第4話 四角い通路の謎:問題編(1)

「……うーん、見つからないなあ」


 ショウは呟きながら頭を掻いた。


 出口があるかもしれない、と意気込んで調査を始めたものの、ショウたちは手掛かりになりそうなものを一向に発見できなかった。

 もう十周以上はフロアを回っている気がするが、どこへ目を向けても変わり映えのないレンガ模様ばかりである。


“ひょっとして金庫の鍵みたいな仕掛けになってるんじゃない? ほら、例えば右回りに三周、左回りに五周したら扉が現れるみたいな”


“それならどこかにヒントが書いてあるはずだろ。ノーヒントで周回数当てるとかどんな無理ゲーだよ”


 時折リスナーの誰かがアイデアを出しては他のリスナーに否定される。

 コメント欄は先程からずっとこんな感じだ。


“やっぱりここ、出口なんて無いのかな?”


“俺もそんな気がしてきた”


 リスナーたちの中からはネガティブな意見も出るようになっていた。

 いつまで経っても進展がなく、絵面も変わらないのだ。飽きるのも仕方ないだろう。

 雰囲気もどこかギスギスし始めていて、配信の閲覧数もじわじわ減り続けてる。


「………」


 ショウは不意に立ち止まった。

 一度大きく深呼吸して、近くの壁によりかかる。


“どうした?”


“諦めるの?”


「いや、もうちょっとだけ頑張るつもり。ただし頭の中を一度整理しておきたくてさ。ひとまずここまでで分かったことをまとめてみようかなって」


“なるほど”


“そのほうがいいかもね”


“このまま闇雲に歩いてても何も得られなそうだしな”


 ショウは端末を取り出すと、表示をマップアプリからメモアプリに切り替えた。

 それから箇条書きでこのフロアに入ってからの疑問点などを書き出していく。


「とりあえずここまでの調べで判明したことと言えば、『このフロアには隠し通路の類は無い』ってことだよね」


“うん”


“そこは多分間違いないな”


 隠された出口があるかもしれないという考えに到ったとき、ショウやリスナーたちが真っ先に疑ったのは隠し通路の存在だった。


 ダンジョンには隠し通路というギミックがあるのだ。

 文字通り秘密の通路や部屋の入り口が殴れば簡単に崩せる脆い壁で隠されているというギミックで、その奥にはレアアイテムが落ちていたりそのフロアには出現しないような強力なモンスターが配置されていたりする。


 それがこのフロアにもあるのではと思ったのだが、予想に反してここには隠し通路は無かった。

 ショウ自身が左右の壁だけでなく床や天井も攻撃しながらフロアを一周して確かめたのだからまず間違いない。


“他におかしなところと言えば、ここの通路って何か狭いよな? 出口探すのと関係あるかはわからないけどさ”


“あ、それ俺も思った”


「そうだね」


 ショウも頷いた。


 通常、ダンジョンの通路は通路と言っても気兼ねなく剣や槍などを振り回せるくらいの広さがある。

 しかしショウが今いるこのフロアの通路は横幅は大の大人が二、三人並べるかどうかという程度しかなく、天井の高さも壁蹴りなどの跳躍スキルを使ったら頭をぶつけてしまいそうな程度には低い。

 お陰でいつもより閉塞感が強いのだ。


“部屋の構造と言えば、このフロア単純なマップなのに無駄に広いというのも気になるわ”


「マップの広さ……確かに言われてみればそれもあるか」


 このフロアのマップは通路だけで構成されたシンプルな四角形だが、実際はかなりの広さがある。

 ちゃんと測ったわけではないが多分一辺あたり三、四百メートルくらいあるだろう。


 入るたびに構造が変わるというダンジョンの性質上ただの偶然の可能性もあるが、意味ありげと言われればその通りだろう。


“あとは妙な点って言えば表示か”


「表示?」


“マップの階層表示だよ。さっき確認したときおかしかったじゃん。まだバグってる?”


「あああれか。ちょっと待って」


 ショウは端末の画面を切り替えてマップを表示させた。



□□□□□□□□

□■■★■■■□  階層:???階

□■□□□□■□

□■□□□□■□   ★:あなたの現在地

□■□□□□■□

□■■■■■■□

□□□□□□□□



 階層表示は『???階』。

 ここへ飛ばされてすぐに確認したときと同じ表示のままだ。


“ショウが水晶でワープさせられたの何階だったっけ”


“あと三階でクリアって盛り上がってた記憶あるから二十七階だな”


 ショウが現在挑戦していたのは、フロアを一階ずつ攻略しながら階段を見つけて最上階を目指していくタイプのダンジョンだった。

 ワープ水晶の罠は掛かった者を同じ階層のどこかへ飛ばす罠なので、ショウがいるのは二十七階のままのはず。


 マップアプリに正確な階層が表示されないのはワープした弾みでアプリにエラーが起きただけなのだろう、とショウはあまり気にしていなかった。

 罠にかかっただけでアプリが壊れたなんて話は聞いたことは無いが、今回の罠起動はかなりイレギュラーだったのだ。


 それに、これまで自分の不運によってこれまで散々ありえない経験をしてきたからそういうこともあるのかもしれない、とある意味慣れっこになっていたというのもある。


 ただし、確かにこの階層表示のバグもこのフロアに来てからの異常には違いない。

 ショウはメモアプリにこの件も書き付けた。


「他にはあるかな」


“モンスターがいない”


“使えそうなものが何も落ちてない”


“罠もない”


「OK。それも書いとこう」


 さらに意見を募ってみたがリスナーからはそれ以上のアイデアは出て来なかった。

 どうやらこれで打ち止めのようだ。


「まとめると、ここまでの調査で判明したこのフロアの不自然な点はこんな感じだね」


 ショウは整理したメモを配信用カメラに向けた。




《このフロアについて》


・マップは単純な四角形の通路のみ


・隠し通路はない


・通路が普通より狭い、低い


・通路が無駄に長い


・マップアプリの階層表示がおかしい


・敵、アイテム、罠、一切無し

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