第28話 風見鶏令嬢、虎になる!?
(――嫌な予感、的中してしもうたやーん!)
"他の生き物体験”で虎になったウチに向かい、兵士らが銃を構える。
「
中央で銃を構える男が苦々しく言った。
(えろうスンマセン。ウチは動物園から脱走した虎とちゃうんです。ついさっきまで可憐な乙女やったんです)
人の言葉が喋れん以上、言い訳なんかできひんけど。
「この虎が連中に見つかるのはマズイ。とりあえず、動物園に戻すのが最優先だな。お前達、収容用の檻を持って来い」
「はいっ……!」
ウチに向かって銃を構えていた数人の男が、走って檻を取りに行った。
見れば、ウチを取り囲む連中はみな、黒色の官帽と詰襟ジャケットにズボンを履いて、右胸には三日月に逆さ剣の教会シンボルが刺繍されている。
(なんや、こいつらが教会兵いう奴らか?)
敬虔な教徒が多いトコナミアでは見かけることのない、教会兵。その役目は、反教会によるデモの鎮圧。黒光りする銃口に、思わずウチの喉奥から「ガルルっ……」と威嚇する声が響いた。
さっと再びウチに向かって銃口が向けられる。そこに、さっきの男らが収容用の檻を運んできた。ウチの前に置かれた鉄格子の檻に、「ほら、入るんだ」とリーダー格の男が促す。
(いやいや、入らんって! 入ったら動物園に連れてかれてまうやん!)
必死に抵抗し、一歩二歩と後ずさる、
「仕方ない。誰か麻酔銃を持ってきてくれ!」とリーダー格の男の指示に、(ちょ、待ってー!? 麻酔銃で眠らせんといてー!)と届くはずのない抵抗が、「ガルルルっ……」と威嚇として飛ぶ。
さっと麻酔銃らしきものを構えた男に、ウチはぎゅっと目を瞑った。
その直後――。
辺りに銃声音が鳴り響く。さっと音がした方角に教会兵らの銃口が向けられた。現れたのは、ウチと同じ虎――? と言っても、虎の覆面を被った連中やった。明らかに敵対同士で銃撃戦となり、その隙にウチは廃墟の間を走り抜けていった。
「――ちぃ! 虎が逃げたぞ!
そんな怒声が背中から聞こえてきたかと思うと、再び息吹いた風見鶏がウチの上空を飛んでいった。振り返ると、虎の覆面を被った連中目掛けて追撃する風見鶏の姿が見えた。それを援軍とした教会兵が瞬く間に覆面の連中を狙撃していく――。
(な、んやの。これがこの国の現状なん? あの風見鶏は救世主なんとちゃうの? なんで人が傷ついとんのに戦っとんの?)
救世主が何たるか、なんてウチには分からへん。けど、敵対する両者の片一方のために戦い、血が流れるんは、違う気がするんよ。
かつて、チャランヌがウチに見せた、この世界の実情が蘇った。
『……また反教会によるデモだ。何度鎮圧すればいい? 何度見せしめに処刑すればいい?』
反教会のデモ鎮圧に駆り出される、フラミンゴス教会兵の悲痛な叫び――。
(……なあ、チャランヌ。あの戦っている男らの中には、この声と同じ気持ちの人間もおるんやろか?)
その問に答えるように、あの時のチャランヌの言葉が蘇った。
『そうだよ、風見鶏チャン。キミは選ばれし救世主だ。だからこそ、この世界の不条理を知らなければならないんだよ』
(なんや。あの時の言葉は、この瞬間のモノやったんか? ウチがこうなるんを、アンタは知っとったんか?)
『ほうら、もっとよく目を凝らしてごらんよ。――世界はいつだって、君達救世主を必要としているんだからさ』
チャランヌの言葉が蘇る。姿は見えないのに、今ここにチャランヌがおるようやった。戦場の方に体を向ける。銃撃戦の轟音も、どちらかも分からん阿鼻叫喚も、覚悟を決めたウチの前では、ただただ静寂に思えた。
(……せやな。ウチは救世主や。救世主やったら、誰であろうと救うのがウチのモットーや!)
戦場に向かい、四肢で駆ける。教会兵に取り囲まれ、降参の意を示す覆面の連中。今まさに、彼らに向かい処刑という銃口が向けられている――。
そこに飛び込んだ、一体の虎。
「ガアっ、ガアアア……!」
いかつい唸り声で教会兵に向かい、咆哮を上げた。虎の覆面を被る連中はおそらく、アンフラミストいう連中やろ。思いがけず助けられたからか、「真実の神よっ……」という驚嘆が聞こえた。
(は? 真実の神? ……って、ウチのこと?)
そんなことが頭を巡っていたところで、突然ポンっとウチの周りに白煙が上がった。
「ごほっ、ごほっ……もう、なんやねん、いきなり!」
ん? ウチの声が聞こえた。ということは……。
「なっ!? 虎が少女になったぞ? どういうことだ!?」という教会兵の驚愕する声の一方で、「貴方こそ、我らが神。虎の女神です!」とアンフラミストの心酔するような声が聞こえた。
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