関係者インタビュー:「指摘」

 …おそらく、私の責任なのでしょうね。


『漁村の今』というテーマでね。

 学生さんが、各地を巡りながら取材をして。


 私は、初めの頃に話をしたもので。

 そのえんで更新のたびに視聴するようになって。


 良い、ドキュメンタリーだとは思いますよ。

 地方の特色もよくとらえてて。


 …そんな、町の一つだったんです。


 珍しく生放送でした。


 車から降りると家々にね。

 ぐるりと囲むように黒い布が巻かれて。


 透けるほどに薄い布だと彼らは言っていました。

 

 …それから、お願いした家に取材に行って。


 いつもどおり。

 漁業の状態とか、村の様子とか聞いていって。


 …でも、その途中で。

 一人が窓から見える布のことを聞いたんです。


 すると、相手の御夫婦ごふうふは首を傾げて。


 ――そんなものは見えないと。

 近隣でも、そんな習慣は無いと。


 今その時でさえ、黒い布は窓で揺れているのに。


 …その時、私は気づいたんです。


 生放送だったので。

 慌ててコメントを打ちました。


 ――それ、の一種じゃ無いですか?と。


 家を覆っているのは布ではなくて。

 生き物では、ないですか…と。


 今、考えればおかしな話ですけど。

 職業柄しょくぎょうがら、見えたものを素直に書いたもので。


 …そしたら、学生さんがスマホを見て。 

 私と、同じことを口にして。


 ――そのとき、ですよね。

 

 夫婦の目が大きく見開かれて。

 何かを早口で話し始めて。


 急にカメラが切れたのも、その後すぐで。


 …次に映ったときには海で。


 固定されているのか。

 カメラは海を映した状態で。


 その先で学生さんが。

 全員で手を繋いで、海へともぐってしまって――


 …映像は、そこまででした。


 生放送は消されて。

 動画の更新もありません。


 …結局、彼らの向かった漁村が何処どこなのか。


 自分なりに調べてもみたんですが。

 何も、分からないままです。


 ――でも、何にせよ。


 私の余計な一言が彼らを不幸にしてしまった。

 今は、そうとしか思えないんです。

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