第6話 四角い通路の謎:解決編(1)

“ひょっとして何かわかったのか?”


“俺にはさっぱりわからん”


“教えて教えて”


 リスナーたちがショウの呟きに反応し、期待のコメントをする。

 だがショウはすぐには答えず、アイテムボックスの中に手を突っ込んだ。


「ちょっと待って。先にちょっと確かめてみるから」


“確かめる?”


 ショウがアイテムボックスから取り出したのは金貨袋だった。

 モンスターを倒したときに時々ドロップする金貨を貯めておくための袋だ。


 金貨は直径は大体四センチ、厚さは五ミリくらいのずっしりした円板の形をしている。

 デザインは全てのダンジョンで統一されていて、表面はダンジョンの最深部にあるという祭壇が描かれており、裏面は文字に見えなくもない謎の規則的な凹凸模様になっていた。


 金貨を持っていれば、ダンジョンで希に出現する自動販売機のようなギミックから通常では入手困難なレアアイテムを購入することができる。

 まあショウの場合は運の悪さが手伝ってか、自動販売機をお目にかかれたのはこれまでの数十回に及ぶ探索の中でも三回だけなのだが……。


“こんな時に金貨なんてどうするんだ?”


「こうするのさ」


 ショウは袋から金貨を一枚取り出すと、屈み込んでフロアの床の上に縦に置いた。

 そしてそのままじっと金貨を見つめる。


“何してるの?”


“ドミノ倒しでもやるのか?”


 すぐには何も起きなかった。

 しかし、やがて明らかな変化が起きた。


 そこにただ置かれただけだったはずの金貨が、ひとりでに転がり始めたのだ。

 最初はごく僅かな動きだったが、やがてはっきり認識できるほどの速さで、ショウから見て右側の通路の方へと転がっていく。


「どうやら推測は当たったらしい」


 ショウは金貨を見送りながらホッと息をついた。

 だがリスナーたちの方は訳が分からず混乱を始める。


“え、なにあれ”


“どうなってるの?”


 ショウは再び袋から金貨を一枚取り出して同じように置いた。

 すると金貨は先程同様、やはり右のほうへ転がっていく。


“何かの力で引っ張られてる?”


“いや違うだろ。多分これ、床が傾いてるんだ”


“え、ここ傾いてたの?見た目全然わからんが”


「そうだね。ひょっとしてと思ったんだけど、この通路は坂道だったらしい」


“坂道?”


「うん。平衡感覚が鋭い人にしか気付けないくらい緩やかな角度の坂道」


 めまいのような感覚がある、というコメントを聞いてショウが閃いたのは、この通路が傾いているのではないか、ということだった。


 何しろこのフロアはどこまで行っても単調なレンガ積みの狭い通路で、見た目的には右を見ようが左を見ようが同じである。

 その状況で何か違いがあるとしたら、傾斜くらいしか思いつかなかったのだ。


 そこで試しに金貨を立てて置いてみたところ、見ての通り本当に坂道だったことが判明した、というわけだった。

 ちなみに金貨を選んだのは手持ちのアイテムで転がりやすい形状の物が他に無かったからというだけの理由で深い意味はない。


“なーるほど。配信の映像的にはパッと見同じだけど、実際は上り坂と下り坂だったからその辺の感覚が敏感な奴は違和感覚えてめまいみたいなの感じたってことか”


“へー”


“うーん、言われてから見比べても全然わかんねえな…”


 新たな発見にリスナーたちが盛り上がる。

 だがそんな中、あるリスナーが言った。


“でも今更こんなこと分かったところで意味なくない? 出口の手掛かりにもなりそうにないし”


「いや、そんなこと無いよ。通路が傾いているのなら話が全然変わって来るからね。ここに出口がある可能性もゼロじゃなくなるんだ」


“へ”


“マジで!?”


“どゆこと?”


「もう一度このフロアのマップを見て欲しい」


 ショウは端末を取り出しマップアプリを起動した。




□□□□□□□□

□■■★■■■□  階層:???階

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□■□□□□■□   ★:あなたの現在地

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□■■■■■■□

□□□□□□□□



「このフロアは四角形で、四本の通路はどれもレンガ積みの同じような見た目だった。つまりここが坂道なら他の三本の通路も同じように坂道になっている可能性が高い。まあその辺はこれからちゃんと確認する必要はあるけどね。……ただ、本当にそうだとしたら通路が繋がらなくなってしまうんだ」


“通路が繋がらなくなる?”


“坂道で高低差ができるわけだから、確かに一周しても元の地点というか元の高さには戻れなくなるな。上から見たら四角いけれど実際歩いたら曲がり角が三つあるだけの一本道になってしまうのか”


“いやいやそれはおかしいだろ。今まで隠し扉探してこのフロア何周も回ったじゃん”


“だよな。全部坂道で通路が繋がってないならショウは一体どこを歩いていたんだよ”


 するとショウは立ち上がるとゆっくり右のほうへ歩いて行った。

 そして数メートル先で倒れていた先程の二枚の金貨を拾い上げながら言った。


「同じところをぐるぐる回っていたつもりで、全く違う場所を歩いていたのさ」


“え?”


“それってどういう…”


「多分、このフロアは平面ではなく立体的な構造になっているんだ。マップアプリのように上から見たらドーナツみたいな四角形だけど、実際はバネのような形というか、らせん階段みたいになっているんじゃないかな」

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