第29話 風見鶏令嬢、新たな天使と出会う!?
戦場の中心で虎が少女になったからか、教会兵は驚愕し、アンフラミストは歓喜の声を上げた。それでもこの混乱を抑えるように、教会兵のリーダー格が、さっとウチに向かい銃を構えた。
「お前は何者だ? どうして虎に変身できた?」
「えっと、話せば長くなるんやけど、決して怪しいモンやあらしまへんっ!」
ウチは両手を振って弁明した。
「怪しい……。
「いやいやいやっ! ウチが反教会なんてことがあるわけないやろ! ウチはフラミンゴス教会の風見鶏、この世界の救世主なんやで!」
「救世主……?」
ウチの背中から、虎の覆面を被るアンフラミストの呟きが聞こえた。
「せや。ウチは東亜の風見鶏、ニーナ・ワトリエルや。嘘やと思うんやったら、トコナミアのリブレー教会堂の司教、ウマ……いや、えっと、ウェ……なんやったっけ? まあええわ。そこの偉いさんに聞けば分かるはずや!」
「トコナミアの? 確か、最近誕生した東亜の風見鶏は、民衆を導き、反教会を掲げたデモを行った罰を受けての救世主だと聞いている。やはり、お前は
ガチャッと銃から音がして、いよいよ絶体絶命の危機――。
ぎゅっと目を瞑ったウチの耳に、「――おやめなさい」という少女の声が聞こえた。
恐る恐る瞼を開けると、そこにはウチより背の高い少女が立っていた。ウチに背を向け、教会兵と対峙しとる。その後姿は、ウェーブのかかった銀髪のポニーテールで、シルクのイブニングドレスを着とる。何とも色っぽいお姉さんやった。
「ロリーナ様っ……!」
「ロリーナ……さま?」
「――ロリーナ様は、このナルシアの救世主・風見鶏にして、西側諸国を治める九星連合国の、統一王女ですわ」
また少女の声がしたかと思うと、それはウチの後を追ってきたアリスやった。
「アリスディーレ……。このような場所にいては危険よ。あなたはシンドリック教会堂に避難していなさい」
「いいえ、ロリーナ様。わたくしは将来の新たなる教典の著者として、この争いの行方を見届けなければなりませんわ。危険は百も承知――。この場にて、貴方様の救済を記録させていただくことを、どうかお許しくださいまし」
恭しく傅くアリスに、ウチは絶句した。
「アンタが新たなる教典の著者? こないな子供が教会の教典を書くいうコトなん……?」
「ええ、そうですわ。今ある『五大教典』は、この世界を創った神と、その子である天使が、人類を創造し、今の世界を築き上げるまでの物語。そして人類を安穏の世界へと導く救世主の奇跡を著したものが、『救済教典』――フラミンゴス教会の新たなる教典ですわ」
ぶわっと風が吹いた。目の前に立つロリーナ様の銀髪から、キラキラした光の粒が風に乗って消えていったように見えた。
(ふわぁ……これがホンマもんの救世主かぁ。……
って、ウチかてホンマもんの救世主やっちゅうねん! ……せやろ、チャランヌ)
あまりに神々しいロリーナ様の姿に、ウチは自分が本当に救世主なのか疑わしく思えた。
「――くそう! こんなデタラメが世界で唯一の信仰のはずがない! フラミンゴス教会の言うことはすべて偽物だ! 詐欺だ! ペテン師集団だ!」
ウチの後ろにおったアンフラミストらが、虎のような咆哮を上げた、次の瞬間――。
銃声音と共に、ウチの前におったロリーナ様が崩れ落ちた。その胸には撃たれた痕があって、シルクのイブニングドレスに真っ赤な血が滲んでいく。
「えっ……?」
「きゃああああ! ロリーナさまっ……!」
ピカッと斜め上に光るものが見えた。そこは崩れたビルの屋上で、虎の覆面を被ったスナイパーがこちらを狙っている。
「アイツや! アイツがロリーナ様を撃ったんや!」
ウチが指差す先に、教会兵らが一斉射撃する。
「よし! 救世主は死んだ! この国からフラミンゴス教会を排除する!」
またもや反教会と教会兵による撃ち合いが始まり、「ひいいい!」とウチはその場に身を伏せた。
「いや……ロリーナさまが……」
放心状態になっとるアリスに気づき、ウチは叫んだ。
「あほう! そんなとこに突っ立っとるとアンタまで撃たれてまうで! 早う逃げなっ……!」
せや。早うこの場から逃げな、ウチかて死んでまう。戦場の恐怖心から体が震えるも、どうにかアリスのドレスを掴み、その場に伏せさせた。
「いやよっ……! ロリーナ様を置いて逃げるなんてできないわ!」
「あほう! 死んだらなんにもならんのやで! アンタは新たなる教典の著者になるんやろ! せやったら、最後まで生き続けなアカンやろ!」
必死の説得に、アリスがハッと顔を上げた。
「それに、まだロリーナ様が死んだとは限らんやろ! ウチら救世主をナメたらアカンで。ウチらには、五大天使のご加護があるんやからな!」
なんでこないなことを口走ったかは知らんけど、自分に言い聞かせるよう以上に、アリスを安心させたかったのもある。
「ニーナ、あなたは、本当に……?」
「せや! ウチは東亜の風見鶏令嬢、ニーナ・ワトリエルや! ナルシアの救世主、ロリーナ様を含め、ウチがこの国の全員を救ったる!」
その時、どんよりした曇り空から、一筋の光が差し込んできた。
「おっ! やっとお出ましかいな! だれやだれやだれやー?」
「誰が来るかな、誰が来るかな、誰が来るかな――♪」
ウチが煽ったせいやろか。天使の梯子と共に、デッカイ音量で空からそないな歌が聞こえてくる。しかも讃美歌のごとく、綺麗な声で。
「……は? だれ? って、うるさあああ!」
思わず耳を塞いだウチの前に、天使の梯子が降り注いだ。目を瞑ったウチは、おずおずと瞼を開けた。
そこには、ストリート系のゲームシャツ(ゼッケン番号9にKEVINの文字)と短パンを履いた、いかにもバスケスタイルの天使がおった。
茶色の短髪にキャップを被り、色付きメガネの奥には、ピンクゴールドの瞳が見える。
「ちゃっちゃチャース! 上司に言われて助っ人に来ました~! フォワンヌだしぃ!」
「ホンマ、だれええええ!!?」
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