第2話 ダンジョンの歴史と仕様

 ここで一旦物語を中断し、ダンジョンについて簡単に説明しておきたいと思う。



 この世界にダンジョンと呼ばれる正体不明の扉が出現したのは十五年ほど前のことだ。

 何の前触れもなく、また何の規則性もなく、世界各地の様々な場所に同時に現れたのである。


 ダンジョンが出現して間もない頃は、未知なる存在に対する恐怖によって世界中がパニックに陥った。

 また、新たな資源や利権の獲得につながると踏んだ各国の政府や大企業の間で駆け引きや腹の探り合いがあったりと、数え上げれば切りが無いほど様々なゴタゴタが起きた。


 だが、現在ではそういった面倒ごとはすっかり影を潜め、ダンジョンはただの娯楽施設の一つとして人々の日常に溶け込んでいる。


 というのも、調査が進むにつれてダンジョンが次のような仕様だと判明したからだ。



・ダンジョンの扉の先は地球とは別の世界(遺跡のような異空間)に繋がっている。

 異空間だが何故か電波は届くのでダンジョン探索中でも地球にいる人々と電話などによるやり取りは可能。


・ダンジョンは入るたびに構造が変わる。

 複数人で同時に入っても一人一人別々の空間に飛ばされる。


・ダンジョン内には地球上では見られないようなモンスターとでも呼ぶべき凶暴な生き物や不思議な罠、それとアイテム素材などが存在している。


・出現するモンスターや罠、アイテムの種類はダンジョンごとに異なる。


・モンスターが外へ出てくることはない。


・ダンジョン内で死亡するか、最奥にある出口に辿り着けばダンジョン探索は強制終了となり、挑戦時と同じ状態で扉の前に戻される。



 入る度に構造が変わり、死んでも状態をリセットされて入り口に戻されるだけ。

 どういう仕組みなのかは不明だが、ダンジョンの中は一種のローグライクゲームのようなルールを持った世界だったのである。


 ただ、問題となったのは最後の『ダンジョンから出ると挑戦時と同じ状態で地球に戻される』という項目だった。


 これはつまり、ダンジョン内でいくら珍しい品を手に入れても地球に戻った時には全て消えて無くなってしまう、ということを意味していた。

 唯一持ち帰れるものはといえば、探索をしたという本人の記憶だけ。


 その事実がわかった途端、ほとんどの国や企業はダンジョンに対する興味を失った。

 新たな資源の確保などができないのであれば何の旨味も無いからだ。


 その結果、ダンジョンの扱いはどの国でも大体次のようなものになった。


『ダンジョンは出現した土地の所有者が管理してね。といっても所有者に全責任を負わせるのはさすがに可哀そうだから、ダンジョン内でのトラブルは全て自己責任ってことでよろしく♪』


 要するに政府は関知しないから勝手にやれ、となったのである。



 だが、この決定はダンジョンという新たな概念が文化として発展するのに大きく貢献した。

 その土地の所有者が自由に扱って良くなったことで、ダンジョンの多くは入場料を払えば誰でも入れる娯楽施設になった。

 そして出現から十年以上経った現在でも根強い人気を維持している。


 何しろ、ゲーム世界に生身で飛び込むような体験ができるのだ。

 しかもダンジョン内でどんな目に遭おうが探索が終わったら元通りなので実質ノーリスク。

 ゲームや冒険に興味のある人間なら手を出さずにはいられない。



 また、異空間にもかかわらず何故か電波が通じるということに目を付けたある人物がダンジョン内で動画配信をしたところこれが大バズり。


 そのためここ最近はダンジョンを攻略しながらその様子を配信する『ダンジョン配信』が息の長いブームになっている。



 ショウもそんなブームに影響されてダンジョン配信を始めた一人だった。


 基本的にダンジョン配信は、難易度の高いダンジョンに挑む内容のものほどリスナーからの人気がある。


 しかし、十分な実力があるのに運の悪さに足を引っ張られていつまで経っても初級ダンジョンを突破できないというショウの配信は他の配信と比べてもかなり毛色が違うらしく、色物枠ではあるものの初級ダンジョン配信者としてはそこそこの人気を獲得できていた。



 そんなショウが今回飛ばされた謎の四角い空間。

 果たしてショウは自害以外の方法でここから脱出することはできるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る