第9話 37歳拳で。


 ヒロシとヒサは大学内でも、バカップルとして有名だ。

でも和気愛愛ラブラブとした、恋愛色モリモリの痛い奴なのかと言われれば、違う、どちらかと言うと和気藹々ドキドキとした。

周りの空気を悪くしない程度に静かに遊びながら、真なる友達としても仲が良いのが分かる、そしてそこから見え隠れする、隠れて付き合っている男女のような空気感。

二人を大学内で目にした、みんなは必ずと言って良いほどこう言う。


「青春…って甘酸っぱいなぁ」と


そんな噂話は、気にならない異なるタイプのヒロシとヒサは、他の生徒も居る食堂で、学食を食べている。


「ズゾゾーーーッジュ……うま〜。」


とろみのついた黄金色の汁が麺に絡まって、

一掬いの重みが増す。

少し開かれた唇に運んでいき、うどんをまだ食べていないのに、体温が上がったような赤い唇に触れて温度を確かめる。ついでに匂いも嗅ぐと一度で一気に、空気も一緒に啜っている。


うどんの麺には、かなりコシがあるようで、口に含んでから何度も咀嚼をする。

ある程度弾力を楽しむと、適度な短さになったうどんを喉に流し込む。

ゴクッ

うどんを飲み込んだ音なのに、真夏、疲れて喉が渇いた時に飲んだスポーツドリンクみたいな音がなる。

そしてヒサの手が止まらなくなり、もう一口、もう一口、と腹は膨れていくのに、口に運ぶペースは上がっていく。


飛沫をあげて、うどんは昇っていく、

その姿は、まるで、

まるでうどんの昇り竜やー!


そんな今も活躍する、少し太った賢老の食レポ職人だったら言うかなぁと考えながら、

ヒロシは顔に汁しぶきが降り注ぎそうと思って、少しだけ目を細めていた。


「それ好きだよね、なんで?」

「おいしーから、」


ヒロシは机に突っ伏して横目で見ながら、言葉にもけだるそうな雰囲気を乗せて喋る。

「…食レポしてよ。」

普通に無茶振り、仲が良いことが特徴の二人だからできる芸当であろう。

ヒサはそんなこと気にも止めず、自前の物おじしない度胸で自信満々に答える。


「甘口で…甘い!…麺が吸い込みやすいし…ちょっと辛味もあって…え〜と、おいしい…よ…」

「ソレハヨカッタネ、」


あまりの食レポの下手さ、それなのに自信満々に話しているのがジワジワ笑いのツボにきて、ついに鼻で笑う。

「フッ…、一口食べても良い?」

ズゾッ、


スマホの画面から顔を外すと、モグモグと口を動かしながら戻り、ヒロシはまたスマホに目を落とす。


見ているのはゲームの発売情報をまとめているサイトの中でも代表的なサイト。

『ロンダイト』

奇大の新作、と大きく書かれた、ページの文章の多くを要約して見れば、ゲーム内容は金持ちの大事な物を盗む、義賊を体験できる、怪盗ゲームらしい。

完成度は、過去最高グラフィック、音楽もオシャレときた、ヒロシはだんだんと広角が上がっていき、子供みたいなワクワクを抑えられないでいた。


一方、カレーうどんをゆっくりと咥えながら、スマホを見ているヒサは、今日いくボードゲームの概要について調べている。


ウェルカムで配られるコインを増やしていく形式でいろんなボードゲームや、コインゲーム、ページを流せば流すほど懐かしいレトロゲームだったり筐体型のアーケードゲームなどなど、限りなく無数に出てくる。

ふと、ここまで見てページの長さが気になりシークエンスバーを見ると、上部の五分の一も行っていない。ヒサは何か思うことがあったのか、目を少し擦った。


その時、

背後から何かモヤモヤモサモサした、存在感のようなものを感じた。

手元に集中しているし、背後なんて見えていない、

元来、人の気を感じ取るなどは、ある程度の強者のキャラクターなら、標準装備されている事だが、ここはアニメの世界でもゲームの世界でもないはずなのに、

あり得ないと言う気持ちを、やっぱり今日ずっと感じてた、視線は本当だった気のせいじゃなかった!

と安堵もあり自分に納得させる。


隣に座っていたヒサや、もしかしたらこの学食にいた人全員も、感じたのかも知れない。

重みがあり、チョロチョロしていて鬱陶しい、具体的に言うと、頭の上に可愛くないモジャモジャの野生臭がする生物が乗っかっているような、


それが頭の上から跳んで、空気が軽くなった瞬間振り返った。


そしてみんな、ほぼ同時に逃げる影を見た。


ガラス戸の透過している場所を越えてギリギリ、シルエットは見えなかったが、肩がけのカバンとそのカバンについた、淡いターコイズブルーの太い尻尾のアクセサリーが、自分の腰よりも低い位置で、風にたなびいたのが見えた。


「飛沙、今誰かがあそこから逃げたよな?」

「…逃げたね。」

ヒロシは引き攣った顔で、耳の良いヒサに聞く。

「…かなりちっちゃい子だと思う、女の子だったし…」


不気味さはあったが、危害は一度もかけられていない、ストーキングする範囲は学校内、

自分を追っていたものは小さい、肩がけの鞄があの位置にあるってことは、多分140センチも無い女の子の、ハンター。

ヒサの言葉もあり、現実の事と考えると一気に恐怖心は薄れていった。


「ん?なら、大丈夫なのか。」

「いや、ちょっとは危機感持った方がいいでしょ、アンタには私がいるんだし…」


「なんか言ったか?」

ヒロシは影の正体に関して考えていて、話を聞いていなかったが、何か聞こえた気がして、ヒサに振り返ると何故か、目に影を作り顔を赤ていた。


「何でもない、ジュゾゾゾーージュルン!」

やけに荒っぽい勢いで最後の一口を啜ると、ヒサが食べ終わるの待っていたヒロシと同時に手を合わせた。

「「ごちそうさまでした。」」



1日の授業を終わらせた二人は、家に帰るなり電脳世界リバーススカイにログインした。


光の粒になって現れたのは、金髪の普通の男と、褐色虚乳スレンダー黒髪ポニーテールの女。

情報量の差があまりにも開きすぎているが、ポリゴンの数には差がない、二人とも本物みたいな身体だ。


「よ。」

「じゃあ行こっか!」

「あ、待ってヒサ、調べてみて初めて知ったんだけど、手元のコンソール、自分のパネルからでも移動出来るんだって。」


歩いていくのを呼び止めて、手元のコンソールを見せる。そこには虹色のパネルと同じ動画が写っていて、ジャンルの中でも下の方にあったボードゲームの世界を選ぶ。


ゲーム名『37ver.X

サーティーナインクロス』


ボードゲームからレトロゲーム、テーブルゲームやクレーンゲームも揃う、カジノ形式の多種多面的ゲームセンターだ。



圧倒されたのは、まずはその情景だ。


赤いカーテンと黒い天井、床はもちろん全面レッドカーペットの部屋に黄金の装飾が光を反射してより派手に照らす。


ステージの上では輝くスポットライトが降り注ぎ、その先では赤いドレスと黒い紳士服が揃った動きで揺れる。

男女互いに大人数のダンサーが踊っている。


そして目当てのゲームたち、壮観な程に並んでいる。例えば黄金色のスロットが、何百台も等間隔に並んで全てが稼働している。

そこに入り乱れる、人の山が作りなす、

空気感も圧巻だ。


熱狂した声が聞こえてくる、多分その熱気も同時に来ている。だがやっぱりこの世界はゲーム、周囲のプレイヤーの口の動きと合っていない、だからこの聞こえてくる声はBGMなんだと思う。

ドラムとギターの軽快な音楽に、妖艶な女性の歌声が流れていて、熱狂した男たちの声が合わさっても嫌な感じがしない。


完全にのバランスが取れた、

おしゃれな空間。


「私こう言うゲームって、コインゲームとかしかやったことないんだけど、大丈夫かな。」

「まあ、ボードゲームもあるし大丈夫でしょ。」


ヒサが不安がっていると、ウェルカムコインが配られて、視界の端っこに表示される。

+500枚


それを見て、ヒロシは少しイタズラな顔になった。

「あ、先に言っておくけどコイン落とすなよ落としたらな、」


コインが落ちると、落ちたコインを感知した子供型お掃除ロボットに即刻片付けられる。

100枚落とせば拾う暇なく、と言うか落とした瞬間にロボット以外を透過するようになって、拾うことができなく、無惨にも100枚のコイン全部をお掃除ロボットが持って行ってしまう。


ホームページの文も、作者の怒りを器用に隠されて書かれていたが、作者の実体験からこだわりとしてつけられた、

「設定らしい。」


「そうなんだ、知らなかった。」

ホームページを見ていた、ヒサでも初耳の情報だった。でもそれぐらい隠されていた、

一度見ただけではまず分からないように、丁寧な言葉に変換されていた。


静かな怒りが。


「ゲームのルールは大丈夫か、」

「それに関してはバッチリ、色々ホームページで見たからね。」


「じゃあまずはお手なみ、拝見ってことで、オセロでもやってみるか?」


ヒロシが指差した。


その場所には緑色の大きなテーブルがあって、その上にそれまた大きいオセロのコマが置かれていた。

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