11th Lesson『国語教師の助手、TSする』

【ノックリース魔術学校,職員室にて……】


 昼休みも終盤。

 俺は職員室でアマリリス先生と話をしていた。


「──え? 私の授業を?」

「はい。見学させて欲しいんです」


 藤原の無能授業改善の為、俺はモネさんが提案してくれた「他の先生の授業を参考にする」を行う為、授業の見学をお願いしていた。

 頼み相手は勿論、ナルガ理事長派のアマリリス先生以外いない。


「ええ、構わないわよ」

「ありがとうございます!」


 アマリリス先生は快く承諾してくれた。


「でもアナタは大丈夫なの? 授業あるんでしょ?」

「あー、大丈夫ですよ。俺は茶色チョークの補充係なんで」

「……茶色チョークなんていつ使うの?」

「メインで使ってますよ。嘘みたいですよね」

「嘘みたいだわ……」




【ノックリース魔術学校,とある教室にて……】


 昼休みが終わり、午後の授業。

 アマリリス先生の授業を見学しに来た俺は、彼女の授業に度肝を抜いた。


「今日は部位変化ぶいへんげの魔法を実践してみましょう。昨日教えた魔法陣を、変化へんげさせたい部位に書き込んで、詠唱してみて」


 女生徒たちは腕や脚に、はたまた友達の顔にペンで魔法陣を描く。

 そして、口々に呪文を唱え始める。

 ──すると、陣が描かれた身体の一部分が、別の生き物の部位に変異した。


「うおぉ……すげえ……!!」


 驚きのあまり声が漏れる。

 あの娘は脚が馬の脚に、あの娘は腕がタコの触手に、あの娘は髪の毛がヒトヒトメンに変化している。

 ──これが、魔法か!!


「……皆、上手に変化できてるわね。じゃあ次はもう少し難しい、全身変化──変身魔法をやってみましょう」


 これが、異世界の授業。

 なんて興味深いんだ。寝る暇なんてないぞこりゃあ。

 ──というか、なんで俺は異世界に来てまで国語やってんだ?

 国語なんて一番要らない科目でしょ。


「ワキバラ先生」


 その時、アマリリス先生に名を呼ばれた。


「ちょっと前に来てくれる?」

「あ、はい」


 教室の一番後ろから授業を見ていた俺は、生徒たちが座る席横の階段を降り、黒板の前へと移動する。


「……試しに今から、ワキバラ先生を変身させるわ!」

「え、聞いてない聞いてない。先生、どういうこと?」

「変身魔法全般に言える事だけど、変化前と後で質量は変わらないの。だから、巨人に変化したって力が強くなることはないわ」

「いや、そんなこと聞いてない聞いてない」


 なんか俺が見本として変身させられる流れになった。


「……それじゃあワキバラ先生、服を脱いで♡」

「え、なんで?!」

「魔法陣を描くためよ。ほら、早く」


 アマリリス先生に無理やり服を脱がされる。


「や、やめて! 変態! 何するの! やだ!」


 こんな大勢の女生徒の前で裸になるなんて、ただの羞恥プレイじゃないか!

 俺は必死に抵抗する。

 ──しかし、思いの外、アマリリスの力が強くて、抵抗虚しく、俺は上半身を裸にされた。


「……もう、お嫁に、いけない……」


 泣く俺。

 興味津々に俺の身体を凝視する女生徒たち。

 それら全てに構う事なく、俺の下腹部に魔法陣を描く変態アマリリス。


「──よし、描けたわ!」


 下腹に魔法陣が描かれた。

 ──この魔法陣、形が卑猥だな。場所が場所だし、淫紋みたいでめっちゃ恥ずい。


「それじゃあ、魔法を発動させるわ!」

「……ちなみに、俺は何に変身させられるんですか?」

「……」


 アマリリスは目線を逸らし、呪文を唱え始めた。


「ちょ! なんで目ぇ逸らすの?! 俺は何に変身しちゃうの?!」

「イクわよッ!!」

「イクなッ!!」


 瞬間、俺の下腹部の淫紋──じゃなかった、魔法陣が輝き出す。

 そして、全身に熱い何かが込み上げてきた。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」


 鼻息を荒くする女生徒たちの目の前で、俺は変身イってしまった。


「あ……ぁ…………」


 虚脱感の中、変身の副作用とも言える快感の余韻に浸り、脳の覚醒を待った。

 その最中、アマリリスの声が俺の鼓膜に響く。


「成功ね。見事なおっぱいよ」


 見事な……おっぱい……?

 ──段々と意識が鮮明になり、自分の身体に起こった変化に気づく。


「こ、これはッ────!!」


 俺の胸には見事なおっぱいが付いていた。

 髪も長くなっていて、声も変。

 そして、股間に違和感が……!


「そう。アナタに今かけた魔法は、変身魔法の中でも、最も高度な部類────TS魔法よ!!」

「てぃ、TS魔法ッ?!?!」


 俺は女の子に変身TSした。

 辺りからは女生徒たちの歓声が響く。


「TSっ娘よ! 本物のTSっ娘だわ! きゃー!」

「まだTSしたばかりで男の自覚が残ってるTSっ娘よ! きゃー!」

「ここから私たちがオシャレとか教えて、本当の女の子として意識を変えていくのね! きゃー!」

「それで心も女の子になっちゃって、地元の親友と付き合っちゃたりするのよ! きゃー!」


 癖が凄いって、ここの生徒たち。

 オーディエンスはさておき、アマリリスは俺に手鏡を手渡す。


「ご覧なさい。これが、今のアナタよ」


 手鏡を覗き込む。

 そこには、超絶美少女の顔が映っていた。


「これが、わたし……?!」


 やばい、ナニカに、目覚めそうだ……!




 ──いやいや、落ち着け俺。その扉を開いちゃいけない俺。

 俺は、絶対に、地元親友タケルとなんて付き合わないぞ!


「アマリリス先生、早く元に戻して下さい!」

「何故? その方が可愛いわよ?」

「いいから早く戻して!」

「いいけど、今すぐは無理よ」

「はぁ?!」

「TS魔法は解除後、徐々に身体が元の性別に戻っていくの。だから今すぐ男に戻るのは無理」


 なん、だと……?!


「まぁ、遅くとも明日の朝までには戻ってると思うから、安心しなさい」

「そんな……」


 ショックを受ける俺とは対照的に、女生徒たちは再び歓喜の声をあげる


「徐々に元に戻るって事は、ちん〇んがゆっくり生えてくるってこと?! きゃー!」

「そんなの観察するしかないじゃない! きゃー!」

「下も! ズボンとパンツも脱いでよく見せて! きゃー!」


 教師も教師なら生徒も生徒だな、この変態共がッ……!!


 とりあえず、TS魔法自体は解いてもらえたが、身体が元に戻ったわけじゃない。

 ──明日の朝までこのままか。

 身体が完全に元に戻るまでは色々と大変そうだな。


 授業が終わり、俺は駆け出す。

 あのまま残っていたら、変態女生徒たちにナニをされるかわからんからな。

 俺はすぐさま教室を後にした。




【ノックリース魔術学校,職員室にて……】


「……お前、誰や?」

「ワキバラです。授業見学しに行ったらTSしました」

「……お前、頭おかしいんか?」

「お前にだけは言われたくない」




【ノックリース魔術学校,F-8教室にて……】


 終礼。

 全ての授業が終わり、俺と藤原は帰りのホームルームを行なっている。


「俺からの連絡事項は特に無い。ワキバラ、お前なんかあるかー?」

「いえ、俺も特には────」

「お前、誰や?」

「……職員室で言いましたよね?」

「あぁ、そか。ほな、生徒の方から、なんか伝えなあかん事ある奴、おるかー?」


 モネさんが手を挙げた。


「おう、お嬢。どないした?」

「『どないした』ではないですわ! 彼女は誰ですの?!」


 モネさんは俺を指差す。

 そりゃそうだよな。ワキバラ先生の代わりに、知らない少女がホームルームに参加してるんだから。

 他のクラスメイトたちも困惑しているみたいだ、当然か。


「彼女ぉー? コイツのことかぁー? ──お前、誰や?」

「ワキバラだっつってんだろ、いい加減覚えろよ」

「あぁ、そか」


 藤原こいつの記憶力、大丈夫か?

 ──俺が彼女たちにTSの事情を説明すると、彼女たちは口々に意見を述べた。


「なるほど、アマリリス先生の授業で……」

「ベロニカちゃんも昔、ナイスバディにされてたもんね」

「おうとも」

「脇谷先生、可愛い……♡」


 皆、藤原よりも察しがよろしく、俺の現状を理解してくれたみたいだ。

 場を鎮め、藤原はホームルームを再開する。


「……ほいじゃ、今日はお終いや。お前ら、家帰ってもちゃんと勉強せえよ。学生の本分は勉強やからな。ワキバラもそう思うやろ──って、お前誰や?」

「お前の記憶力はダチョウレベルか?」


 そんなこんなで、ホームルームは終わり、放課後へと時が移る。

 ──俺はクラスの女子たちに囲まれていた。

 しかし、その中にリーシャの姿は無い。


「脇谷先生」


 最初に声を掛けてきたのは、マーガレットさんだった。


「先生のこと……お姉ちゃんって呼んでいいですかッ!!!」

「やめれい」


 マーガレットさんは一体何を考えてるんだ?

 この娘もあれか、変態か? 変態なのか?



────マーガレットに気をつけて────



 昼休みにベロニカからあんな事を言われたから、俺も彼女に対してそれなりに身構えていた。

 しかし、結果はこれだ。

 まるで頓珍漢なことを言ってくるマーガレットさんに、俺は少し拍子抜けする。

 ──だとすれば、ベロニカが言っていた「あの言葉」の意味は何だったのか。

 一体、彼女の何に、気をつけろと言うのだろう……?


 ──と思案中、モネさんが尋ねる。


「それで、ワキバラさん。何か参考になる事はありましたでしょうか?」

「あー、うん。とりあえず────」


 この時、我ながらトンデモない提案をしたと思う。


「授業、やめようと思う」

「えっ……?!」


 彼女たちの表情から見て、十中八九、俺の言葉の意味を誤解している。

 補足説明が必要だな。


「実習だよ」

「実習……?」

「うん。アマリリス先生の授業を見学してわかったんだ。説明は最低限にして、あとは生徒に任せる。そもそも此処は魔法学校なんだし、魔法を使う前提の授業をすべきなんだよ」


 それをあの無能教師と来たら、やれ「メロス」だの「作者が何を言いたかった」だの。


「それに、生徒が手を動かせば、最低でも『生徒を寝かせない』っていう最低条件はクリアできそうだし」

「確かにそうかもしれませんが……実習と言っても、一体何をするおつもりですか?」

「これだよ、これ」


 そう言って、俺は自分の胸──呪いの刻印を指差す。


「藤田先生には、これから、魔法陣解読の授業をしてもらうんだ。主に、ヤバい系のね」

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藤田転生〜担任の無能教師五十二歳(男)と異世界に迷い込んだら有能教師として返り咲く様を見せつけられた話〜 天谷なや @amayana

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