第11話 サマンサ


 謂わゆるカジノスロット、金色の装飾と鮮やかな電飾で目に優しくは無いが、世界規模の多人数型のゲームだからか配慮は行き届いていた。


「うー……うッ…あ違った…」

優しい光を目に映して、たどたどしくスロットを打つヒサ。初めてのスロットは難しく、ヒサは流れてくる絵柄に目を凝らすが、その速度に翻弄されて、大当たりは一度も無くたまに惜しいリーチまでは行くが、滝流の如くコインを逃していった。


そんなヒサを背後から見ると、絵柄を目で追うと言うか、画面に近づき頭全体をカクカク動かされている。

猫みたいと言えばそうだが、かなり滑稽こっけいな動きをしていた。


「ねー難しくない、目押し?なんてできる気がしないんだけど。」


「まあな、俺も目押しはできない。でもリー…回転のタイミングを掴めば多分ヒサでもできるよ。」


「それが難しいんだよね〜、ヒロは?」


ヒサがいじけてジト目で見た、

その時のヒロシは、


キュイキュイキュイーン

ビビビビッビビビーー

うわぁァァァ!!


輝かしい光で顔面を照らして、白飛びしている。ぱっと見顔の凹凸がわからないぐらい明るく、そして頭の上らへんの心地良い感覚に身を任せて頭の中も真っ白にしている。


「ッッハ!…あぶねぇこれ以上は行ってはいけない場所に、行ってしまいそうだった。あぶねぇ…」


ヒロシは僅かに残ったゲーム脳による理性で誘惑の欠片を振り払う。



「コレとかに依存性があるのって本当かな、だってこんなに難しいんだよっ、依存する前に諦めちゃわない?」

がスロットとネットの記事を見て素直に思ったことを質問した、一度でも大当たりを経験すればハマるって事は分かるけど、こんなに難しいなら大多数は、当てる前にやめちゃうでしょと言う意味で聞いた。


「まあ何にでもあるだろうなぁ、依存性って言うか、楽しいモンには楽しい分の誘惑があるだろ。ゲーム然り競走然り、それに最初はうまく行くんだぜな。」


ヒロシは、自分も一夜ずけで覚えた薄い知識をひけらかし決め顔を見せた時、初めて目があった。

時間にして20分、今までは二人ともスロットに集中し、

「ハァアァァーーー!!」

すぎていた。


突然ヒサとヒロシの目線を遮るように叫び声が聞こえた。

女の子の声がエコーでもかかってるみたいに反響していた、周りの反応もあり、かなり遠くからの声だとわかる。

遠くなのにこの大きさ、電脳世界に入ってから初めての事だった。いや現実でもそうそう聞かない大きな音。


コレは裏の裏の設定ではあるが、

『37verX』のゲームではプライベート空間を作るプログラミングが充実してあり、その一つが周りの音は聞こえなくなる物だが、プログラムを詳しく見てみると「周囲のプレイヤーの声が、距離に応じて小さくなる。」設定だった。

『ある一定の距離以上のプレイヤーの声は消える』では無かった、とは言え倍率は1メートル離れるごとに、50%下がる様になっており、大人の大声くらいなら2メートル離れるだけでも余裕を持って、遮音する事が出来るはず。

それはつまり世界的ゲームの規格外、

にある大声。


二人して、眉が上がってびっくりした顔で後ろを振り返ると、カジノには個性的ワンフォーワンなキャラクターだらけだった。


西部劇に出てきそうなガンマン、は顔半分がサイボーグ化していて、右目だけが怪しく光っている。


ピンク色のバニースーツで、華奢な体型をキツく締め付けて男なら誰もが目を引かれる、かなり際どい姿のバニーガール。


巨躯のドラゴン、緑色のトゲトゲした鱗に覆われている体とは裏腹に、顔はかなりデフォルメされたニコニコ顔になっている。

そしてドラゴンの横に座る、葉巻にサングラス、目の彫りが深すぎてゴルゴ線が出来ている渋すぎるおじさん。

二人は仲が良さそうに喋っていたのだろう、酒の缶にスルメ、7Pチーズなどつまみも置かれている。


魔王みたいな男性、紫色のローブと黒いツノを身につけた、異様に細く顔面蒼白の顔をしている。


この中から声の本人を見つけることは困難を極めることだろう、…あと多分この中にはいないだろう、なぜならみんな驚いた顔して、周りを見渡しているからだ。もし本人だとしたら思っていたより声が出てしまったのか、羞恥心から周りを見て周りと同じ様な動きをして、次からは気をつける事だろう。

今、そんな顔を赤くしてる人は、近くには居ない。


…〜なら、まあいっか。

多少の不完全燃焼感があったが、偶然起きたちょっとしたミスだろうと考えて、ゲームに戻り、また変わらず平和な日常に戻った。


数分後


「結構減っちゃったなー、コインを落としてないだけ良いか。」

「溶かしてはいるけどな。」


ヒサはイタズラな顔をしている、ヒロシの言葉にムッとして質問をし返す。

「じゃあアンタはどうなの?」


「今現在、23000だ。」

腕を組みながら、既に立てていた指の本数を二から三に変えて相手に見せる。


「カッコつけてんじゃ無いよ、ハゲ。」

「ハゲてねぇよ、立ち方はおんなじだけどカッコいいM字にハゲてねぇよ!」


二人はまだ見ぬ筐体を探しにカジノの中を歩いていた、するとまた、さっきよりは大きい声が聞こえた。


通路が十字に伸びた道、自分たちが立っていた場所は、十字の中心から上に歩こうとした直後、声は通路に面したスロットから、今さっき通った背後からから聞こえた。

少し振り返ってそこを見ると、誰かがいた。


何人見たかもわからないぐらいの、小柄な体型の獣人タイプだ。

男女問わずに人気のアバターで、衣装としてダウンロードすれば、誰でも後から着ることが出来る。モチーフは多分たぬき。

でも大衆とは一つだけ異なる部分があった。それは色だ、全体的にターコイズブルー色のディティールをしていて、ああ言うアバターだと少し珍しい色。


淡い水色のたぬき耳、と特徴的な菱形の麻呂眉のこまる眉、見た目は一見子供にも見える頭身。

その体のちっちゃさが、普通でも大きい耳や尻尾の大きさをより強調する。


「金が吸われたーーー!!」

それらの情報とは、相反する物騒な言葉の数々。


「テメェクソガキ!コイン持っていくなよ〜!……う、全部取られたー〜!!」


二人はたまたま、一部始終を見ていたが、コインが落ちた様な音が響くと、赤白帽を半分半分でつけた常にニヤケ面の子供型ロボットが、スプリンターの走り方で異様な速度を出して近づいてくると、落ちたコイン全部を屈んで取る、今度は匍匐前進で高速移動して帰るのを見ると、何故か憤懣と嫌悪感が生まれる。

作者の気持ちがわかった気がする。


その少女は小僧ロボを追おうと、地面に這いつくばり手を伸ばした瞬間の今にも泣き出しそうな、その人と目が合う。

ヒロシは何かその顔に何かを思って、見ていたのだが、相手からサッとそらされる。


「あの子も困ってるなら助けようよ、もしかして…アレもロールプレイ?」

「多分…違うけど、リアクションから、配信者とか?それにしては何か見覚えが、」


ヒロシの今日の記憶の中にあった、

二つの太い尻尾が完璧に合致する。


白いギザギザから淡い水色になって、確かなターコイズブルーに、根本から毛先にいくにつれて濃い色になっていく、

抱き心地の良さそうな弾力がありそうな、太いたぬきしっぽが、ゆれる。


「ア、うん…話だけでも聞こうか。」

皆んなはその子を危ない子だと思って離れていくが、二人だけは別の思考があって、近づいていく。

ヒサが右手を差し出して、

「大丈夫?。」


「…んぇ、お前ら誰だよ。」

「困ってたみたいだったから、助けたいと思って、」

「ああそう言うタイプね……別に何もねぇよ。…何も残ってねぇよ。」


小動物みたいな声の少女は、警戒した様子だったが、ヒサから優しく声をかけ続けていると、ゆっくりとだが事情を話してくれた。


ふむふむと相槌を打って聞いていると、

その事情が本当に可哀想だったことに気づく。



「貯めてたコイン五万枚を全部使ってやろうと思った、この量なら絶対にリターンの方が多いと思ってたのに、なのに、全然当たらなくて。

今さっき当たって喜びの声が思っていたより出て、自分でもびっくりした、なのに間違えて当たったコインを全部落としちゃったと、」涙を目にいっぱいまで溜めてまで、話してくれた。


「コインのタワーが見たくてー、今ある全部を並べてみたいなって思ったからー〜!

落としちゃったんだーーうわ〜!」


目の前のたぬきっ子は泣いた。


コレを見てヒロシはやっと気づく、この子の周りの人々は、「ヤバい子だから離れよう」と言うよりは、単純に口調が荒すぎて近づけなかったんだなと。

そして今、この子が一番食いつく言葉もわかった。



「もしかしてさ、今日一日、大学で追ってきてたのって君?」



「…君って言うな、同じ学年だぞ。」

数秒の沈黙の後、肯定と取れる答え。睨んだ様に感じる目で見られているが、それが食いついている証拠と思い、ヒロシはニコッと笑う。

何か同じ波長の様なものを感じた二人とは違い、ヒサは一人、二人のゲーマーが何が何を言っているのかわからなくて、混乱している。


そんなヒサを一旦無視して、二人は立ち上がり握手をする。

「じゃあ名前で、呼ぶよ」


ヒロシがコンソールを操作して、ネーム表示制限を解除して出てきたのは、名前ではあるが、

〈本゜歩゜古茶釜〉

ちょっとした難読漢字ネーム。


「ポンポ こがま?」

「ほん…ぽん…ほ、アッぽんぽこ?…チャガマで合ってるのかな。」


ヒロシとヒサが読み方がわからなくて、ミスして間違える毎に、目の前の子の顔が赤くなっていく。


「もうッリアル名でいい、どうせすぐ分かるんだろ!」

今の表情もそうだし、第一印象は感情が豊かな子と言った印象だった。


「ユキリ…三田乾みたばさユキリだ。

よろしく、固っ苦しいのは苦手だし名前は呼び捨てでいい、私も呼び捨てにするからさ。」


片足を軸にクルっと回り浴衣をはためかせる、そして器用に片足で立ち、ウィンクをして、右手、左手の順で体の前に出し、目元を覗かせる様に指を開く、アイドルポーズまでとった。


だがそれはどこかしていてアイドルの綺麗さと言うよりは、愛嬌のある可愛さだった。

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電脳世界で虚乳な彼女 (アックマ) @akkuma

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