関係者インタビュー:「行き先」

 …まあ、変わったことするなとは思ったね。


 学生さんがね。

 一人タクシーに乗り込んで来て。


 仲間と実験ドキュメンタリーを撮るからと。


 指定された回数ぶん。

 角を曲がってくれと後部座席で言い始めて。


 金は先払いするからと千円札を四枚置いて。

 

 …正直、何考えてるんだと思ったけれどね。


 まあ、金払うんならと。

 後で釣りは渡すよと走り出してさ。


 …そしたらさ、兄ちゃんスマホを数台出して。


 金持ちだなあと思っていたらさ。

 複数の声が流れ始めて。


 …後で考えると、ありゃ生配信だね。


 赤信号で止まった時にチラリと見たら。

 画面の一つにコメントが流れてて。


 あー、なるほどねと。


 で、指示の通り。

 …というか、声に合わせて曲がって。


 何しろ、タイミングがまったく一緒でさ。


 ハンドルを切る音も耳に入って。

 あ、多分複数で同じことをやってるなって。


 そういや兄ちゃん。

 仲間と撮るって言ってたなと、思い出して。


 でもなあ…変だったんだよ。


 声が一緒なら。

 曲がるタイミングも同じ。


 普通なら、ちょっとぐらいズレるのに。

 

 計算したにしても。

 ここまで上手くいくものかと思いもしたよ。


 …そうしているうちに。

 周りの景色も変わってさ。


 ――うん、霊園に着いたの。

 怪談あるあるというか。


 そしたら、声が『ここで』と唱和してね。


 ブレーキ踏んで後ろを見たら。

 ――まあ、兄ちゃんがいない。


 …あるある、だよな。


 まあ、メーターは四千チョッキリだったから。

 お金はそのままもらう形で。


 本部に引き返したらさ。

 同じような目に遭ったって話を耳にして。

 

 …聞いたら、四人ほど同じ体験をしている。


 そしたら一人が動画を見始めて。

 見たら、さっきの乗車風景が配信されてて。

 

 まあ、動画はそれきり。

 更新はその後もなかったね。


 …ただ、話をすり合わせたらさ。

 全員が最初に乗り込む位置がバラバラ。


 ――なのに、行き先がね。

 場所の違う数か所の霊園だったんだ。


 あげく。

 全員『ここで』で、姿が消える。


 何をどうしたら、そうなるか。


 ――その答えが、動画の中にあってな。


 乗り込む直前に連中の説明が入るんだ。


 それによるとな。

 目的は『人の行き着く先』に向かうことだと。


 その説明で、俺たちもに落ちてさ。

 まあ、それなら仕方ないと。

 

 …え、どこかって?

 そりゃあ、人の行き着く先なんて決まってる。


 ――連中、墓の下にいるんだよ…絶対にな。

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