると俺から言うのが良さそうだな。


「私、栗城幸多くんにずっと片思いしてたんです。最初告白されてからずっと……」


 そう思っていたら秋稲からあっさりと逆告白された。


「え? 片思い? しかも俺が告白してから!? え、あれ、でもその時に俺とはズッ友だって言って振ったんじゃ……」


 あの時は俺以外にも数人ほど近くで隠れていて、それこそ戦友となった村尾もすぐに秋稲に告白をしていたが結果はズッ友だったし他の男子も同様に終わった。


 それなのにあの時から片思い?


「男子たちは遊びで告白してきてましたよね。次から次へと……隠れてることくらい気づいてました。でも、幸くんは一番最初に真剣に告白してきました。それって、本気だから……だよね?」


 もちろん本気だったし、誰に言われたでもなかった。俺が告った後の連中があまりに多すぎたから秋稲自身にその気がないと思ったくらいだった。


 それがまさかの――?


「本気も本気! 今もずっと好きのままで、でもズッ友だからそれ以上はって思いながら過ごしてきたっていうか……って、いやっ、今のは……」


 自然に告白してしまっていたな。


「好きって気持ちはずっと気づいてたよ? でも、私も幸くんと同じ……ズッ友だからこのままでもいいかなって思ってた。だけど、あの人の問題もエスカレートして怖くなって、どうしたらいいのかなって思ってたらもう認めるしかなくなって……つまり、ずっと好きが変わらなくて」


 秋稲なりにひた隠しをしながらきたわけか。


 そうすると俺も素直に認めるしかない。


「俺もずっと片思いしながら友達として我慢してたけど、もう我慢しない。だから俺は秋稲と――」


 見つめあっているし後はもう気持ちを載せて――するだけで伝わる。


 ――そのはずが。


「じゃあある意味許嫁だよね?」

「えっ、あ、そ、そうなるかな」

「それなら今はまだ、みんなに分かりやすいようにしないで過ごそっか?」


 俺だけキスの体勢にしかけていたのがアホッぽいぞ。


「つまり?」

「これまでどおり、仲のいいお隣さんで! ううん、ちょっとだけ関係が進んだお隣さんで」

「えぇぇ……俺も秋稲も好きなのに?」


 青夏にはとっくにバレてるはずだし何も問題はないはずなのに。


「うん。幸くんにはまだ解決しなくちゃいけないことがあります。それは何でしょう?」


 俺の問題が残ってる?


 なんだっけ――いや、ある。あったな。


「花本との関係……か?」

「正解! 許嫁発言でショックを受けていたのは見えていたよ。でも、彼女から幸くんを振ってくれないとまだ多分駄目だと思うんだ。学年が上がるまで幸くんには頑張ってほしいなぁと。頑張れる?」


 意外にきちんと見ているものなんだな。しかし、そうか花本との関係か。


 許嫁にはならないけど、ずっとその時を待っててくれるって意味なら俺の問題は俺が何とかするしかないんだな。


「が、頑張ります……」

「うん! じゃあ、握手しよっか」

「よ、よろしく」


 キスはお預けの代わりに握手をして、お互いに約束を交わすのが精いっぱいといったところだった。


「うんうん。芽衣ちゃんは厳しい子だから、耐えてね?」

「うぅぅ」


 秋稲から約束された優しさをもらいながら、まずは本当に俺の問題をどうにかしなければ。 


「耐えられなくなっても私が幸くんにたくさん優しくするから、だからこれからもよろしくです!」

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ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件 遥風 かずら @hkz7

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