第5話 風見鶏令嬢、説明責任を果たす?

前回までのあらすじ

 幼馴染を可愛いと褒めると死ぬ病気のライオネルを救うため、ニーナは一人、自身の三つ子の兄を迎え撃つ準備を始める。三人の兄を倒し、無事にライオネルを救うことができるのか? 二人の愛の行方は、いかに——?


「ちょお、もー。せやからあらすじで変な脚色入れんといてや。まったく違う物語になってしもうてるやないの。まあ、三人の兄貴らが、ウチに会いに来るんはホンマやけどな。ライオネルは案の定逃げるし、はあ……この状況、どう説明せえっちゅうねん……」



♢♢♢

 ウチには三つ子の兄貴がおる。一卵性の三つ子であり、エメラルドの瞳と顔はそっくりであるものの、髪の毛の色が三人とも違う。年齢はウチより5つ上で、長男・チョコビッチ。次男・ジオン。三男・サンタモニカ。よう分からん名づけになったんは、両親が想定外の三つ子に狼狽えた結果であった。誰が長男で誰が次男やったか、すぐにピンとくるようにと、「長男=チョ」「次男=ジ」「三男=サン」と安直にも程があるように思えるが、実際、ウチもたまに分からんようになるから、それはそれで有難いんやけど。

 

 それで、その三つ子の兄貴らが、ウチのところまでやってきた。


「——ホンマに風見鶏にされとるやん! 僕の可愛い妹があああ」


 長男のチョコビッチ――チョコやんが、風見鶏ウチを抱き締め、ぶわっと泣き始めた。金髪のコイツはウチのことが好きすぎるあまり、自分の部屋を妹の写真で埋め尽くしとる、変態や。


「え? ホンマにニー坊か? 悪魔の罠とちゃうの?」


 一際疑いの目を向ける次男のジオン。銀髪のコイツはウチのことを二人目のとして見ており、いつかトコナミアの悪魔を全滅させると豪語する、ヤバい奴や。


「おやおや、ニーナちゃん。可哀想に。君が苦しまずして神の御許へと行けるよう、今ここで燃やしてあげようね」


 穏やかな表情で物騒なことを言う、三男のサンタモニカ――通称サニー。赤髪のコイツは言わずもがな、サイコパス野郎や。


 実際にマッチで火を起こしたサニーに、「やめーや、僕の可愛い妹や!」とチョコやんがウチを抱き締めながら、ますます泣き続ける。


「おいチョコ、コイツがホンマに我が弟か確認する必要がある。そこをどいて、サニーに燃やさせるんや」


「そうそう。そこをどいて、チョコ兄さま。ボクが可愛い妹を燃やすから」


「兄貴がなんちゅう台詞吐いとんねん、あほおおお!」


 そこでウチはようやく、三人の兄貴らと口をきいた。


「……え? ニーナ、声出せるんか?」


「あったりまえやろ! ウチの涙ぐましい努力の結果、一晩にして“発声”を取り戻したんやで! ウチは正真正銘、アンタらの妹——ニーナ・ワトリエルや。せやから、物騒にウチを燃やそうとするんやない!」


「何を言うてるんや。ワシらに妹はおらへんで? 貴様、やはり悪魔やな」


 そう言って、ジオンが腰に差していた剣を抜き去った。


「あほう! ジオン、ウチはアンタのいもっ……弟や!」


 くそう、ウチは女や! なんでコイツだけウチを弟やと思うとるん? おかしいやろ! そこらへん、おとんとおかんも責任感じろや! そしてアンタら兄弟が訂正せんのもアカンのやで!


「はあ。やっぱこうなったやん。くそう、ライオネルはどこ行ったんや?」


「ライオネル君なら、お屋敷に帰ると言って、さっきすれ違ったよ」


「そうかぁ。今度会ったら、アイツの首撥ねといてやぁ」


「オッケー! 可愛い妹の頼みだ。ボクがライオネル君の首を撥ねて、君の頭に被せてあげるからね、ニーナちゃん」


 おっと、コイツに冗談は通じんのやった。コイツは一人、トコナミアの方言には馴染まず、生まれてからずっと中央の言葉を話す、サイコパス野郎。郷土愛もクソもない、冷酷人間やった。


「……訂正するわ。首を撥ねるのはやめにして、アイツのすね、五回くらい蹴っといてや」


「ええ~! ガントラスト家の坊ちゃんの首撥ねちゃダメなの~?」


 至極不満そうな表情を浮かべるサニーに、「心配すな、サニー。悪魔狩りになれば、首撥ね放題やで?」とジオンが親指を立てて言う。


「わあ! ジオン兄さまが悪魔狩りになったら、ボクも一緒についていくね!」


「ああ。頼りにしてるで、サニー」


 剣を鞘に戻したジオンとサニーが笑い合っているところに、ウチを抱き締めとったチョコやんがようやく泣き止んだ。すっと立ち上がったチョコやんが、ウチをニコニコと見下ろし、言った。


「それで、なんでこないなコトになっとんの?」


「えっ……? あ、ああ、えっと……」


 ウチが調子に乗って、フラミンゴス教会のモニュメントから逆さ剣を外し、教会まで行進した結果、風見鶏にされたとは言えへんかった。


「はあ。……ニーナ?」


 チョコやんの溜息が、ウチの鶏冠とさかに落ちてきた。三人とも、ウチに事の発端を説明するよう求める視線を向けている。


 わ、わかっとんねん。この状況を説明せなあかんのは! せやけど、ホンマのコト言うたら、絶対怒るやん?


「ニー坊」


 ジオンもまた、黙ったままでおるウチに痺れを切らせてるやん。こっわ。アンタが一番怖いんやけど。


「ニーナちゃん♡」

 名前の後に♡つけんなや、サイコパス野郎。うちらワトリエル家が“トコナミアの凶星”呼ばれるようになったんは、アンタが原因やからな!


「……な、なんや、気付いたら風見鶏になっとったんや。教会の連中曰く、ウチが風見鶏となって、世界を救う救世主になる、らしいわ……」


 威勢もクソなく、ウチはぽつりぽつりと、大事な所を端折って説明した。


「なっ……!」


 ジオンがピクピクと青筋を立てているのが分かる。三人とも、あんぐりと口を開け、ウチの説明にピンときとらん――。


「なんやってえええ?」


 三人の驚愕が唾となってウチに降りかかった。

 いやや、もう。きったないなぁ……。


「ニーナ、君が世界を救う救世主やって? すごいやないか! お兄ちゃん、感激やでぇ!」


「ええ? チョコやん?」


「ふふふ。まさかワシより先に世界を救う悪魔狩りになるやなんてな。ニー坊、ワシも一緒に、この世界に巣くうすべての悪魔を滅殺するでぇ!」


「なに言うとんの、ジーー」


「いいなぁ、ニーナちゃん。救世主なんて、誰でもなれるものではないでしょう? ボクも救世主になって、人々から媚びへつらわれたいなぁ」


「サニー、アンタ、救世主の意味分かっとんの?」


 アカン、コイツら、想像以上にアホや。我が兄貴ながら、こないなアホとは思ってもみいひんかった。


 やいややいやと、三人がウチを取り囲み、「すごいすごい」と褒めてくる。


 あ、あかん、そないに褒められたら、ウチまた、調子に乗ってまうやん!


 自然と、あの鳴き声がウチから飛び出てきた。


「コ・コ・コ・コケーコッコー!」


 その瞬間、ウチを除く、すべての時間が止まった——。三人の兄貴も、町の人々も、皆が停止し、風も吹かなければ、音一つしない。完全に時間の流れが止まっとる。


「あ、あれ? どないなっとんの?」


「——あらら、鶏さんが鳴いてしまったわぁ?」


 その時、頭上から透き通るような美しいが聞こえてきた。見上げると、そこにはチャランヌ同様、白い翼が生えた美形の天使がおった。その顔立ちや声色、背中まで伸びる金髪からして、女の天使はんやろ。思わず見とれたウチの口から、自然と声が零れ落ちた。


「お、おたくはどちらさんですかぁ?」


「うふふ。私はユルンヌ。フラミンゴス教会『五大教典』の一つ、『ケビン書』の守護天使よ。昨晩はお疲れ様、私の愛しい風見鶏」


 その言葉と共に、ユルンヌがウチを抱き締めたのが分かった。心臓の位置から、柱時計のゴーンという音が聞こえた。その瞬間、時間はまた戻り、町の人々が動き始めた。ただ一つ違ったのは、ウチの前におった三人の兄貴らが、心臓を貫かれ、血まみれになってその場に倒れていたこと。


「……え? どういうコト……?」


 呆然とするウチの耳元で、ユルンヌの笑い声が聞こえた。そうして、はっきりと聞こえた。


「——やはり救世主たるもの、孤独でなければならないわ?」


 孤独? なんや、それ……。



♢♢♢あとがき♦♦♦

 いやぁ、なんでこんな展開になったし!? これはコメディーのはずなんですがね、お兄さまたち、心臓を貫かれ、血まみれで倒れちゃってますね。ここからどう軌道修正しようか。ここでお兄さまたちを殺す展開になったら、そこでこの物語は幕を閉じなければなりませんね。まったく、ユルンヌめ。許すまじっ……! 全然緩くねーじゃん。チャランヌをもっと見習いなさいよね、あなた。とまあ、こんな感じで第六話へと続いていきます。





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