第16話 風見鶏令嬢、天使と聖騎士の戦いに巻き込まれる

 無理やりアルルカンと結婚させられそうになっとったウチの下に、四人の守護天使が降臨した。


「おやおや。これはこれは、守護天使様がお揃いで降臨とは珍しい」


 恭しく片膝をつき、胸元で教会のシンボルを握りしめるアルルカン。同じように、オーヘンとタリアンも服従の姿勢を示しとる。


「え? なに? 誰なん、こいつら? 守護天使って……?」


 ライオネルは一人テンパるも、天から降臨してきた四人の天使を余すことなく見回す。見かねたガリンヌがパチンと指を鳴らしたと思ったら、そのままライオネルがバタンとその場に倒れた。


「なっ? ライオネルは大丈夫なんか!?」


「ええ。あまりにもウザ……いえ、我々天使は人々の目に触れることを良しとしないので、眠って頂いたまでです」


 眼鏡の端を持ち上げて、ガリンヌが言う。


 ああ、ウザかったんやな。分かるわ、その気持ち。


「それよりも、問題はコッチの方だよ、風見鶏チャーン」


 宙に浮くチャランヌがウチの肩を抱き、真っ直ぐにアルルカンを見つめる。


「一体ダレの許可を得て、我らが救世主と結婚しようとしているワケ〜?」


 チャラチャラした口調でも、しっかりと天使の怒りは伝わってきた。それは他の天使らも同様で、「うふふ」と笑うユルンヌに、じっとアルルカンを睨みつけるガリンヌ、それから逆さ剣を地面に突き立てるキボンヌがそこにはおった。


「まさか貴方様方が降臨されるとは思ってもおりませんでした。……ですが、私も聖騎士。たとえ天使が相手であろうとも、譲れぬ想いがありますゆえ」


 そう言うと、アルルカンは立ち上がった。四人の守護天使と対峙するように、ウチの鶏冠部分に触れた。


「立場をわきまえろ、アルルカン。貴様はフラミンゴス教会の道化師――。たとえ聖騎士となろうとも、その役目を見誤るな!」


 剣を振るったキボンヌが、厳格な顔でアルルカンを薙ぎ払う。


「おっと。これはこれは第2天使・キボンヌ様ともあろう御方が、聖騎士相手に剣を振るわれるとは。貴方様は元来、"祝福せし者”――。この結婚の儀においては、貴方様こそが真の証言者のはず」


 ひょいっと天使らから距離を取ったアルルカンが、自分の剣を抜き去り、キボンヌと対峙した。


「我らとて、おいそれと救世主を奪われる訳にはいかぬのだ」


「お下がりください、キボンヌ兄様。ここは私が相手を致しましょう」


 そう言ってキボンヌの前に出たのは、ガリンヌやった。自身の剣を抜き、じっとアルルカンを見つめる。


「やれやれじゃのぅ、アルル。これじゃあ計画通りとはいかぬのぅ」


「そうだな。不本意ではあるが、親友の想いをねじ伏せられる訳にもいかねえからな。……フン。守護天使とやりあえるなんざぁ、儲けモンだぜぃ?」


 タリアンとオーヘンも立ち上がって、守護天使ら相手に剣を構えた。


「あらあら。勇ましい騎士達だわぁ? ……うふふ。負けないでくださいまし、ガリンヌお兄様」


 ユルンヌが愉快そうにガリンヌを応援しとる。


「ならオレっちも参戦するよ〜! これで三対三になるしね〜! フウうう! 高まるぅ〜!」


 チャランヌもまた意気揚々と戦闘意志を示した。コイツだけ、ファイティングポーズで丸腰やけど。


「オーヘン、お前はガリンヌ様を。タリアン、お前はチャランヌ様を。俺はキボンヌ様をやる」


「了解」


 アルルカンの指示に、笑みを浮かべる二人が頷く。


「なっ? え? ちょっと待ってぇ!」


 はっと我に返ったウチが、慌てて天使と聖騎士の戦闘に『待った』を入れた。


「止めてくれるな、ニーナ。これは宿命の戦いなんだ――!」


 アルルカンがキボンヌと剣を交わし、鍔迫つばぜり合う。


「ちょ、ホンマ、なんでこないな展開になんねん!」


「それは仕方ないことよぉ、私の愛しい風見鶏。だって貴方は鳴いてしまったのだものぉ」


「ユルンヌ! アンタまた、あいつら騎士を殺すつもりなんか!」


「まあ、私がその気になったら、そうなるわねぇ。でも今度は、時間を遡るなんてことはしないわぁ。だって、天使に歯向かう聖騎士なんて、この地上には必要ない存在だものぉ」


「相変らずイラッとする喋り方すんなや、ユルンヌ! って、ガリンヌもチャランヌも本気なんか!?」


 カキンカキンと剣が合わさる音がしたかと思うと、そこには疾風を斬る勢いで戦うガリンヌとオーヘンの姿があった。


「人間風情が小賢しい!」


「あんたら天使と呼ばれる存在よりかはマシな生き物だぜぃ、人間ってのはなぁ……!」


 オーヘンがガリンヌの背後を取ったと思った瞬間、第3天使の吹っ飛ぶ姿が見えた。


「なっ……!」


 次の瞬間にはガリンヌの体が広場のモニュメントに叩きつけられ、そのまま泉の中で尻をついた。


「ガリンヌ……!」


「まだ終わってねえぜ、ガリンヌ様よぉ!」


 あっという間にガリンヌの目の前に移動した、オーヘン――。


「あいつ、いつの間に……!?」


 教会の屋根から泉まで、どれだけの距離離れとる思うてんの? 最早、人間やないやん。


「終わりだぜぃ、守護天使――」


 オーヘンの剣がガリンヌの胸に突き刺さる、まさにその瞬間――。


「――もう、なぁにやってんのさ〜、ガリ兄ぃ」


 オーヘンの剣の柄の部分をガシッと握る、チャランヌ。


 あれ? 今までここでタリアンとやりあっとったんちゃうの?


 振り返ると、そこには腹を抑えて蹲るタリアンの姿があった。


「なんやて? いつの間に決着がついとったん?」


 チャランヌ、あいつまさか、強いんか?


 視線を泉の方に戻すと、オーヘンから剣を奪い、その体を蹴り飛ばすチャランヌがおった。


「……ちぃっ!」


 教会の壁に叩きつけられたオーヘン。バラバラとレンガが崩れ落ちたところで、ようやくウマオヤジら教会の連中が外に出てきた。


 よし、これで戦闘は収まるな。


 そう思ったウチの目に、まさかの事態が飛び込んできた。


 そそくさと天使らに向かい、祈りを捧げる教会連中。再び楽団が広場に集まり、『レクイエム』より「怒りの日」が両者の戦いを更に煽る。


 チャランヌ対オーヘンの一方で、キボンヌ対アルルカンの戦いは、熾烈さを増し、ウチの真後ろで繰り広げられとる。


 ホンマ、なんでこないなことになっとんの。風見鶏ウチが鳴いたからって、天使と聖騎士が戦うなんておかしいやろ!


「……ホンマ、誰かこの戦い止めてえなあああ!」



 









 









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