第15話 風見鶏令嬢、アルルカンに求婚される?
「――俺と結婚しよう、ニーナ。そうすれば、君は元の姿に戻れるよ」
アルルカンからの突然のプロポーズに、ウチは驚愕した。
「はああああ? 結婚って、本気なんか!? ウチまだ14歳やで? それに純潔やなくなるって、つまりアンタとそういうコトするってコトやろー!?」
矢継ぎ早なウチの質問にも、「ウンウン。そういうことだよ、俺のニーナ♡」とアルルカンが眩しい笑顔で笑う。
な、なんや、ホンマに本気なんか、コイツ!?
「――ちょ、待てや、こらああああ!」
その時、思春期真っ只中の残念な
「ライオネル?」
「アルルカンがニーナと結婚するやなんて、神が許しても、この俺が許さへんでえええ!」
そう啖呵を切って、ずんずんとライオネルがウチらに近づいてくる。
なんや、アンタまさか、嫉妬かいな? ぷぷ。何だかんだ言うて、やっぱりウチのこと――。
ウチらの間に割り込んだライオネルが、ウチに向かって両手を広げた。
「お前なんかにアルルカンをやってたまるかああああ!」
「はああああ? ソッチかいなぁ、アンタあああ!」
ほんの一瞬でもトキめいたウチがアホやったわ。
「すまない、少年。俺が君を愛することは、一生ない」
突きつけられた無情とも言える言葉に、アルルカンに振り返ったライオネルが、絶望の表情で膝から崩れ落ちた。
「……く、くそぅ。俺の完敗やわ。持ってけ、ドロボー!!!」
きっとウチに振り返ったアンタの顔、一生忘れへんからな。
「――とまぁ、茶番は終わりにして。ホンマにニーナと結婚するつもりかいな、アルルカン」
ケロッとした表情で立ち上がったライオネルが、アルルカンを見上げて、怪訝そうに言った。
「言うとくけど、コイツ、ホンマに脳筋やで? こないな姿になったんのも、コイツが脳筋ゴリラで反逆の行進なんてしてもうた、後先考えなしの令嬢やからやで?」
「クソが、ライオネル! アンタにも原因の一端はあるんやからな! 忘れんなや!」
「え? 何のコトですかぁ〜? 俺はなーんも関係あらへんねんですけどぉ?」
「クソ野郎……!」
ウチが動けへんからって、好き勝手言うなや、ライオネル……!
「ハハハ。要するに少年、君もニーナを愛している、そういうことだな?」
爽やかな笑顔で言うもんやから、ウチとライオネルは、パチパチと瞬きしながらアルルカンを見上げた。
「……は? はあああ? んなわけあらへんやろ!!! 俺がこないな風見鶏にされた、哀れでどうしようもない令嬢を好きになるとでもぉ!?」
「今の会話の流れでなんでそないなコト思うんや、アホ!!!」
「んー? どうしたんだ? 二人とも、顔が真っ赤だぞ?」
「そないなコトあるわけないやろぉ!」
二人してアルルカンにツッコんだ。すっかり疲れたウチらやったけど、互いに顔を見合わせて、思うことは一緒やった。
「アルルカンの野郎、相変らずの天然マイペース野郎やな」
「せやな。あの道化師アルルカンや。プロポーズかて、ウチらを驚かせるドッキリか何かやろ」
幼い日に出会ったサーカス団の道化師は、いつだってウチらを笑わせてくれた。せやから今回も、ウチらを笑わせるための、ジョークやろ?
「いやいや、何を言っているんだ、ニーナ。君への求婚に嘘偽りはないさ。騎士は自らの信念に忠実に生きる主義だからな」
黒髪から覗くアルルカンの微笑みが、ウチをドキリとさせる。
「ほ、ほんまに、ほんまなん?」
ウチとしたことが、思わず声が裏返った。
「そうだよ、俺のニーナ。幼い日の君と別れてから今まで、努力してようやく聖騎士団の副団長にまで上り詰めたんだ。すべては、君を手に入れるため――。さあ、そろそろ結婚の儀を始めようか」
そう言うと、アルルカンが「ヒュウー」と口笛を吹いた。
「――なんだ。思ったより早かったじゃねえか、アル」
「そうじゃなぁ。もっと難航すると思ってたもんじゃから、司教連中と、ゆっくり茶ぁでもしとったっちゅうのに」
やれやれと男の声がしたかと思うと、ウチらの前に二人の騎士が現れた。
「すまないなぁ。けど、俺の想いがようやく伝わったんだ。二人とも祝福してくれるだろう?」
アルルカンが笑って二人の騎士を迎え入れた。こいつら、アルルカンと一緒にやって来た、騎馬隊の奴らや。
「あわわわ! この二人、『ワーヴェル騎士団』のオーヘン・J・カミュとタリアン・カナキンや。二人とも聖騎士団の要職に就く、位の高い騎士サマやで?」
「へえ、そうなんかぁ。位の高い騎士サマ言われてもなぁ……」
「やあ、風見鶏令嬢。俺はオーヘン・J・カミュだぜぃ。お前さんの噂は
キザったらしい口調で、オーヘンが言った。オーヘンは肩につく赤髪で、ハーフアップにしとる、蜂蜜色の瞳が綺麗な色男や。
「わしはタリアン・カナキン言うもんじゃ。以後宜しゅう頼むのぅ、アルル女房」
独特の喋り方をする、タリアン。この方言は西側のもんやろか? あまり聞かない話口調や。それでも風に靡く金髪に、銀色の瞳で笑うんやから、コイツも美形の騎士やな。
「いや、まだ女房ちゃうから! それにウチ、結婚するやなんて一言も言うてへんからな!」
ウチの反論に、三人の騎士が顔を見合わせた。それからふっと笑うと、風見鶏のウチの周りを三人が取り囲んだ。
「本当に悪い子だなぁ、ニーナ。俺は君のためにここまで成長したと言うのに」
「は? アルルカン? なんや、雰囲気変わってへん……?」
「まぁ、口で言っても伝わないと思うぜぃ? なら、騎士として強行突破といくしかねぇよなぁ、アル」
「そうじゃなぁ。アルルよ、ここは強引でも、この風見鶏を女房とするしかあるまいよ」
「ああ。我が同胞達よ、
「
オーヘンとタリアンの二人が、首から提げとる教会のシンボルを手に取り、祈りを捧げた。
「な? ホンマに結婚するつもりなんか? 今ここで?」
ライオネルが拳を握る。それから何を思ったか、「お、おれは反対やで!」と大声で叫んだ。
「おっと、お前さんは見届人だぜぃ? 男なら、惚れた女の幸せくらい、願うもんだ。騎士気取りの幼馴染なら尚更な」
ライオネルがオーヘンに捕まり、ジタバタと抵抗する。
「そんなんちゃうわ、アホ! 俺はただ、コイツが……!」
ライオネルが真っ直ぐにウチを見つめる。
「お前はホンマにそれでエエんか、ニーナ!」
その言葉に揺さぶられるも、「まぁ、それで元の姿に戻れるんやったら」と素直な感想しか出てこんかった。
「ウンウン、やっぱり俺のニーナは偉い子だね。そうだよ、君に風見鶏なんて似合わない。教会の救世主なんて馬鹿げた存在など、俺が断ち切ってあげるよ」
なんや、アルルカンの言葉が、ずしりとウチの心に重く圧し掛かってきた。
救世主がなんやて? 馬鹿げた存在やて?
タリアンがウチらの前に立ち、司祭役を務める。
「それでは結婚の儀を始めるぞ?
「……ちょぉ、待ち。ウチが救世主やったら、アカンの?」
「どうしたんだ、ニーナ。何をそんなにへそを曲げているんだ?」
意に沿わないのか、アルルカンが首を傾げてウチを見下ろしとる。
「確かにこんな姿にされたんはムカついたし、今すぐにでも元の姿に戻りたいわ。せやけどな、救世主を馬鹿げた存在やと笑うアンタの妻になんかなるんは、真っ平ゴメンや! いつ
「……ふ。ああ、残念だよ、ニーナ。俺の想いが伝わらないなんて」
悲哀の青い瞳をしたアルルカンが、ウチの体をガシッと掴んだ。
「やめーや、アルルカン! お前、そんなん奴と違ったやん! 無理やりニーナを嫁にしたところで、コイツの幸せにはならへんのやで!」
「ライオネル……」
「おおっと、痛い目に遭わないとじっとしていられないのなら、お望み通り殴ってやろうか、お坊ちゃま」
嘲笑を浮かべながらライオネルの体を地面に組み伏せたオーヘンに、「ライオネルに何すんねん!」とウチの怒声が飛ぶ。
「こっちに集中せい、風見鶏。おんしらが結合するまで見届けるんが、わしらの役目じゃからのぅ」
「なっ……! 結合て……」
だから風見鶏のウチとどないして結ばれるつもりなんや!
そう口にするのが恥ずかしくて、くるっと勢いよくアルルカンに尻尾を向けた。
「ほうら、だめだよ、ニーナ。俺からは逃げられないんだから」
すぐさまウチを元の位置に戻したアルルカン。その綺麗な顔が迫ってくる。
なんや、キスしようとしてへんか?
「ちょ、ホンマ、待って! ウチにはまだ、やるべきことがあるんや……!」
せや、ウチは救世主や。チャランヌが見せた世界には、救世主を必要としとる人間がぎょうさんいる。まだ見ぬ誰かを救うため、今ここで元の姿に戻るわけにはいかへんねん!
「君はただ、俺に愛されれば良いんだよ、ニーナ。それが君の幸せになるんだから」
アルルカンの唇がウチの頬に寄せられる。
「ニーナ……!」
「……コ」
「こ? 何だい、ニーナ」
「コ、コケーコッコー……!」
何を思ったか、ウチの口から鶏の鳴き声が上がった。
「……っ」
思わず怯んだアルルカンの青い瞳が、一瞬黒く見えた気がした。
「――あらあら、鶏さんが鳴いてしまったわぁ?」
ん? この声、まさか……。
「オレっちの風見鶏チャーンを泣かしたのは、どこの悪い子だろ〜?」
「やれやれ。風見鶏の鳴き声がしたかと思ったら、とんだ茶番劇に巻き込まれてしまいましたね」
「アンタらまで、なんで……?」
振り返ると、そこには三人の守護天使がおった。
「弟達だけではないぞ、わたしのニナたん。あ、いや、救世主……!」
そうしてもう一人、逆さ剣を握る天使が降臨してきた。
なんや知らんけど、胸熱展開やなぁ!
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