第20話 五人の枢機卿、誰が上司に叱られに行くかで揉める(1)
「――いやぁ、しかし、困りましたなぁ」
枢機卿の一人が両手を組みながら、露骨に溜息を漏らした。青・赤・黄・白・黒の
「まあ、想定内といえば想定内ですがネ」
そう含み笑いを浮かべるのは、赤の『
「だが、この報告書を法王様方にお見せするわけにはいかぬだろう。特に問題なのは、東亜の救世主だが……」
机上に置かれた分厚い報告書を閉じたのは、黄の『
「まあ、『ワーヴェル騎士団』による査定の結果じゃりん。報告書を読むまでもないのう。改ざんもなければ嘘もないはずじゃりん。彼らが適格と判断した――。ならば、教会認定の救世主としても良いんじゃないかりん?」
フォッフォッフォッと笑って仰け反るのは、白の『
「クク、さすがは聖騎士団の団長だねぇ、ヴァンサリー。部下の仕事を信じているんだぁ。でも、FP(フラミンゴス・ポイント)0でも適格としたその彗眼は、果たして本物かなぁ?」
ヴァン=サリーの隣に座って、その貫禄を煽るのは、黒の『
「確かに、今回の査定でFP0だったのは、東亜の風見鶏だけだ。つらつらと理由が書かれているが、最後のコメントはなんだ? アルルカンは気でも振れたのか?」
「ああ、あのコメントですネ。確かに笑……いや、『ワーヴェル騎士団』の副団長ともあろう男とは思えない報告書ですからネ。その資質さえ、疑わしく思えますヨ」
「なんじゃりん! 寄ってたかって人の部下の仕事を疑いよって! わしの愛するアルルカンが不正でもしたかのような言い草はやめるじゃりん!」
「誰もそこまでは追及しておりませんぞ、レックスマン卿。我らがフラミンゴス教会の救世主は、みな純潔の乙女。だからこそ、アルルカンの最後のコメントには、疑問を抱く他ないのです」
リヴァーサル他、三人の枢機卿の視線がヴァン=サリーに向く。
「ううむ、奴は何と? わしの愛するアルルカンの報告書じゃりん、私情など挟んでおらぬじゃろ……」
そう言って、分厚い報告書を「よっこいしょ」と自分の方に寄せたヴァン=サリー。
「この報告書、年寄には重すぎるじゃろ。どれどれ……?」
ジジイによる独り言が続く。終始、冷めた枢機卿達の視線が向けられていることには気にもとめず、「さてと」と該当箇所に目を走らせた。
――アルルカンの報告書――
『東亜の風見鶏(ニーナ・ワトリエル)の救世主適格査定について』という見出しから十数ページにも及ぶ実態報告書の中身を飛ばしていき、最後のページ。
『――以上、いくらか改善点は見受けられるものの、救世主としての人格に問題なし。四人もの守護天使の加護を受けた、選ばれし救世主であることに疑いの余地はないものとする。最後に……』
「最後に……?」
その後に続く、締めの報告――。
『私が彼女と出会ったのは十年前であるが、ニーナ・ワトリエルは今もなお、可憐で純潔を守る、敬虔な教会の信者である。そんな彼女に惚れたのは私……いや、俺なので、最後にこれだけは言わせてください。ニーナは俺の嫁!』
「なあんじゃああああ???」
ヴァン=サリーの目が飛び出る。いや、誇張ではなく、実際に眼球がバッと飛び出た。それくらい、目を見開いて驚いたのである。
「俺の嫁ええええ? わしのアルルカンの嫁ええええ? おもっくそ私情挟んどるじゃりんんん」
「ぶふっ……。あのアルルカンが『俺の嫁』発言するなんて、彼も立派な人の子になったねぇ、ヴァンサリー?」
「煩いじゃりん! お前は黙っとれっ……!」
「落ち着いてくだされ、レックスマン卿。フィニー卿も煽ってはなりませんぞ」
「いや、でもこれは笑えるよ、ジャロぉ。ねえ、ヴィ。君もちょっと面白いと思ったでしょ?」
「ううん! さ、さあ? 私は別に面白いなどとは思ってはいないが……ふ、ふふ」
「笑ってますネ、ホーキンス卿。まあ、あのアルルカンがこんな風に血迷うくらいでス。さぞかし、東亜の風見鶏は、魅力的な救世主なのでしょウ」
「血迷うとはなんじゃりん、ロミエンヌ! わしの愛するアルルカンが、どこのメス鶏かも分からん風見鶏を嫁にすると言い出したんじゃりーん! 血迷うどころか、暴挙じゃろうが!!! これはもう、教会への、いや
「暴挙……とはまた違うと思うぞ、レックスマン卿。あえてあげるとすれば、親への
「叛乱? 反抗期というわけか、アルルカン!!!」
大声で喚くヴァン=サリーを疎ましく思う、四人の枢機卿。いや、それも違うだろう……と内心、ツッコんだ。
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