第10話 狐か狸か


 もう終局まであと二手。

ヒサとヒロシのオセロ勝負は、着々と進んでいき、マスも残しところ二つ。

 

「あ!もうそこしか置けない、」


ヒサは盤上の石の数では勝っていた。


空いているのはあと2マス。

置けるのは1マス。

その1マスに置いたあと考えてみれば、試合中と同じくまた相手の石を多く取れる、良い手なはずなのに、ヒサは残念がっていた。

「私も狙ってたのに〜」


角の一つ横のマス、置く位置が悪かった。相手の石がすでにある角、線上に自分の石が並びその先には空の角が。

でもそこ以外には置けなかった、みんなは分かっているかも知れないが、念の為説明しよう。


オセロのルールでは、相手の石をとる場所にしか置けないと言う代表的なルールがある。

置いて石を取れる場所が、一つしかないのならそこに置くしかない。

一つもないなら相手に手番を渡し、取れる人が置き続けるのみ。


ヒサが目を動かして別の道を探しているのを見て、相手は口角をひん曲げて、大きく笑う。


「オセロはね!相手に置かせる場所を取り合うゲームなんだよ〜、はやく置きたまえ!」

密室で悪役のような笑い声を響かせて、

より追い詰める。

いつの間にか、カジノのど真ん中に出ていたテーブルは壁に囲まれていた。

それはゲームを開始すると共に、青色の半透明の壁が現れて、周りの音楽や人の声を停めたと思うと、しんしんとした音楽が流れだした。


それもこれも全部、ヒサを追い詰めるためにしたてあげたヒロシの所業。


壁の透過や音の設定も、簡単にコンソールで操作出来る。

カジノのガヤガヤとした中でやっても良いが、そう言った環境が気になって、力を発揮できないような人の集中力を高めるための対策なんだろう。

それが今では、確実に逃げられない牢獄のような使用になっている、密室の中、ヒサはついに観念して一マスだけ光る盤上に石を置く。


ヒロシは余裕を持って、自分の石を角に置いた。置いた場所は角しかも、そこから左右の角はすでに取っている、矢印の先っぽのようなところ、コレからどれだけの量の石が取れるのか想像も出来ない。


まず水平方向のもう一角に置かれたあいだの線上を全てをとった、

そして更に、もう一角の中腹から4マスほど迫っていた相手の石を裏返す。


更に!布石として置いていた石、斜め方向に向かって三つの石を返す。


ヒロシは最後の一手で、大逆転した。

こうなる事まで考えていた策略か、たまたま起こって上手く行っただけの偶然か、多分どっちも何だろう。


想定通り、上手く行った!

どっちも含んだ笑顔で汗を切った。


かなりレベルの高い接戦だった気がする、最後の攻防の前には勝負は決まっていたが、その一手前に気づいたら、二手前に気づいたら、そんな思いは虚しく散り、一手単位で勝敗が移り変わる大勝負だった。


「なんか…上手くない?ゲーム。ソードオンラインでもそうだったけど、1回目で感覚掴むし、オセロにこんな本気になったの久しぶりだよ。」


「え、そう?」

ヒサは下を向いた悔しそうな顔から、あどけない顔を上げた。


「いやまあ、頭がいいのは知ってるよ、でもそれにしても上手くない?」

「まあ…家でね、将棋とかやってたよ。走るには集中力を高めることも大事だ、って言っておばあちゃんと、」


それを聞くと、ヒロシは納得したようで、

なぜか頭を抱えた。

「ああやっぱり、そうなんだ………」

おばあちゃん、ヒサのおばあちゃんは確か、



「でも全然下手で、おばあちゃんに肩を板で叩かれちゃってね。

……ねぇねぇヒロ、次はどうする!」


相手の事を考えないで無関心なこと言っちゃったのに、自分は一言軽口を返して無理してる感じも一切なく、言っちゃって。


眉を上げて、元々大きな瞳を更に大きく開いた。黄色い瞳を見せて、耳をピクッと動かした。ヒロシの胸に飛び込んできた時、髪が一瞬空気に持ち上げられて、フワッと浮かぶ。


ねえねえと声をかけるその時に、満面のそんな顔されたら、本気で遊ぶしかなくなった。


ゲーム好きと競争好きの二人は同じく負けず嫌いで、いつでもどこでも全力だ。


まずはこの勝負、ヒロシが黒星を上げた。

そして今この電脳世界、星の数ある中から選ばれた次の勝負ゲームは。



「何にする?」


「次は私に選ばせてよ、んーそうだなー…」

ヒサは答えたが、それを聞いてヒロシは納得がいかないようで、少し膨れた顔で言った。

「…別に俺、選んだわけじゃねぇぞ、近くにあったから、ルールも簡単だし…」


「あ……ヒロ、チェスやろ!」

そう言うとヒサは、ご自慢の大きいチェストを揺らして、チェスのテーブルまで小走りで寄った。


第二試合、競技種目 チェス

結果は、ヒサの勝利。


今度はヒロシが惨敗した。


「くっそ、うめぇ」

床に突っ伏して、あまりの実力差に全身から気力を抜いてだらけて、負けを全身で表している、ヒロシがそう呟いた。

近くで座ったヒサがソレに膝を曲げて対応する。

「チェスのコマも将棋のコマと動かし方は、ほぼ変わんないからね。」


「いや、本当にすごいよ、途中から観客に見えるように設定したんだけど、俺の一手には何も反応しねぇのに、アイツらヒサの手には、一手一手すごい反響だったよ。」


コミニケーション苦手な人にとって、衝撃の発表をされてヒサは思い出す。

そう言われれば、巻かれたバネを戻してまた巻くような、繰り返される音楽に混ざってそれでもまだ機械的だった声援が、妙に人間的な発言が多くなって、声援を超えたマイナスな言葉まで言っていた事を。

「多分やってる人から見ても、かなり良い手だったんじゃない?」


「…ん〜、そうだったら良いな。」

ヒサははにかんだ柔らかい笑顔で、そう言った。


第三試合 種目はコイン落とし。


コイン落としはその名の通り、

ステージの上に貯まったコインを、

コインを投入して押し出していき

前の穴に落として獲得するゲームだ。


ステージは主に二段に分かれていて、

上を上部 下を下部だとする。

上部から下部に落ちたところ、段差の壁の部分が前後に動き、メダルの押し出し機構を作っている。

この押し出し機構とメダルを一枚一枚投入していくという仕様が、絶妙にマッチして狙ったコインが一枚もギリギリ落とせない状況を長引かせる。


ヒサは性格上もちろんと言うか、一番大きいコインタワーを狙って、コインを全力投入していった。

「落ちろ落ちろ…落ちろ!

……………落ちてよ〜全然落ちない。」


コイン切れまで、


狙っていたのが思いのほか悪かったのか、落とせないまま、順番に来たのでヒロシは10枚程度、押し出しのタイミングを見て投入していき、悠々と落とす。

ガチャーーン


二人は一台を代わりばんこでやった事で、今回のは運勝ちの要素が大きいが、ヒサは悔しがっていた。

「イエーイ」

ヒロシは、手元にまだコインが半分以上余っていたのに、容易く元の何倍ものコインが手に入って、あまり手応えのない勝利を掲げた。


「まだまだ、いけるよ!こ…今度はアレ!」



第四試合 アーケード格闘ゲーム。

結、ヒロシ勝利。勝ち。当たり前の如く勝ち。

今度はヒサが惨敗した。


「まあ、流石にこう言うゲームは…な、」

とアーケード台に座り落ち着き払っていると、問い面に座っていたヒサが突然、

「騙されたー、ヒロに騙されたー!」


「はあ?騙されたって何のことだよ、」

「だってだって、ゲーム上手くなったって褒めてくれたから選んだのに〜、」


必殺技連発のヒサを華麗にいなした。

将棋の華やかながら、整理された手とは、全くの別物。


そして今の姿は、地面に体育座りをして膨れっ面、駄々を捏ねている子供そのものだ。


「仕方ないだろ、ヒサはこう言うゲームが苦手だったんだ。前と比べれば確実に…まあ多分上手くなってるはずだよ。」

子供みたいなヒサを、試しにあやしてみると、

「負けた〜。」

天井を見つめてやっと、負けず嫌いが負けを認めた。そしてめんどくさい状態から戻った。


「あれれ〜今のままだと三対一で俺が勝っちゃうな〜」

「…うっさい!得意なゲームばっかり選んで、初心者いじって楽しいのか!」


「アーケード選んだのヒサじゃん、」

「フゥ、で何書いてるの?」


煽りに面白いぐらい引っかかる、ヒサを揶揄いながらヒロシはメモをとっていた。

ソレが気になりヒサは怒りを、一息で吐き出した、また、息の熱さを気づいたヒロシは素直に答える。

「この世界だと、お土産になりそうなものがなかったからさ。せめて勝敗でも覚えておこうと思って、」


ヒロシ対ヒサ

オセロ   : ●   ◯

チェス   : ◯   ●圧勝

コイン落とし: ●   ◯

アーケード : ●圧勝 ◯弱い


「オイッ一つ余計だよ。」


「スー  事実です!」


二人は同時に走った。


今の二人のコイン量

 ヒサ2340枚

ヒロシ5925枚


かけっこ: ◯のろま  ●圧殺


「競走はもうおしまい!すいませんでした〜」

ヒサの視界に表示される+3000の数字、謝礼として受け取り、手を打った。



何度も勝ち負けを繰り返して、二人はやっと協力するようです。

そして見つけたのは、横の並びには誰もいない、金色ギラギラのスロットの二席。

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