死にたがりの君と感情がないボク

気津根雨丼。

君との出会い

 ボクは浅一亮。菱宮高校に通う高校1年生。こう言ったらあれなのかもしれないけれどボクはほとんど感情がない。楽しいものはあっても笑うことができないし悲しいものがあっても泣けないしムカつくことがあっても怒れない。でも自分にとってこれは自慢したいことでもないし直したいことでもない。

 今日は新学期。みんなは勉強とか友達とか色々未来の希望を持っているのかもしれないけれどボクはそんなのはまったくない。ただ出された1日のノルマを終わらせるだけ。それ以外はなにもない。だからもちろん部活には入らないし友達も作ろうと思わない。1人で過ごそうと思っている。ボッチはさみしいとか可哀想とか言ってる人がいるけれどボクはそんなこと全く思わない。だって性格が合わない友達といるよりも1人でいたほうが楽だし。なぜそんなふうになってしまったのかって?それは中学1年生まで遡る。

 ボクが中学1年生のころ。母親が絵に描いたような毒親だった。もちろんゲーム機なんて買ってもらえなかった。ケータイだって親との通話用。フィルタリングがきつくかかっている。家にテレビはあるけれどボクは一切見ることが禁じられていた。起きている時間はほとんどを勉強に注ぎ込まされていた。中学生なんてゲームとアニメが大好きだ。そんな中ゲームができずアニメを見ることができないならクラスメイトと話せないのは当たり前だろう。そもそも友達と遊ぼうものなら母親に叱られるだろう。なぜそんなに勉強をさせられているのかというと母親は友達と毎日遊び回っていたら大学の受験でトップ校に落ちて滑り止めの大学に行った。そのせいで全てが無気力になってしまったのだとか。この経験からボクには大学受験を失敗してほしくないらしい。それに反抗すればいいと思っているかもしれないがボクは正解がわからない。だから一度間違えていたとしても人生を経験した母親のみが一筋の光になっているのである。その光についていかなければボクはどうなるかわからない。そこまで落ちぶれるかわからない。勉強だけしていれば良い。学生時代にやることはたくさんあるが大人になっても役立つのは勉強だけだ。母親はよくそのことをボクに教えてきた。頭が良ければ色々なところで重宝される。今までもそれに反抗せず生きてきたおかげで中学校の定期テストではいつも5番以内に居座っていたし何回か1位も取ったことがある。それ故ボクは今までずっと母親に従ってきた。これからもずっと従って生きていくだろう…

そんな感じでいろいろ考えていたらすごい長い入学式が終わった。

 学校はオリエンテーションが終わったら下校できるらしい。オリエンテーションなんてめんどくさいものなくてもいいんだけど。

 オリエンテーションが終わる頃周りを見るともう友だちになってそうな人たちがたくさんいた。中学生時代を思い出す。ゲームもアニメもわからないなりに話についていこうとしてしつこがられてクラスから少し浮いてしまったことを。でも今は違う。友達なんて必要ない。ボク一人で生きていける。学校なんてなおさら。一人で生きていけないやつは大人になって絶対失敗する。

 次の日。学校の登校日。クラスの座席表を見て席に移動する。…一番うしろの左から2番目。まあまあだな。座席に座っていかなければいけない大学の勉強をしているとガタガタと音がなった。僕の左隣。端の席の人が登校してきたらしい。横目に見ると紫色の長い髪で正直男子か女子かわからない人だった。いかにもボクのような友達がいないタイプだろう。助かった。活発な人だったらダル絡みとかしてきたはずだろう。

 先生っぽい人が来た。おそらく担任だろう。

 「今日の1時間目は隣の人と話してみてお互いのことを知って好きなこととかなどを紙にまとめてみましょう!」

 …はあ。ボッチの一番めんどくさいことはこんなふうに誰かがいなきゃ成り立たせることができない授業である。だから学校は嫌いなんだよ。でも友達を作ろうとは思えない。左の席を見てみる。こっちに話しかけようとしない。仕方がないからボクが先に話しかけた。

 「…ねえ」

 左隣の人が声を出した。

 「うん…」

 声を聞いたところ女子らしい。返事はしてくれた。とりあえずよかった。中学生の頃なんて話しかけたとしてもほとんどの人は無視をして返事をしてくれなかったから。

 「好きなもの何?」

 勇気を出して聞いてみた。

 「ない…なにも」

 ここでボクは察した。この子にも辛い何かがあるのだろう。それが何かは全くわからないけれどボクと同じような感じがした。

 「じゃあ適当に書いておく。」

 これが今できる最大限の気遣いだと思った。

 「うん…ありがと…」

 お礼をしてくれた。この気遣いは間違っていなかったのだろう。それで僕も

「適当に書いておいて」

 と言っておいた。

 話し合うみたいな授業が終わった。紙は先生に提出して後日まとめたものをみんなに配るらしい。それを自己紹介の代わりにすると先生に言っていた。…助かった。自己紹介は大嫌いだから。

 その後は普通に授業があった。ボクにとってその授業は簡単すぎてつまらなかった。…授業中も左隣がずっと気になっていた。多分ボクよりもひどい環境なんだろうと思った。それを制服が示していた。彼女の制服は今日が二日目なのにもかかわらずキレイではない。それは彼女にはは姉がいて制服がお下がりであってきれいにできる家庭環境ではないのだと考えた。

 6時間の学校終わり。一人で帰路を歩く。でも心のなかでは帰りたくないと思っている。勉強が辛い。もうやめたい。したことないことをしたい。そう考えていると家についた。

 ドアを開けると母親が待っていた。

 「今半は18時前。ご飯を15分。お風呂は15分。24時に寝るとしたら5時間以上勉強できるわね。」

 ずっとこんな感じだ。家から帰ると母親がいて勉強時間を決められる。それができないと何をされるかわからない。さっさとご飯を食べる。そこで勉強が始まる。今日は高校3年生の範囲の英語と数学をする。たまに親が見に来るからサボることは許されない。それで5時間後。24時前。今日の勉強は終わりにすることにした。さっさとお風呂には言って寝よう。…その前に母親のいるリビングに行き

 「今日は数学の参考書のここからここまで、英語のここからここまで終わらせました。」

 勉強したしるし。ノートを母親に渡す。これを毎日している。

 「わかった。早くお風呂入って寝て頂戴。」

 「ありがとうございます。おやすみなさい。」

 これですべきことは大体終わった。あとはお風呂入って寝よう。でも5時には起きなくてはいけない。だから毎日5時間睡眠だ。もうそれは慣れたから良い。それでボクは眠りについた。

 次の日。ボクはしっかり5時に起きた。ご飯を食べ準備をし1時間くらい勉強をして学校に向かった。学校に行ったとしても勉強は簡単すぎてつまらない。何のために学校へ行くのかもわからなくなっている。席につき勉強をしてしばらくすると左隣の席の彼女が登校してきた。(…?)ボクは違和感を覚えた。制服が昨日よりも汚れている。…でもボクには関係がないからあまり深くは考えないようにした。自分がしなくてはいけないのは勉強だ。母親が言う大学にいかなければいけない。そのために勉強をする。

 授業が始まった。やっぱり全部わかる。つまらない。もう完璧で復習にすらならない。授業中当てられて答えられていない人がいた。基礎すらわかっていないような人もいるらしい。煽るわけではないけれどなぜわからないのかわからない。

 授業終わり。また帰ろうとしたが運悪く先生に捕まり屋上の鍵を閉めてほしいと頼まれた。なんで自分がと思ったが教室には誰もいない。遅れるとやっかいなことになるんだが。仕方なく屋上へ行った。すると屋上のドアが空いていた。開けて屋上を見渡してみるとフェンスの外側に人が立っていた。目を凝らしてみると

            『彼女』

が立っていた。

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死にたがりの君と感情がないボク 気津根雨丼。 @kitsuneudon_dondon

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