【掌編】夏の誓い【600文字以内】

音雪香林

第1話 夏の誓い。

 夏休みとはいえ高校受験が控えている僕に自由などない。

 母の監督の元、タブレットで数学の問題を解かされている。


 学習用のこのタブレットは間違えた問題から僕の苦手を探り出し、正解するまで容赦してくれない。


「鳥はいいなぁ、自由に空を飛べて」


 ふと窓の外に視線をやり、スズメが飛び立つのを目にしてつぶやいた。

 別に深く考えて口に出したわけじゃない。

 なのに母は。


「鳥は暑い中、自力で餌をとるべく絶えず活動しているのよ。人間様のあなたは冷房の効いた涼しい部屋でのんびり勉強していられる。営業時間中はいつでもお金と交換で食材をくれるスーパーがあって、好きな時に好きなように空腹を満たせる。鳥は怪我をしたら人知れず死んでいくしかないのに、人間は病院で手当てしてもらえる。確かに鳥は自由だけれど、その自由を得るために安定を犠牲にしているのよ。あなたは過酷な自由に耐えられるの?」


 と、怒涛のように説教を垂れて来た。

 これだから嫌なんだよ。

 口では絶対に勝てない。


「わかったら勉強に集中しなさい」


 僕に許された答えは「はい」だけだ。

 数学の次は国語を勉強しよう。


 語彙力を上げていつか絶対に舌戦で勝ってやる。

 胸の奥で、夏の太陽にも負けない誓いの炎が灯ったのだった。




おわり

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