第5話 四角い通路の謎:問題編(2)
《このフロアについて》
・マップは単純な四角形の通路のみ
・隠し通路はない
・通路が普通より狭い、低い
・通路が無駄に長い
・マップアプリの階層表示がおかしい
・敵、アイテム、罠、一切無し
「これらの情報を元に、隠されているかもしれない出口の在り処を推理したいわけだけど……」
ショウは言った。
だが、自分でそう言いながら、ショウの頭の中では『これ無理では?』という考えが浮かんでいた。
羅列してはみたものの、出口を探すヒントになりそうなものが無い。
むしろ各項目を吟味すればするほど、やはりこのフロアには出口など無いのでは……という気がしてきてしまう。
そう感じたのはショウだけでは無かったらしい。
リスナーたちはしばらく無言だったが、やがて先程『隠された出口があるのでは』と言い出した本人からのものらしいコメントが付いた。
“すまない。隠し通路があるかもとか言ったの、見当違いだったかもしれない”
そのコメントを皮切りに他のリスナーたちもコメントを付け始める。
“だよな。この条件だと俺も出口なんてないように思える”
“僕も僕も”
“残念だけど私も”
“時間の無駄だったな。まあオレはこんなオチじゃないかって最初から思ってたけど”
“無駄だってわかってたのにわざわざ付き合ったの?w”
“後出しジャンケンとかダッサ”
“うるせえ黙れ”
数名のリスナーたちが喧嘩をし始め、コメント欄全体が少々荒れ気味になっていた。
それなりに長い時間を掛けたのに徒労に終わってしまったのだから苛立つのもまあ無理もないのかもしれない。
ただそんな中、ショウを慰めるようなコメントをくれるリスナーもいくつか混じっていた。
“結果は残念だったけどいつもとは違う感じの探索で面白かったよ”
“あのまま自害してたらモヤモヤが残って気持ち悪かっただろうしな。ちゃんと検証してくれたお陰でスッキリした”
「ありがとう」
ショウは少しだけ元気が出た。
出口が無さそうだという結論になって落胆していたのはショウも同じだったので、ここまでの作業が無駄ではなかったと言ってもらえるのは素直に救われる気分になる。
とはいえ、何にせよ今回の探索はこれで終わりだろう。
ショウは端末をしまうと立ち上がり、気持ちを切り替えて言った。
「さて、それじゃ配信は今度こそ終わりかな。今回は残念な結果に終わっちゃったけど良かったら次回も見に来てね」
“終わりか”
“まあ仕方ないね”
“次も見るよ”
“おつ~”
リスナーたちが挨拶を返してくる。
そんな中、こんなコメントが混じっていた。
“結局何なんだろうな、その場所”
「さあ、何だったんだろうね」
ショウは左右の通路を見回しながら言った。
その動きに連動して配信用カメラも左右の通路を交互に映し出す。
すると、一人のリスナーが気になるコメントをした。
“あれ?やっぱり変だ”
「どうしたの?」
ショウは尋ねた。
反応されると思っていなかったのか、そのリスナーは慌てたようにコメントをする。
“あ、ごめん、何でもない。ちょっと違和感があったんだけど多分ただの気のせいだから”
「違和感?」
ショウは怪訝な顔をした。
そして他のリスナーたちも一斉に反応する。
“違和感だと!?”
“ここへ来てまさかのヒント追加か?”
“気になるな”
“その辺ちょっと詳しく”
“なあ兄さん、どうせ最後なんだから思い切りぶちまけちまえよ”
“吐けば楽になるぜ。ほらほらほら”
違和感と発言したリスナーは注目されることに慣れていないのか沈黙してしまった。
だがショウがカメラをじっと見つめていると、やがて観念したように答えた。
“いや、多分うちのマシンのモニタが古いせいだから出口の話とは関係ないと思うんだけどさ。そのフロアの通路、右と左で映像が微妙に違った風に見える気がするんだ”
「右と左で通路の映像が違う?」
“うん。具体的にどんな風にって言われると上手く言えないんだけど…なんて言えばいいんだろう。向きを変えた時にめまいに似たような感覚があるっていうか”
「めまい……」
ショウは通路を見回した。
しかしショウの目には左右の道は何の違いもないように見える。
どちらもただの真っ直ぐな通路で、当然ながらめまいなども起こらない。
ところが、そのリスナーの言葉を聞いて何人かのリスナーたちが次々と賛同するような意見を言い出した。
“ん?変だなって思ってたの自分だけじゃなかったのか”
“他にも同じ感覚になってた人いたんだ”
“誰も指摘しないからてっきり俺もおま環だと思ってたわ”
“ちなみにおま環とはお前の環境がおかしいだけの略です”
“なんでいきなり解説した?”
その一方で違和感など無いと主張するリスナーたちも大勢いた。
コメントの数で言えば恐らく違和感が無いという意見のほうが多数派だろう。
ただ、一人だけならともかく複数人が同じことを言っているのだ。
ひょっとするとショウを含めた大多数には気付けないようなごく僅かな何かが本当にあるのかもしれない。
ショウはあらためて左右の通路の先を見つめた。
それから先程まとめたメモの項目を注意深く読み直した後、端末の画面をマップに切り替える。
□□□□□□□□
□■■★■■■□ 階層:???階
□■□□□□■□
□■□□□□■□ ★:あなたの現在地
□■□□□□■□
□■■■■■■□
□□□□□□□□
「ひょっとして……」
ショウはポツリと呟いた。
脳裏にはある一つの考えが浮かんでいた。
もしもこの推測が合っているとしたら、このフロアの出口の場所は――。
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