妖精を探して

暗黒星雲

第1話 真夏の夜の夢は

 僕は妖精を探していた。

 本当に会いたいと思っていた。


 妖精と言えば花の妖精だ。僕が育てているアサガオの花にも妖精がいるのかもしれない。いや、きっといる。そう思った。


 僕は一生懸命考えた。できれば動画に撮りたい。動画は無理でも写真ならどうだろうか。しかしその前に、工夫したならきっと痕跡だけでも見つけられるんじゃないかって思ったんだ。痕跡、つまり足跡だ。


 砂の上に足跡を残してくれないかな?

 

 そう思って、せんべいが入っていた四角い空き缶に海から採って来た砂を詰めた。そしてアサガオの鉢の傍に置いた。


 これで下地は整った。後は妖精さんが遊んでくれるように、おやつとおもちゃを置いておこう。僕は暗くなってから、トミカのミニカーとチョロQ、そして小さいフルーツゼリーを砂の上に置いた。


 ここで妖精さんが遊んでくれるといいな。

 そんな事を考えながら床に就いたんだ。


「洋平君。洋平君」

「誰?」


 誰かが僕を呼んでいる。

 まだ眠いのに。


「洋平君。ね、私達と遊ぼうよ」

「誰?」

「私は朝子です。こっちは夕子よ」


 目の前には水着姿の女の子が二人いた。二人共僕と同じ小学生くらいで、胸に名前が書いてある布地が縫い付けてあった。朝子の方は紫色のショートヘア。夕子の方はピンク色の髪をツインテールにまとめていた。


 よくわからないけど、そこは何処かの公園だった。大きな池があって、芝生の中に東屋とベンチがあって、その脇に花壇があって、色とりどりの花が植えてあった。チューリップとかパンジーとか、ツツジとか。ちょっと向こう側には桜の花が咲いていたし、背の高いひまわりの花も咲いていた。……あれ? 季節がごちゃ混ぜになってる?? 周りの景色は違和感だらけなんだけど、目の前にいる二人の少女にはもっと違和感があった。こんな場所で……水着。そして透き通るような白い肌とアニメのような髪の色にも違和感があった。


「あの……ここは何処ですか?」

「秘密の花園よ。私達と洋平君のための」


 秘密の……って何なんだ。

 さっぱりわからない。


「さあ洋平君。あそぼ!」

「先ずはボートだよ」


 僕は朝子と夕子に手を引かれ、池のほとりにあったボートに乗った。そのボートにはオールが無かったのだけど、朝子の指さす方向へ静かにゆっくりと移動する。


 池の中には色とりどりの錦鯉が泳いでいたんだけど、タイやヒラメやボラなんかの海の魚もいた。何で海の魚が? って思ったところで、ピンクの髪の夕子さんが魚の餌を水面へと投げた。すると水中の魚たちがバシャバシャと先を争い餌に群がった。


「面白いでしょ。さあ、洋平君も」

「うん」


 僕は夕子さんから餌の入った紙袋を受け取って、その中からパンの耳を小さくカットした餌を水面にばらまいた。群がる魚たちを眺めながらパンの耳を撒く。結構楽しいんだけど、餌は直ぐになくなってしまった。


「じゃあ次は虫を探しましょうか?」

「虫?」 

「あっちの雑木林にね、カブトムシが沢山いるの」

「へえー。そうなんだ」

「では早速」


 朝子がニコリと笑った。

 すると突然、僕たちはその雑木林の傍に立っていた。


「え? ボートは?」

「細かいことは気にしない。さあ、あそこのクヌギの木が良さそう。行ってみましょ」


 朝子に手を引かれ、僕はそのクヌギの木に近寄ってみた。その木は樹皮の隙間からたっぷりと樹液を出していたのだ。その樹液にカナブンやスズメバチ、オオムラサキなど何種類もの昆虫が集まっていた。その中にいたカブトムシは、その立派な角を武器に他の昆虫を追い払って樹液を貪っていた。


「さあ、捕まえちゃお」


 夕子がそのカブトムシをひょいとつまんで虫かごに入れる。


「こっちにもいたよ。これはノコギリクワガタだね」


 朝子がクワガタムシを捕まえたようだ。こんなに沢山の虫を捕まえた事なんて無いので、正直、小躍りしたいくらい嬉しかったのは事実だ。


「一杯採れたね」

「うん。良かった」

「ちょっと休憩しようよ。冷たい飲み物とお菓子があるよ」

「え?」


 今度も一瞬で場所が変わっていた。

 雑木林から芝生の上の東屋に。


 中央のテーブルにはアイスクリームが浮かんだメロンソーダが三つ置かれていた。これはクリームソーダだ。


「さあどうぞ。お召し上がりください」

「はい」


 こんな、レストランで注文するようなクリームソーダが出てくるなんでびっくり仰天だ。


 僕は恐る恐るストローを咥えてちゅうちゅうとソーダを啜る。そしてスプーンでアイスクリームをすくって口に入れる。冷んやりとしてて甘くて、口の中でフワリと溶けていく感触が最高だった。


 僕はその極上のクリームソーダを堪能したのだが、何か違和感が出て来た。目線が変だ。グラスを見ている角度が違う。目の前の朝子と夕子も何か変だ。僕と同じ小学生くらいの体が大きくなって、胸も大きくなって、大人の女の人みたいになって、水着もいつの間にか大人の着るセパレートタイプ……ビキニに変わっていた。


 僕もだ。背が伸びていた。そして逞しい体つきになっていて、腕も脚も何だか太くなっていたんだ。


「じゃあ次は、大人の遊びね」

「楽しもうよ」


 朝子は僕の左腕に抱き付いていた。夕子は僕の右手を、彼女の豊かな胸に押し付けた。


「これからどうする。好きにしていいよ」


 朝子が耳元で囁く。


「もっと大胆になって」


 夕子が水着をずらして僕の手を直接胸に押し付けた。その柔らかい感触と硬くなった突起の感触で僕は爆発しそうなくらい興奮してしまった。


「その気になって来たかな? さあ、楽しもうよ」


 僕はその場に押し倒された。地面は芝だったので痛くはない。そして、水着を脱いだ朝子が僕の上にのしかかって来た。


 経験したことがない興奮と快感が僕を襲う。大人の女性の体とはこんなに気持ちが良かったのかと驚嘆してしまった。彼女達、朝子と夕子も僕との行為で快楽を貪っているようで、飽きもせず何度も、僕との行為を求めて来た。僕もこの終わらない性の快楽に身をゆだねたのだ。


「洋平! 起きなさい!! もう8時よ」


 母さんの声だ。

 あれ?

 もうそんな時間?


「いつまで寝てるの? 」


 どうしたんだっけ? 6時半にはラジオ体操に行ってるはず。

 あれれ?


 どうやら寝過ごしてしまったらしい。そして思い出した。そう、昨夜だ。妖精さんの脚跡を残していて欲しいと、砂の箱とお菓子とおもちゃを仕掛けておいたんだった。


 僕は焦って着替えてから、朝顔の鉢へと向かった。

 鉢の脇には昨夜セットした砂の入った缶はそのままあった。しかし、置いていたゼリーとミニカーは無くなっていて、代わりにカブトムシとクワガタムシの死骸があった。僕は昨夜みた夢を思い出した。二人の女の子と遊んでそれから……小学生の僕には説明しづらい強烈な夢だった。


 あの夢は何だったのだろうか。本当に妖精さんが来たのか。それとも誰かの悪戯かも。そう思いつつ、砂の上に小さい足跡が残っていないか見てみたら何か文字が書いてあった。ちょっと読み難かったけど、ひらがなでこう書かれていた。


『またあおうね』

『つぎはようへいをつれていくよ』



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