「ホップ、ステップ、〇〇〇」

低迷アクション

第1話

「ホップ!ステップ!〇〇〇」


「おい、見ろよ。これ」


木にブラさがった“期待通りの品”を見て、友人の一人がはしゃいだ声を上げる。


“K”さんの“外出自粛”時代の体験である…


世界規模で発生したウィルスの猛威は、外で人と会う機会をほぼ皆無の状態に追い込んだ。これを読む皆さんにも、覚えはあると思うが、少しでも外で集まれば、


例え、マスクをしていても、白い目で見られたり、遠くから非難の声をかけられた事はないだろうか?


筆者の友人も、この時代、冬場の海岸なら、人は来ないと思い、数人で酒盛りをした所…海岸から数百メートル離れた高層マンション上階の住人から通報され、警察に注意を受けた事がある。


今でも思うが、人間の愚かさ、卑屈さが十二分に露見した数年間だと思う。


最も、この馬鹿げた狂乱も、昨今の頻発する地震や臨海地域の状況悪化により、再びの到来を迎える事が予想される。


話が多いに逸れてしまった。Kさん達は、筆者の友人のように海岸や公園での騒ぎを一度は考えたと言う。


だが、彼等の住む地域は、その立地上、警察の巡回や、ご近所の目から逃れられない事は明白であり、すぐに却下となる。


最終的に選んだのは、近くの山林だった。住宅地終わりに入口がある自然公園を更に上った所の、その場所は、滅多に人が入らず、手つかずの状態…そして、少し進んだ山の中腹に、開けた場所がある事を、彼等は子供時代に遊んだ経験から、知っていた。


ここなら、大きな声を出しても、問題はない。仲間の中にはキャンプを趣味にしている者もいる。


彼にアウトドアの照明や椅子、テーブルを用意させ、数人のメンバーと共に山へ向かった。


実は、この山林に人が寄り付かないのは、大きな理由がある。


「自殺の名所です。ヒッソリとしてるから、死にやすい?死にたくなる連中の気持ちなんてわかりませんが、


とにかく、年に1~2人は首吊るって事で有名です。それ以外は何もない、平和な

トコなんですけどね…だから、その時も、もしかしたら、“自殺者”いるんじゃない?だったら、見に行こうよ?なんて、軽い気持ちでした。実際、コロナで増えましたよね?死ぬ人…だから」


山林に到着した時に、木に吊るされた“輪っかつきの縄”は正にサプライズだった。


「頭可笑しいし、不謹慎ですよね?でも、あの時は全員が刺激に飢えてた。それに

鬱憤も相当…輪を囲んで、大笑いしてました。だってね…」


その縄が“かかっている位置”は笑いを誘うに充分だったと言う。


「さっきも言いましたが、自殺する人の気持ちはわかりません。それでもわかる事はあります。普通、自殺って、ちゃんと地に足がつく所で、まず、首に縄を通す所から始まる訳でしょ?


でも、輪っかが、ついた枝と地面の間は、控え目に見ても2メートルはあります。


しかも、場所も場所、山林の中でも、丘みたいにそり立った先の終点…まるで、助走つけて、ホップ、ステップ、ジャンプ!で、首に縄通してゴール!みたいな感じ…

全員が真似して、大笑いです。まぁ、誰も本気じゃなかった訳ですが、そしたら」


縄がある枝を囲んで酒を飲むKさん達、それとは別の音が、林の奥から聞こえ始めたと言う。


全員が視線を向けると、ふらつく足取りのサラリーマン風の男性が、丘に立ち、

ゆっくり縄に向かい始めていた。


全員がポカンと口を開け、眺める。


男は足のスピードを徐々に早め、ステップを踏んで、飛び上がり、首が輪っかに収まるのを見た瞬間…Kさん達は歓声を上げる。


「正に予想通り、トリプルA?やったぜ!みたいな感じだったのは数秒…ぶら下がった足が、目の前でブラブラした瞬間、正直…酔いが一気に醒めました。


そこからは、全員で丘登って、縄を切りました。枝から地面は2メートルでしたが、丘がステップ代わりだったので、大丈夫。アウトドアの奴がナイフ持ってたんで、もう、三密避けろって場合じゃねぇってなって、全員で連携して、リーマンの人助けました」


その後、男性は助かったが、体に重篤な障害が残ったと言う。


Kさんは、取材中に、男性が首を吊るとき、友人の一人が撮影した、スマホの動画を見せてくれた。


彼等の言った通り、正にホップ、ステップ、ジャンプ!の要領で、男性の首が輪っかに収まり、直後の歓声と悲鳴…


ただ、問題と言うか、気になったのは…


こちらの疑問が伝わったのだろう。Kさんが頷く。


「わかり…ますよね?そうです。男の顔、泣きそうですし、口は叫んだように大開き…体は前に進んでるけど、首だけは後ろに…イヤイヤするように、頭振ってます。


これって、アレですよね?嫌いな所に連れてかれるのを全力で拒否する動き、でも抗えない。後ろから、誰かに掴まれてるか、押されてるのか?…後ろの奴、映ってねぇけど…」


事件の後、Kさん達が山林に行く事はなかったが、今でも、首を吊る者が出ると

言う。最後に、彼は少し笑ったような声で取材を締めくくる。


「正に、ホップ、ステップ、ジャンプ!であの世逝き…いや、この場合、ホップ、

ステップ、デッド!が正しいのかな?すいません、でも、なんだか…ハハハ」


声とは裏腹なKさんの顔…その顔は決して、笑ってはいなかった…(終)

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