第3話 脱出ゲームの始まり

 ショウは尋ねた。


「ここに出口があるかもしれないってどういうこと?」


“いや、上手く言えないんだけどさ。即死トラップにしては悠長すぎないか?”


「悠長?」


“みんなの予想の通りそこが入った時点で詰みのエリアなんだとしたら、ショウがそこに入った時点で勝負がついちゃってるってことだろ? なのにまだショウが生きてるのおかしくないか?”


“生きてるのがおかしい???”


“そりゃ自害前なんだから生きてるの当り前だろ”


“つーか自害止めたのお前やんけ”


“お前は何を言ってるんだ”


 他のリスナーたちが突っ込みを入れる。

 だが、少しの間が空いてからリスナーは再び言った。


“うーん、なんて説明したらいいのかな。なんて言うか、閉じ込めて放置っていうのはこのダンジョンのトラップっぽくないんだよ”


“うん?”


“もうちょい詳しく”


“つまりな、このエリアそのものが本当にトラップだったとしたら、長くてもショウがマップを埋めて詰んだと理解した段階で毒ガスが噴き出すなり壁や天井が迫って来るなりして確実にショウを仕留めに来ると思うんだ。上級ダンジョンを探索したり配信見たりしたことある人ならわかると思うけど、このダンジョンの即死系トラップってそんなのばっかりだろ?”


“ああそういう意味か”


“言われてみれば確かに”


「なるほど」


 ショウも頷いた。


 上級ダンジョンに関してはショウは自力で挑めるようになるまでネタバレ回避として情報を仕入れないようにしているので、リスナーの言う即死系トラップというのが具体的にどんな物なのかはわからない。

 しかしリスナーが言わんとすることはわかった。


 ダンジョン内に仕掛けられている罠は、基本的に即効性があって分かりやすい物ばかりなのだ。

 例えば初級ダンジョンで良く見られるのは、ショウがここへ飛ばされる原因となったワープ水晶の罠の他に、落とし穴の罠や矢が飛んでくる罠、床や壁から槍が突き出してくる罠などがある。


 そして、それらに共通しているのはどれも引っかかった瞬間に『ああ罠にやられたのか』と直感でわかるものばかりであることだった。


 そういった他の罠と比べると、確かにショウが今いるこのフロアは罠っぽくなかった。

 少なくとも、このフロアのマップを埋めるまではここが罠かもしれないなんて考え自体が浮かばなかったのだ。


 それに、閉じ込めるだけ閉じ込めてそのまま放置、というのは悠長というより残酷ですらあるだろう。

 今回はたまたま剣を持っていたから良かったが、そういったアイテムを持っていなければ自害することすら出来ず、自分が飢え死にするまで待つしかなかったのだから。


 サクッと挑戦できてサクッと死ねる。そして悔しさをバネに再挑戦できる。

 手軽にスリルを味わえるから、というのがダンジョンの人気の一つなのだ。


 ショウは通路の前方を見つめた。


「確かにそう考えてみると、どこかに隠された出口がある可能性が高いのか」


“僕はそう思う。ただしそこへ侵入した経緯を考えると隠し出口なんて無いただの密室の可能性もあるけどね”


“あー、罠とかじゃなく単にそもそも入られることを想定されてない場所にワープしちゃっただけってパターンもあるのか”


“ショウの不幸体質なら十分ありえるなw”


「やかましい。……じゃあとりあえず自害は中断で配信も継続。このフロアに隠された出口があるという前提で調査を始めてみよう。リスナーさんたちも何か気付いたら教えて」


“わかった”


“まかせろ”


“なんだか脱出ゲームみたいで面白そうだな”


“こういう意味わからん展開になるからお前の配信やめられないわ”


 リスナーたちはワイワイ盛り上がる。

 ショウはアイテムボックスに剣をしまうと、周囲に注意深く目を向けながら再び通路を歩いて行った。

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