第8話 その後のあれこれ
ショウの配信のアーカイブ映像は、世界中のダンジョン探索者たちに衝撃を与えた。
何しろ、これまで誰も存在に気付かなかった隠しルートである。
しかも突破できれば最深部直通というおまけ付き。
ダンジョン探索に挑む者ならば興味を持たずにはいられない特大ニュースだったのだ。
あの謎のフロアは脱出ゲームのようなその仕掛けから『謎解きフロア』や『脱ゲーフロア』などと呼ばれるようになった。
そして『国際ダンジョン学会』や『ダンジョン攻略RTA勢』といった数多くの有名で実力のあるグループによって熱心な調査と検証が重ねられた結果、一か月もしないうちに謎解きフロアの大体の仕様が明らかとなった。
それによると、ショウが偶然迷い込んだあのフロアは次のようなものだったらしい。
・謎解きフロアへは通常とは異なる手段(敵の攻撃や弓矢の罠など)で起動したワープ水晶の罠に巻き込まれることにより侵入が可能となる。
ただしその確率は低く、かなりの試行回数を必要とする。
・謎解きフロアも入るたびに構造が変わるというダンジョンの性質を備えているらしく、毎回謎解きの内容が変わる。
謎解きの種類としては、発見者であるショウ氏が挑むことになった出口を探すというシンプルなタイプのものの他に、暗号問題を解くタイプのもの、フロア内に隠された鍵を探すタイプのもの、その場で提供されたアイテムだけを使って高レベルモンスターを倒すタイプのもの……などなど、様々なパターンが存在する。
・謎解きに成功すればそのダンジョンの最深部へワープでき、そのダンジョンはクリアとなる。
・一度謎解きフロアに移動した場合は通常のダンジョンフロアに戻ることはできない。
・謎解きフロアは恐らくショウ氏が挑んでいた初級ダンジョンだけでなく、全てのダンジョン内に存在していると思われる。
ただし有志だけではまだ地球上のダンジョン全てに対しての裏付けがとれていないためこれは確定事項ではない。例外を見つけた場合は情報求む。
さらに、仕様の判明からしばらく経つと、効率的に謎解きフロアへ行くための手法を編み出す人間が現れた。
その手法が広く一般に公開されたことから、趣味レベルで探索を楽しんでいる人間でも気軽に謎解きフロアに挑戦できるようになり、その結果世界規模レベルの謎解きフロア挑戦ブームが巻き起こることになったのだった。
※ ※ ※
そんなわけで、ダンジョン界隈は通常のダンジョン攻略そっちのけで謎解きフロアにばかり行く探索者だらけになっていた。
だが、ブームの切っ掛けとなったショウ本人はあれからどうしていたかといえば――相変わらず初級ダンジョンへの挑戦を続けていた。
それも謎解きフロアではなく、通常のダンジョン攻略である。
“初級ダンジョンはこのあいだクリアしただろ?ショウなら中級どころか上級でもやって行けそうなのに何でまた初級やってんだ?”
「いやあ、あの時は狙ってなかったとはいえ謎解きフロアでショートカットしちゃっただろ? だから何かズルしちゃったような気がしてさ。上位のダンジョンに挑むのなら、その前に自分の足で初級ダンジョンを制覇しておきたいんだ」
“ふーん”
“あと三階だけだったんだから気にしなくていいと思うけどな”
“でも私はそういうこだわり持ってる人好きよ”
“俺も。ショウらしくて良いんじゃないか”
「そう言ってもらえると助かるよ。でもまあ任せておいて。もうこのダンジョンは庭みたいなものだし、今回の探索でさっさとクリアして次回の配信からはもっとスリルのある中級ダンジョン探索の様子をお届けしてみせるから」
ショウは歩きながら自信あり気に拳で胸を叩く。
しかし次の瞬間、配信の映像から突然ショウの姿が消えた。
“あれ?”
“ショウは?”
“あいつどこ行った?”
配信用カメラが下を向く。
するとついさっきまでショウが立っていた場所には丸い穴が開いていた。
落とし穴の罠だ。
ショウは下の階に落ちてしまったらしい。
せっかくこの階での探索も終わろうかというところだったのに、また下の階から探索のやり直しである。
“草”
“クリアします宣言の直後に落ちるとかどんだけ運悪いのw”
“本当にこの配信飽きねえなw”
カメラがショウを追って落とし穴の中へと入っていく。
ショウの初級ダンジョンへの挑戦はまだ当分続くことになりそうだ。
ついてない配信者、ダンジョン配信していたはずが何故か脱出ゲームに巻き込まれる 鈴木空論 @sample_kaku
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