第21話 五人の枢機卿、誰が上司に叱られに行くかで揉める(2)
いつまでもこの話題では先に進まないと、リヴァーサルは強引に話題を変えた。
「東亜の風見鶏の件は置いといて、今回の『ワーヴェル騎士団』による、新救世主の査定の結果は、どの地方もあまり芳しくはありません。その原因は単に、悪魔による介入であります。救世主は皆、純潔の乙女――。この頃は、彼女達に愛を囁き、闇落ちさせる由々しき事態が頻発しております。その打開策として、我ら枢機卿による悪魔狩りは必要不可欠。異教の悪魔共を狩ってこそ、我ら枢機卿の存在意義はあるというもの。ですが……」
両手を組み、伏し目がちに話していたリヴァーサルが、きりっと四人の枢機卿に目を向けた。
「まるで悪魔狩りが出来ていない、こちらの方が救世主よりよっぽど由々しき事態であることを、各々再確認されたし!!!」
「えっ!!?」
四人が四人とも同じ反応を示した。それぞれに視線を重ね、パチパチと瞬きをする。
口火を切ったのは、最年少ロミエンヌ。
「……エ? まさか皆さん、悪魔討伐に出ていらっしゃらないのですカ?」
「う……それは、聖騎士団の仕事だろう? 私は『土用卿』として、大切な役目があるのだ。悪魔狩りなどという討伐作業をしている暇などないのだっ!」
ぷいっとそっぽを向くナギに、オリバーのジト目が向けられる。
「君が言う役目って、ただ鰻を焼いて、領民に振る舞っているだけだろう? いくら『土用卿』だからって、毎週末『うな重デー』なんて、とても枢機卿とは思えない働きだけどぉ?」
「う、煩い。我がアサックーサ領では、鰻が豊漁なのだ。それを美味しく食すことが、神の思し召しなのだっ」
「完全に趣味として祭っておりますな、ホーキンス卿。ですが『土用卿』だけでなく、『朱夏卿』――、貴公も他人事ではないはずですぞ、フェヴァリ卿」
「ワタシが? ワタシは定期的に悪魔狩りに出ておりますガ?」
「ええ。定期的には、ね。しかし、その定期的というのが、四年に一度というのは、どうなのでしょう?」
「ううっ。そんな頻度だったかナ〜?」
ヒュウ〜と口笛を吹き、焦りを見せるロミエンヌ。
「……いや、あの、地元で領民達と、魚釣りやら畑作業やらする方が性に合っているものでしテ……」
ハハとロミエンヌが頬を掻いて笑う。
「おぬしも大概じゃりん、ロミエンヌ。四年に一度とは、負傷騎士より働いていないじゃりん」
チクチクと痛いところを突き刺すヴァン=サリーに、「それは貴公もですぞ、レックスマン卿」と、リヴァーサルが弾劾の眼差しを向ける。
「何を言う! わしは聖騎士団の団長じゃりん! 悪魔狩りこそ、我が使命。フラミンゴス教会の神髄を征く枢機卿じゃりん!」
「いつまで現役時代の話をされているのですかな? 貴公がバリバリ悪魔狩りをしていたのは、およそ三十年前。今ではすっかり、団長として聖騎士団の駒を動かすだけの、隠居ジジイですぞ?」
ニッコリと笑って、隠居ジジイの烙印を押す、リヴァーサル。
「ぐっ……ぐうの音しか出んじゃりん!」
「まったく、教皇をお支えする枢機卿とは思えない体たらくじゃないか。やっぱりここは、最年長の僕が指示を出さなければならないようだね」
三人の枢機卿の現状に、やれやれとオリバーがしゃしゃり出る。
「いえ、貴公の出る幕はありませんぞ、フィニー卿。何だかんだで、貴公の行動が一番問題ですからな」
「僕の行動って、僕はちゃんと悪魔狩りを生業としているよ? 見た目も体力も三百年前から変わっていないから、ヴァンサリーのような老害にはなっていないし」
「老害とはなんじゃりん! わしは老害だけにはならぬと神に誓っておるわい!」
ワーワーと喚くヴァン=サリーを、どうどうとロミエンヌが落ち着かせる。
「ええ、貴公が悪魔狩りを生業としているのは存じておりますぞ。ですが、その悪魔狩りと称する生業において、それを庶民に配信していることが、教会全体のイメージダウンに繋がっているのですぞ!」
「ええっ? 僕の公式チャンネルだよ? 『フィニー卿の、今日も悪魔狩り、いってみよう♪』は、登録者数550万人の、一大コンテンツだよ? このチャンネルを観て、将来悪魔狩りになりたいという少年少女が増えているんだよ?」
「ええ、それは認めましょう。ですが、最近はエンターテインメント性を重要視するあまり、狩られる側の悪魔と事前に打ち合わせをされていらっしゃいますよね?」
「え?」
それには、ヴァン=サリー、ナギ、ロミエンヌの三人も理解不能の表情を隠せない。
「ま、まぁ、あまり血生臭いシーンを見せる訳にはいかないしねぇ。本来の悪魔狩りは、言わずもがな、グロいだろう? そのまま配信したら、いくら枢機卿でも、即刻
「だからと言って、簡単に悪魔を滅してみせては、誰でも悪魔狩りができると勘違いされても致し方ないのですぞ。貴公の動画を真に受け、軽い気持ちで悪魔狩りをする若者が後を絶たないことで、逆に彼らが悪魔の手に落ち、その数が増えていっている現状」
「それは本末転倒なのでハ?」
「うむ。最低最悪じゃりん」
「最早、詐欺チャンネルだろう」
三人の枢機卿から非難の声が上がる。
「で、でも……! ちゃんと冒頭で忠告しているよぉ! 『これは枢機卿だからできることであって、安易に一般人が悪魔狩りをすることはやめましょう』って!」
「それが何だ言うのですかな? 貴公は悪魔側と打ち合わせし、結局狩ってはいないのですから、名ばかりの悪魔狩りに過ぎないのですぞ。それどころか、最近は悪魔側にもいくらか収益をフィードバックしていらっしゃいますな。枢機卿の素質どころか、悪魔と手を取り、共存共栄を図るその姿勢、とても容認できませぬぞ」
厳しい糾弾が向けられる中、わなわなとオリバーが震えだす。
「……ぼ、ぼくだって、教会の未来のために動画配信を頑張っているんだよぉ!」
「だからその
そう言って、リヴァーサルが自作のパネルをオリバーに向ける。
フィニー卿の、今日も悪魔狩り、いってみよう♪→悪魔とのヤラセ動画→視聴者による安易な悪魔狩りの横行→視聴者が悪魔に返り討ちにあう→悪魔堕ち→結果、悪魔の数が増える→悪魔による被害案件の増加→少数精鋭の聖騎士団による討伐が間に合わない→民衆による反教会運動の増加→フラミンゴス教会のイメージダウン
「……ねえ? お解りになりましたかな?」
リヴァーサル他、三人の枢機卿の冷たい眼差しが向く。
「……は、はい」
しゅんと小さくなったオリバーが、かき消されそうな声で返事した。
やれやれと、一息吐いたリヴァーサルの隙をつくように、「……そういう君も、相当だよねぇ?」とぶっ込む。
「はい? 私は五色の枢機卿の中では、一番正常だと思いますが?」
「いやだなぁ、ジャロ。優等生振るのはやめなよぉ。まさか僕が君の趣味を知らないとでもぉ?」
「な、なんのことだか、さっぱりですなっ……」
「じゃあ、はっきりと言ってあげよう。ペンネーム『ただいま青春真っ盛り』」
うっ、とリヴァーサルの顔から平常心が消えていく。
「作品名『枢機卿の俺が終末世界を救ってみせるだなんて、いつ宣言しましたっけ!?』」
「わーわーわー!」
「他にもあるよね。『エリート枢機卿、サキュバスに溺愛され、今日も聖職者の仕事が手につきません!』」
「ぎゃあ!」
「どちらも君が投稿サイトで連載している小説だよねぇ? しかも、サキュバスの方は、R指定のタグ付きのようだけど……?」
暴露された趣味に、一層ドン引く、三人の枢機卿。
「それは破廉恥なのでハ?」
「うむ。最低最悪じゃりん」
「最早、枢機卿という名のエロ作家だろう」
顔を真っ赤にして、リヴァーサルがわなわなと震える。
「……い、いいでしょう、エロ小説書いたって! 詐欺まがいの動画チャンネルよりかはマシでしょう!? それに悪魔狩りの方が遥かに不健全で、とても子供達には見せられませんぞ!」
大声で反論するリヴァーサルに、オリバーが覆い被さるように訴える。
「いや僕のチャンネルは、
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