『天女の羽衣』の解説

羊屋さん

解説があると読みやすくなりそうな言葉や表現の説明

・ウスバシロチョウ(薄羽白蝶)


透き通るように薄い翅を持ち、その色は白く、遠目に見るとモンシロチョウと似ています。モンシロチョウは羽ばたきが多めですが、ウスバシロチョウはあまり翅を動かさずハラハラと舞うように飛びます。


その美しさから“天女の羽衣”と呼ばれることがあります。


ウスバシロチョウは絶滅危惧種に指定されている地域もあり、やや珍しい昆虫と言えるでしょう。


幼虫の頃はケシ科のムラサキケマンなどの毒草を食べます。成虫になる頃には体内に蓄えられた毒で鳥からは狙われず、日中も優雅に飛び回ることができるのです。

成虫になると基本的に、ネギやポピーやムラサキケマンの吸蜜のみで過ごしますが、花弁や葉を齧ることができる口吻こうふんという器官を持つため、毒が多い部分も摂取できます。


お隣さんが「そういえば君どうして夜に飛び回ってたの?」、「まぁ、鳴き方が上手じゃない鳥もいたりするし」……などと言ったのは、主人公の食事について心配したからです。

幼虫の頃にあまり毒草を食べなかったから夜に飛ぶしかなくなっていたのかな?とお隣さんが心配して、ムラサキケマンをお花屋さんから買ってきてくれました。そして、蜜だけでなく、毒が多く含まれる花弁や葉も食べてほしいと話しかけていたのです。


また、ウスバシロチョウは成虫になってからの寿命が数ヶ月〜1年ほどと長めです。


お隣さんは、書いた本人も明確に決めていませんが、末期がんなどで余命が2ヶ月をすぎた頃に主人公と出会っています。


余命僅かの時期にウスバシロチョウ=天女の羽衣と出会えたことを非常に嬉しく思い、自分の魂を天に送ってもらうつもりでいたのでしょう。


もちろんこの蝶が自分をよく知る元人間だなんてわかりませんから、自分は今日が山だな、と思ったときにいつでも安全に外に出られるよう、主人公には毒蝶になっていて欲しかったのです。



・“光”の要素


昆虫には走光性そうこうせい(光に向かっていく、もしくは光を避ける)の性質があります。


書き初めは、知性が人間のまま虫になってしまった方が、どの光に飛び込みたいかな……と彷徨う話にしようかと思っていたのですが、お隣さんがポップしたので路線変更しました。


最後(最期?)のシーンで、ウスバシロチョウは太陽の光に向かい飛び続けます。蝶の飛べる高さは1000m前後までと言われますが、主人公には翅が動かなくなりそうでも、限界まで飛んでいってもらいました。おそらくどこかの高さで強い風にあおられてバランスを崩し、墜落したとは思います。



・作中の季節


ウスバシロチョウの成虫とムラサキケマンの花が咲く時期に合わせ、5〜7月くらいをイメージしています。

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