お土産

日間田葉(ひまだ よう) 

・・・・・

 兄の長男がまだ小さい時のこと。


 仕事仲間で温泉旅行に行った兄は温泉街にあったレトロ感のあるひなびたお店に引き寄せられるように小さいおもちゃ屋さんに入る。


 余り綺麗ではない店内だったが品ぞろえは良く、目についたおもちゃの携帯電話が気に入って長男のお土産にと買ったそうだ。


 家に帰って長男に渡すと早速ボタンを押して遊び始めた。


「こんちは、ボク〇〇、元気?」と携帯電話から音声が流れてくる。


 12個ほどあるボタンはそれぞれ話す内容が違いメロディーが流れるものもある。


 長男も自分からもしもしと言っては楽しそうに遊んでいたが1週間もすると飽きてしまい押し入れのおもちゃ箱に入れたまま親の方もすっかり忘れてしまっていた。


 ある日のこと、押し入れからおかしな声が聞こえてきた。誰かがしゃべっている。


 長男が怯えて泣き出したので兄は押し入れを開けて声の主を探した。


 すると自分が買ってきた携帯電話のおもちゃから声がしていると分かる。


 分かってしまえば何のことはない。ボタンが他のおもちゃに圧迫されて音がしているだけだ。


 箱から出して改めてボタンを押してみると、もう電池がないのだろうかおもちゃの声がどんどんゆっくりと歪んだ声になってきた。


「もぉ~~しぃ、もぉ……し、もぉおおおしぃ……」


 背筋がぞっとするような男の声に気味が悪いと思いながら兄は単に電池が切れただけだと自分に言い聞かせ、裏側にある蓋をとってみた。


 電池は入っていなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お土産 日間田葉(ひまだ よう)  @himadayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ