電気あんまロボット

沼津平成

第1話

「完成したぞ!」科学者の声が響いた。

 電気あんまロボットの初体験者を決めようということになったのは三日前のことである。だから博士の「完成したぞ!」の声も三日前のことである。

 二日前のことである。

 コホンと博士は咳をした。

「今日、電気あんまロボットを受けてくれる人を探そうと思う。候補あるか」

 誰も、手があがらなかった。

「無理にでも、わしが指名する」

 準備室に緊迫感が走った。博士が指名したのは、着任してまもない新人の男二人と、遅刻してきたベテランだった。

 博士はなんとか危機を免れた社員たちに伝えた。「ほら、少しでも意味をわかっていない人の方がやりやすいだろう?」

 そして、三人の被験者に向き直った。

「一番、久保トウスケ」

 呼ばれたのは新人社員のうち、もっとも間のぬけていて、もっとも腹の肥えた、つまり典型的なぼんやり男だった。

 博士はこの新人を「被験者」が集まる支社にあえて入れていなかった。そろそろベテランから「不運だね」といわれるころになったのだと、博士の機械が教えてくれたからだ。

「おい、被験者一番!」博士が怒鳴った。

「へえ、なんか被験者ってことにされてますが、まあいいでしょう。はい、被験者一番ですー」

(そんなに間がぬけてるのか、これはいいぞ)と博士は思った。

「すまんが三番目にやり直してくれないか」

「え、はい。まあいいですけど……」

 うーんと首を傾げながら、肥えた男は最後尾に戻って行った。

 さて、前の二人はというと顔から塩を含んだ汗をべちゃべちゃに垂らしてお互い顔を見合わせていた。

「鈴木!」

「はっ、はい!」

 呼ばれたのはもう片方の、身がシュッとしていた新人だった。

「ロボットの前に来てくれ」

 人の形をしたロボットで、人の二倍くらい大きくて、人の二倍くらい太かった。

「ロボットの腕のところに赤くて丸いボタンがあるだろう?」

「はい……これを押すんですね」

「察してくれたね」

「はい」足を大きく開いた新人がボタンを押した。

 ジーという、金属の軋むような音が鳴ったかと思うと、素早くゴムを取り付けたアームらしきものが、新人の股間に届いた。

 新人の地球をつんざくような悲鳴が響いたのは、それからコンマ数秒のことだった。

 悶えるような痛みがまだ残っているが、新人は席をたって一礼した。

 科学者は満足した。「あとの二人も、戻って良いぞ」

 かくして三人が準備室に帰還してきたのだった。

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