魔女ですが吸血鬼にされたので国外追放されます~聖女のせいで王国滅亡エンド突入?詰みは回避するからがんばって。~
るうど
第1話
まず確認しよう。
ここはアルマリス。聖女によって守られた王国。
アタシはその国によって囲われた魔女『リッカ』。
ここは、王城の中にあるアタシの部屋。
……じゃぁ、そこの割れた窓は何?
今目の前に居る、この男は誰?
……私の肩から、赤い血を垂らしてシーツを濡らす傷口は、なんで噛みつかれたような形をしているの?
「っ!?」
頭では混乱していても、私の身体は的確だった。
とっさに片手で首に掛けていたネックレスを握り、もう片方の手を男にかざす
男に向けてかざした手の平から、黒い弾丸が飛んだ。
突然の一射に不意を突かれた男が大きくのけぞり、そのまま化粧台に強かに叩きつけられる。
「魔女様!」
騒ぎを聞きつけて、夜警の兵士が乱入する。
「貴様、何者だ!」
すぐに状況を察した兵士が、叫びながら男に殺到する。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
兵士の後から、私の付き人が駆け寄ってきた。
「あぁ、血がこんなに……!すぐに手当をいたしま……えっ?」
肩から伸びる血だまりに気付いたお付きが持っていたハンカチで肩の血を拭う。
私からも見えるその傷口は、くっきりと噛み跡の形を作っていた
「うそ、うそょ!」
付き人がハンカチを押し当てる。そのままごしごしと擦りつけて、まるでただの汚れだと信じるように拭い続ける。
「お願い!消えて!!消えてよ!!
いや!!!お嬢様が、お嬢様が!!
吸血鬼になってしまうなんて!」
「もういいよ、エレーナ」
アタシはそういって、付き人……エレーナの手を片手で止める。そしてもう片方の手で、彼女の目から流れる涙を拭ってやる。
「もう手遅れだから、ありがとうね。」
そういって彼女を抱きしめると、彼女が耐えきれなくなったように声も泣く泣き始めた。
……その間のアタシはというと
(こっちがハッピーエンド行こうとしてるのに滅亡エンドに進めんなダメ
めっちゃくちゃキレ散らかしていた。
アタシはいわゆる転生者、らしい。
というのも前世の記憶と呼べるものが、この世界を舞台としたゲーム『アルマリスストーリー』のほぼすべての情報だけだったのだ。
だから、今のアタシは、どのルートを通ればどんな結末を迎えるのかわかる程度の人間だ。
(『アルマリスストーリー』は、苦肉の策で異世界から召喚された聖女が、一目ぼれした王子と結ばれるべく、奮闘する恋愛シミュレーション。……その作戦のほとんどが『婚約者である魔女を追い出す』なあたり、恋愛の名前を冠してるのがわけわかんないものだけど。)
私を噛んだ吸血鬼が兵士に連行された後、すっかり起きてしまった私は、寝間着姿のままベランダへと向かった。
ベランダに用意されている椅子に座ると、真夜中だというのエレーナがティーセットの置かれたワゴンを押してやって来た。
「わざわざ淹れてくれたんだ?まだ夜なのにありがとうね。」
「いえ……これくらいしか、出来ませんから……」
そういって目を伏せたエレーナが、カップに紅茶を注ぐ。
「それに、今一番お辛いのはお嬢様のはずです。まさかこんなことが起こるなんて。」
「そうね……まさか領地に吸血鬼が入り込んでいるなんて」
目の前に差し出された紅茶で、溜息を喉の奥に流しこむ。
(『魔女吸血鬼化ルート』……市内で見つけた吸血鬼に魔女を襲わせて、魔女を吸血鬼にすることで国外に追放させるルート。
追放確定が一番早いとはいえ、吸血鬼と遭遇すること自体がかなり低確率で、成功するかどうかも運まかせな超運ゲールート。……知ってることすら珍しいこのルートであの結末を望むとはね。)
この世界では、吸血鬼は人間の怨敵だ。内に潜み、仲間を増やして陥落を招く。
そのために王国は吸血鬼への対抗策として聖女と魔女を王子の妻として保護している。
魔女吸血鬼化ルートは、魔女が吸血鬼にされてしまったことで国外に追放された結果、王子の愛を聖女が一身に受けるルートなのだ。
……とはいえ、ゲームのように何もせず進めるわけにはいかない。魔女には魔女の役割がある。
「エレーナ」
「はい」
カップを置いて従者に声を掛けると。彼女はすぐに気を引き締めた。
「明朝、王子に全てを伝える。隠せるものでもないからね。あなたには、準備してほしいものが沢山あるの。忙しくなるよ」
「なんなりと」
私の言葉に臆することなくそばかすの付いた少女は言った。
いい従者をもったわ。本当に。
それから一か月。
私の身体は、完全に吸血鬼のそれになっていた。血の気の引いた青白い肌は、日に当たるだけで焼け焦げるだろう。
「……はい、終わりました」
エレーナの声に合わせて目を開けると、にっこりと笑う彼女の顔が見えた。
「お奇麗になられましたよ」
「ありがとう」
彼女の心からお礼を言って、椅子から立ち上がりドレスの様子を確かめる。
「この体すごい不便、化粧も満足にできないなんて。」
「鏡に映りませんものね」
苦笑しながらドレスの皺を伸ばす付き人が言った。
「でも大丈夫です!私がして差し上げますので!」
「……あなたはそれでいいの?」
元気いっぱいに握りこぶしを作る少女に私は尋ねた。
「この王子の誕生日会、今日を過ぎれば、私は国外追放に身になる。
……けど、あなたまで国を出る必要はない。あなたは私じゃなくて、王家に仕えてるからね」
「……そうですね」
少女は少し寂しそうに、けれど強い意思を持った目で言った。
「けれど、私のお嬢様は、リッカ様だけですから」
「……そっか」
微笑むエレーナにつられて私も笑った。
「それじゃあいこっか。魔女人生最後の大仕事だよ」
「はいっ!」
王子の誕生日に合わせて行われた舞踏会。夜も深まり、宴もたけなわといった時間にようやく表れた魔女に、名家の方々のひそひそ話が聞こえ始める
「魔女様がいらっしゃったが……」
「あの顔の色、もしや噂は本当だったのか?」
「それに服の色も。魔女のドレスは“黒”が決まりだろう?あれは……」
「灰色……?」
漏れ聞こえるそれらをスルーして、王子の前に向かう。
私の姿を見て恐々と離れた人の壁で、私と王子。そして白いドレスに身を包む聖女が残る空間が出来上がった。
「あなた」
目の前に立つ王子に向かって、私は深々と頭を下げた。
「いえ、王子様。御覧の通り、私の身体は吸血鬼に侵されてしまいました。」
「あぁ、噂の通りだな」
普段の温厚な様子とは裏腹に、威厳のある声が響いた。
「国法に則り、汝を国外追放とする。良いな」
「はい、ですがそれに当たり……」
私が顔をあげると同時に、人の壁を抜けてやってきたエレーナがその手にあった物を王子へと差し出した。
それは、何枚かの紙の束と、黒い宝石の入ったネックレス。
「魔女の印たる魔術印をお返しいたします。新たな魔女へとなりうる人物も調べ上げさせて頂きました。
……新たな魔女と共に、国を繁栄に導きなさってください。」
「……あぁ、うけとろう」
「待ってください!」
王子が自ら受け取ろうとしたその手を止めたのは、これまで沈黙を持ってた聖女の叫びだった。
「新たな魔女なんて……認めません!そんなの、私知らない……」
その言葉を聞いて、唖然としたのは、王子と招待客たる名家の方々。そして私の従者だった。
私は、むしろ得心がいった。
「王子様、彼女と話をさせてください。」
私は王子に行った。
「少々、夜風を浴びに行ってきます。」
「そうか」
王子は、納得のいった顔ではなかったが、アタシのことを信じてくれるようだった。
「分かった、任せる。」
その言葉を聞いて、アタシは聖女を中庭まで連れ出した。
「どういうことよ!」
人気が無くなった瞬間、聖女が私の胸倉を掴み上げた
「負けヒロインならさっさと消えなさいよ!新たな魔女なんて意味わかんないんだけど!?」
「……やっぱり、あなたも知ってたのね。」
私は聖女の腕を振り払いながら言った。
「『アルマリスストーリー』……それじゃあこの後の顛末も想像できるはずよ。」
「魔女を追い出した聖女が、王子と正式に婚約した!」
聖女は叫んだ。
「そして子供を産んでハッピーエンド!それで終わりでしょう!なんでいまさら新しいライバルと競わなきゃいけないのよ!」
その言葉に私は違和感を覚えた。
「あなた、もしかして……」
……まさかこの女……
「エンド一つ見て満足して、その後一回もプレイしなかったの?一回も?タイトル画面も見なかった?」
「そうよ!悪い!」
聖女は鼻を鳴らした
「私は其処らのオタクどもとは違うの!全エンド回収なんてバッカみたい!一つ見れば十分だわ。」
「それで、魔女吸血鬼化なんてシナリオ引いたの……?豪運が過ぎるでしょ……」
その言葉に私は天を仰ぐ。
「てことは、あなた知らなかったのね。このあと王国に来る結末を」
「結末?いったい何が」
「滅ぶよ。この王国」
聖女の声にかぶせるように、私はそれを告げた
「城の書庫を調べると出る情報なんだけどね。
王国内に吸血鬼を通さない結界『聖女の守り』は、聖女がいることで機能する。
そして、結界に集まる吸血鬼を、魔女が『魔女の槍』で滅する。
……私たちは、二人で一つの防衛装置なんだ」
聖女の顔が驚きに包まれる
「問題は聖女と魔女の条件。
聖女は『聖女の守り』を得るために、神に貞操を捧げて、一生処女として生きる誓いを立てる。
魔女は『魔女の槍』のために、神の前で、自らの手で操を散らす必要があるの。」
こんな奴のために公開処刑されるこっちの身にもなって欲しかった。と愚痴交じりに悪態をつけば、聖女の顔がどんどんと青ざめていくのが分かった。
「そ、そんなこと一度も言われたことないわよ私……」
「召喚された人間が、急にそんなこと言われてもパニックを起こす。王国の危機はすぐそこに迫ってる。
だから無理やりやったの。召喚の際の気絶の隙にね。」
聖女が驚愕する。当然だ、
「でも、吸血鬼の方が上手だった」
聖女の状態を無視して続けた。
「召喚の術に、聖女が王子に一目ぼれして、なにがなんでも子供を産もうとする。周囲もそれを止められない。って暗示を忍ばせてたの。それが、ゲームの聖女。
子供を産もうとすれば、聖女はその資格を失う。そうすれば『聖女の守り』が消えて……」
「吸血鬼が、街に入り放題……」
聖女が、ことの重大さを認識し始めた
「そんな、あんな幸せそうなスチルだったのに」
「あの後タイトルに戻ると、王国が火の海になってる映像になるのよね。」
私は、聖女に最後の言葉を伝えた。
「それを回避する唯一の方法が、『聖女と魔女の和解ルート』を進むこと。
聖女が全ての事情を知って、魔女の協力のもと暗示を解除、吸血鬼の計画を阻むルート。
あなたがまだ王子と夜を共にしていないなら、まだこのルートに進めるはず。」
「無理よ……」
聖女が恐怖に飲み込まれたように蹲った
「無理よ!だって、
「大丈夫だよ」
涙声で叫ぶ聖女の前で膝をつき、顎に手を添えて上げさせる。
「そのために新しい魔女を用意したの、あなたは今全部の事情を知った。あとは、魔女と協力するだけ。」
そういって微笑む私に、聖女がつられて笑いだす
「あなたなら出来る、きっとね。」
いまだ涙が止まらない聖女を抱きしめて、その背中を撫でてやる。
一か月ぶりだこんなの。なんてくだらないことを考えながら。
「二人とも、大丈夫!?」
私たちの帰りが遅いのを気にしたのか、王子が会場から走って来ていた。
「王子様!会場はいいのですか?」
アタシはつい大声を出してしまった。
「さすがに主賓が抜けるのはどうかと思いますが」
「パーティはもう終わったよ」
王子は外向きの威厳のある表情と打って変わって、人懐っこい笑顔で言った。
「それで、聖女は大丈夫なのかい?」
「えぇ、私の話に驚いただけですわ。」
そういって、彼女の手を取り立たせてあげると。私は続けた。
「それでは私も下がらせていただきます。もう会うこともないでしょう
……聖女様!」
私は彼女の両手を握る。
「あとはあなた次第ですわ。頑張って!」
「あのっ……」
彼女の返事も聞かずに、私ははしたなく走り出した。
「王国の繁栄を願っておりますわ、お二人とも!」
叫びながらスピードを上げる、今更にこぼれた涙は、走る勢いのまま手で振り払った。
「お待ちしておりました、リッカ様」
「ありがとッ!!」
動きやすそうなシャツにオーバーオールという、王族の従者としては落第な姿で待っていたエリーナが扉を開けた馬車に滑り込む。
「いかがいたしましょうか。」
御者席にのった彼女が、気分良くに言った。
「いえ、どこまで行きましょうか?」
「……ふふ」
そんな様子に少しおかしく笑いながら、アタシは叫んだ。
「何処までも!行けるとこまで!」
「御意!」
少女が勢いよく鞭を打つ。
私たちの馬車は夜の街を駆けて行った。
あれから、私たちは王国からそう遠くない場所にある森の奥に家を作り住み着いた。
王国がどうなったかは知らない。
けれど、此処まで戦火が及んでいないことを見ると、彼女はやってくれたのだろう。
そう思っておくことにした。
魔女ですが吸血鬼にされたので国外追放されます~聖女のせいで王国滅亡エンド突入?詰みは回避するからがんばって。~ るうど @kinkabyou
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