第3話『ものぐさ男、華麗なる交渉術:2』

呪われるんじゃないか、そんな俺の心配をよそに会話はサッサと進んでいく。


「あの、なんちゃって鍛冶師、とは?」

「要するに、普通のスキルだと鍛冶のコツがチョコッとわかる+魔法剣とか付与とか目力を使った魔力現象が作れるように成ったり起こせるように成ったりするんですよね?」


「そうですそうです、ちゃんとわかってて安心しました。スキルを持ってないからって金属を打っても鉄の形に出来ない、とか料理が出来ない、とかだったら困る上に物理的にあり得ない現象でしょ? なのでスキルの差異が出るのはその後、料理のスキルを持ってればバフが付くし、錬金術を持ってる人間がポーションを造れば効果が増強されます」


いやこれ、サラッと説明されてるけど凄い重要な話なんじゃ……。

特に料理とか誰でも出来るスキルって凄く軽視されてるし。


「でも、それだと転生者達は上手く技術職としてやっていけない。そこで登場するのが『なんちゃって鍛冶師』ですよ。ブッチャケほら、刀とか剣とか作れるのロマンだし憧れるけど……何年も修行して、と言われると困っちゃうと言いますか」


コイツ、すげえ滅茶苦茶な事言い出したな。


「ゲームみたいに雰囲気だけ味わえたらいいんです、竈の前で金槌をカンカンカンカン、って四回叩いたら剣が出来るとか、そんなので良いんです」

「……そんなので良いんですか?」

「良いんです、まあちょっとレアリティーの高い剣とか、魔剣とかいう特殊な時は倍の八回とか、そう言うので良いんです。後はちょっとテンポよく叩かないといけないとかリズム要素も付ければ文句なし」


「…………まあ、我が儘で軟弱な転生者に渡す能力ならそんぐらい簡単な方が良いんでしょうか」

神ファイナ、今さらっと毒を――いえ、何でもありません。


「只、これじゃまだ足りません」


「足りないんですか!!??」

ホントだよ、足りねぇのかよ。どこまで我が儘なんだコイツ。


「考えてみてください、剣士は剣さえ持ってればいつでもスキルが使えます。じゃあ鍛冶師は? 金槌を持ってたって炉と金属が無いと打てません、それって不公平じゃないですか?」


「嫌、でも、それは……鍛冶として普通といいますか」


「大体、剣士はどんな剣でも技が出せます。けれど鍛冶師は使う金属によっても出来が違う。可笑しく無いですか? 何で自分で炉と金属を用意する手間がかかったスキルが剣士の剣一本に負けるんですか。剣士がどんな剣でも一定の剣技が放てるなら、鍛冶師だってどんな屑鉄を使おうが一定の剣が作れないとバランスが取れませんよ! 」


……嫌お前、さっきスキルの説明あったやろ。全然おかしくないって。

と思ったがその場の雰囲気というか、勢いに押された女神は違う。


「う、うーん。た、確かにおかしいような?」

「冒険者より技術系の職業が伸びなかったのって、そういう所があるからだと思うんです。なので、技術職に渡す能力もこれくらい簡略化したら、今後理不尽なクレームに悩まされる事も無くまりますよ!」

自信満々に言い張る男――というか俺? ごめん女神様、メッチャ文句ちゃった。


「成程、いやーもう正直闇落ちしちゃおっかな♪ とか思ってたので助かります。それじゃあ……少々やりすぎな感じがしますが、こんな感じで良いですか?」



【なんちゃって鍛冶師】

条件:金槌とMPさえあれば使用可能。

効果1:作りたい物のイメージを頭で思い浮かべながら四回金属をテンポ良く叩くと完成する。

効果2:付与、魔法剣といった金属を叩くだけでは再現できない現象は全て、MPを多く支払う・叩く回数を増加・素材の複雑化などでバランを取る。



……これは、その、本当に文句をいってごめんなさい。

凄すぎる、メッチャ凄いじゃん、文句の付けようなんて一切ない。


「どうですか! 軟弱でご都合主義の転生者達もこんだけサポートすれば文句は無いでしょう!」

うん、女神ファイナも胸を張って自慢げだ。



「いえ、まだ足りません」



「「え?」」

思わず、女神と声が被る。

いや、夢なので実際に声が被った訳じゃ無いんだけど気分的に?

とか、そんな事はどうでも良いのだ。


「ま、まだ足りない? い、一体どういう事ですか? だってこれなら貴方はもう鍛冶師の象徴ともいえる『炉』すら用意しなくていいんですよ? 火傷しそうな程熱い空間の中で何時間も鉄を打たなくていいんですよ?」


そうだそうだ! もう十分だろ、てか炉が要らない鍛冶師ってなんだ。あの空間で打つからロマンなんだろ、いい加減にしろよテメェ。


しかし、男は狼狽える神に構うことなく堂々と続ける。


「今のままだと、素材を用意しないと鍛冶ができません。なので魔力を消費する事で任意の素材を手に入れられる様にして下さい」

「流石にそこまでは……その、ほら。鍛冶師にとって拘りの素材、とか発見する喜びとかってあると思うんですよ。それに今でも十分破格だと思いますし」

難色を示す女神。


いいぞ、もっと言ってやれ。この男、我が女神である『ファイナ』様に失礼じゃないか? 

……え?お前もたいがい失礼? ハハ、まさか。

あれ? おかしい、夢なのに何故か寒気が。


「女神様、本当にそれで良いんですか?」

「え!? その、良いとは?」

「女神様は我々死んだ人間に、ちょっとでも良い人生だった、そう思って貰いたくて日々頑張ってるんですよね?」


「……そうです。地球は私が管轄している訳ではありませんが……少なくとも何の因果か、不幸にもこの世界に流れ着いてしまった貴方達位は、幸せにしたい。そう思っています」


……女神様。


俺、明日から毎日教会行きます。

お布施もします、今まで正直面倒とかお布施高いとか言って御免なさい。

私こそ、女神ファイナを信仰する崇高な信者です。

と、今の俺は思っているが過去の俺は違うらしい。


「なら! もっと出来る事があると思いませんか? 別に、何も交換レートを安くしろだなんて言いません。簡単に手に入る素材なら簡単に用意できる程度の魔力を、伝説級の物なら伝説級の魔力を、大事なのは出来るかどうかではありません。機能として実装されているかどうかです!!」


「な、成程。確かに別に機能として実装したってハードルをちゃんと高くすれば世界のバランスが崩れるような事にはなりませんね! まぁ……それなら実装しても、けど交換レートを一々考える手間を考えると……」


あ、又女神様が押されてる。

まさか、今ですらチートなこの能力に、更にチートが乗っかるのか?

さあ、重要なのはあと一押し。過去の俺、ここはどう出る???



「いやいや、そこは深く考える必要はありません。単純に入手難易度で考えればいいんですから……対象者の物理的距離を反映させればいいんですよ。砂漠での水は貴重ですが海の上ではゴミも同然、これなら簡単じゃないですか?」



「確かに! いやー貴方中々頭が良いですね。分かりました、ちゃんと追加しておきます」


決まった―――――――――!!!!

野郎やりやがったぜ! いやー今思い出してもココ上手くやったよね。

ん? 「思い出す」? ……そう言えば、俺ってこんな口調だったっけ?

いや、別に大きくは変わって無いけど夢を見てから所々「メッチャ」とか「マジ」とか……ん?


何か頭に違和感が。声が……聞こえずらい。


「じゃあ後は約束―――」

約束、約束って言ったか?


何だか、頭が痛い。


今まで見えていた世界が、唐突にポロポロと崩壊していく。


「ええ――――必ず――り―――あ――」

何だ、何て言ってる?


あ、嫌、頭が……。






次の瞬間、俺は飛び起きた。


目を開けると、そこには……昨日泊まった宿の一室。

「夢……か」

そうボンヤリと口に出すも、夢とは思えない鮮明な映像。

一旦、落ち着く時間が欲しい。

そう思い、飛び起きた体を横に倒し、俺は一呼吸置くのだった。



―――――


ここまで読んでいただきありがとうございます。

只女神様から能力を貰うシーンを書きたかっただけなのに何故か六千文字使っても終わらない謎展開、一体誰が予想したでしょうか。

作者自身、正直困りました。



何時も応援、レビュー、ブクマありがとうございます。

正直な所、思ったよりPVが伸びず苦しんでいるのですが皆様の反応のお陰でなんとか続いてます。やっぱりタイトルなんですかね? ……でも取り敢えず、タイトル回収が完全に終わるまでは変えずに頑張りたい、と思います。

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なんちゃって鍛冶師に転生した俺は最強の刀を相棒に無双――出来なかったので無双して貰う事にした 椅子が欲しい人 @kalm_21

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