第13話 風見鶏令嬢、聖騎士団と出会う
結局、オタクのキボンヌが満足するまで、
ウチにはもう、信仰心なんかあらへん。チャランヌ、ユルンヌ、ガリンヌまではギリ保っとった信仰心やったけど、キボンヌの登場で、この世界を創ったとされる神の悪ノリに気づいてしもうた。もし神がウチの前に降臨することがあったら、その時は殴ったんねん! そもそも、ウチをこんな姿にした恨みもあるしな。
「――よし、ではわたしはこの辺で帰るとしよう」
驚くほど厳格な表情を見せるキボンヌに、「ホンマ、何しに来てん、アンタ」とシラケた視線を向ける。
「べ、べつに君の写真をわたしの部屋一面に飾るために降臨したのではないのだぞ! 断じてこれはそういうつもりで撮った写真ではないのだ!」
「うえぇ。まだソッチの理由であって欲しかったわぁ。
「それはだな……」
ゴホンと咳払いしたキボンヌが、キリッとした表情で言う。
「これは『第一回、私の救世主しか勝たん!誰が一番不遇な目に遭ってるか調べたらワロタ選手権』にエントリーするための写真なのだ!」
「なのだ! やあらへんねん! なんやその胸糞な選手権はああああ!」
多分な、ウチが風見鶏にされた時よりもずっとイラッとしたと思うんよ。その後の絶叫は、正直、覚えてへん。ただ、ウチの絶叫に合わせて、町中の犬が遠吠えしとったんだけは、覚えとる。
◇◇◇
まあ、色々なことがあったけど、おとんとおかんはまた、85回目のドラゴン狩りと称した新婚旅行に出かけた。当然、その資金は教会から支払われた『カリスマ救世主貸出料』によって賄われたもんやろう。ホンマ、何しに帰ってきたんや、あの両親は……。
ウチはまた、教会の上から町を見下ろし、困っとる人がおったら救う風見鶏の日々が続いた。
そんなある日のこと、町の入口に、ぎょうさん人だかりができているのを見た。
「なんや? 誰か有名人でも来とるんかいな?」
わいわい騒ぐ町の様子は、祭りの雰囲気にも似とる。教会の楽団も広場に集まり、ファンファーレの演奏が始まった。家々から顔をのぞかせる子どもらが、楽しそうに紙吹雪を飛ばし、その到着を歓迎した。
「えらい歓迎ムードやん。誰が来たんや?」
「――あれはフラミンゴス教会の聖騎士団、『ワーヴェル騎士団』なのだよ、風見鶏」
「ウマオヤジっ……!」
「まったく、相変らず不敬なご令嬢だ」
やれやれと、第三司教のウェルバ・マトニクスがウチに向かい、吐息を漏らした。
「相変らずアンタもムカつく司教やな。せやけど、教会の聖騎士団がこんな町に何の用があるん?」
「さあ?」
ウマオヤジが白々しく肩を竦める。
なんやコイツ。ホンマ腹立つな。
そんな風にウチが思っとると、ファンファーレと一緒に聖騎士団一行がハッタン教会堂へと行進してくるのが見えた。
「ほえ〜。アレが『ワーヴェル騎士団』かいなぁ。なんや、えらいイケメンばっかりやん!」
歩兵隊を先導するように、三人の白馬に乗る騎士が町の人らに手を振る。
なんや、爽やかやん。聖騎士団いうことは、
ナマ騎士団に感動しとるウチの視界に、どえらい田舎モンの
「なっ!? アイツ何しとんねん、ライオネル! 邪魔や! アンタはお呼びでないねん!」
ホンマ、アイツ1回しばいたろうかな。そんくらい、アイツは見とるコッチが恥ずかしくなるくらい、はしゃいどった。
そうこうしとる間にも、聖騎士団は教会堂を目指し、その視線を上空に向けた。先導する三人の騎士と目が合ったような気がした。浮かべられた微笑に、思わずウチはドキリとした。
「さて、そろそろ私は降りて、彼らを迎え入れなければならないな」
ウマオヤジがそう言ったのを、ウチは背中で聞いた。
「良いかね、風見鶏。彼らは聖騎士団だ。決して粗相のないよう、発言には十分気をつけたまえ」
「は? え? それってどういう――」
くるりと振り返ったウチの目に、下へと降りていくウマオヤジの背中が見えた。
「なんや、意味深やん。でもまぁ、教会の騎士団言うても、天使がアレやしな。どうせ
ウチはもう一度聖騎士団に視線を向けた。三人のイケメンが馬から降り、迎え入れたウマオヤジの前で、逆さ剣を掲げた。そうして教会堂へと入っていくところで、一人の黒髪イケメンがウチを見上げて笑った。
あれ? なんや、ウチ、あの男のこと知っとる気がする……。どこで
聖騎士団を歓迎するファンファーレを遠くに聞きながら、ウチは近づいてくる男の登場に、ゴクリと息を呑んだ。
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