第7話 四角い通路の謎:解決編(2)
“立体構造…?”
“らせん階段…?”
リスナーたちはショウの言葉を理解するまで時間が掛かっているようで、数名がポツリポツリと呟いたきりコメントが途切れた。
しかしそんな静寂もほんの数秒だけ。
すぐに我に返ったリスナーたちは、それまでとは比べられないほどの勢いでコメントを付け始めた。
“え、なんだよらせん階段って。そんな形のフロアがあるなんて初めて聞いたぞ”
“もしかしなくてもこれ大発見では”
“うおー!良くわかんねえけどすげえ!めっちぇテンションあがる!!!”
“めっちぇって何だよ”
“まあ仕方ないさ。こなの見せられたら童謡してごじるのもwかるよ”
“お前が落ち着けw”
みんな大興奮である。
その一方で冷静に分析を始めたリスナーたちもいるようだ。
“つまり、天井が低かったのはすぐ上と下に同じ見た目の通路があったためか”
“マップアプリがバグってたのもフロア構造が原因かな?立体でしかもらせん型なんてものじゃ、そりゃ平面のマップを想定して作られたアプリじゃ正しく表示できなくなるわけだ”
“通路が無駄に長かったのも探索者が傾斜に気付きにくくするためってところかね”
“しかしそうすると、ショウが言う出口の可能性っていうのは…?”
ショウは頷いた。
「このフロアがらせん階段になっているのなら、同じ方向に進み続ければいつか終わりがあるはずだからね。出口とは限らないけれど、そこに何かがある可能性は高いだろ?」
“なるほど”
“行ってみる価値はあるね”
“金貨の転がり方からすると、今のショウから見て左の道が下り、右の道が上りか”
“このダンジョンは上の階を目指すタイプだったよな”
“ショウ、どっちへ行くんだ?”
「当然、右の道!」
ショウは上り坂を指差しながら言った。
このダンジョンに挑戦を始めてからずっと最上階を目指していたのだ。
上方向と下方向の二択なら考えるまでもない。
ショウは意気揚々とレンガの坂道を上って行った。
※ ※ ※
“それにしても、結局この通路って何なんだろうね”
「さてねえ。普通のフロアとは完全に切り離されているみたいだし、隠し通路っぽくはあるけれど」
“詳しく調べたらダンジョンの謎が解明できそう”
「かもね。自分としてはダンジョン攻略が第一だから、ダンジョンの仕組みとかその辺の話には専門の人に任せたいけど」
そんな雑談をしながらショウは通路を歩き続けていた。
いつまで経っても景色は変わり映えしないが、終わりがあるという確信があるので前よりも足取りは軽い。
そしてやがて、ショウはらせん構造の一番上へ辿り着いたようだった。
通路が唐突に途切れて壁になっているが、その壁は不自然な白い光を帯びている。
“なにこれ”
“一方通行の罠だな”
「一方通行の罠?」
“上級ダンジョンでたまに見かける罠だよ。ワープ水晶の罠の上位版みたいなやつ”
“触れた者を壁の向こうへ移動させる罠で、一度移動したら戻れない。行った先がどうなっているかは行ってみるまでわからなくて、ごく希に宝物庫の場合もあるけど、大抵はモンスターと罠が大量に配置されたお仕置き部屋みたいになってる”
“運試しな罠なのか”
“ショウと相性最悪じゃん”
“ショウ、どうする?”
「どうするも何も、ここまで来て引くってのは無しでしょ」
ショウはアイテムボックスから剣を取り出して片手で強く握りしめると、もう片方の手で光る壁に触れた。
壁の光が強くなり、強く引っ張られるような感覚とともに一瞬視界が遮られる。
そして気が付くと、ショウはそれまでと別の場所に立っていた。
広い部屋だった。
ずっと狭い通路を歩いていたから尚更そう感じるのかもしれない。
剣を構えて警戒するが、周囲にモンスターはいないようだ。
“あれ? ここ、祭壇の間じゃね?”
“ほんとだ。何か見覚えあると思ったら”
ショウもリスナーに言われて気が付いた。
部屋の奥に、見覚えのある祭壇が設置されていた。
金貨に描かれていたのと同じデザインの祭壇。
ダンジョンの最深部を示すシンボルで、あの前に立つとダンジョン制覇となり地球へ戻ることができるのだ。
“てっきり元の二十七階に戻されるのかと思ったが一気にゴールまで飛ばされたのか”
“あの脱出ゲームを突破したご褒美ってことかね?”
“なんでもいいじゃん。ダンジョン様がクリアしていいと言ってるんだからお言葉に甘えようぜ”
“だね。私もそれでいいと思う”
“おめでとう”
“おめ”
“88888888”
リスナーたちはすっかりお祝いムードになっている。
それらの言葉に促され、ショウは半ば呆気に取られたまま祭壇の前に立つ。
どこからともなく謎のファンファーレが鳴り響いた。
ダンジョンクリアの合図だ。
リスナーたちの祝福に包まれながら配信は終了。
ショウは初めて死亡以外の方法でダンジョンから地球へ帰還した。
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