第2話『ものぐさ男、華麗なる交渉術:1』

「え、マジですか? ガチですか?」


 え、何だ?

 俺は、突然の声に驚き目を開ける。

 そして困惑した。


 目の前に広がるのは何もない白い空間、一面白過ぎて思わず眩しさに目をしかめてしまいそうになる。

 ただ、それを視界中央、二人の人物がそれを許さない。


 片方は、恐らく神職に就く長身の女だ。

 そして、もう片方は……分からない。


 ここらで見たことの無い服装に身を包んだ男、普通なら異質と思う筈だが……何故か懐かしさを感じる。


「……いやー、実は恥ずかしながら異世界転生って物に憧れてまして」


 二人とも、詳細は分からない。

 顔も服装も声も、何処かぼんやりとしていて正確には見聞き出来ない。

 分かるような……分からないような微妙な感じ。


 そう、これはまるで、


 と考え、ようやく俺はこの現象に整理が付いた。

 ――これは夢だ。


 そんな俺の納得を他所に、二人の人物は会話を続けていく。


「やっぱり、転生できる世界は『剣と魔法のファンタジー』って感じですか!?」

「はい、そうです。その認識で違いないかと、どうやら……我々と認識の差も余りないようですし、さっそくスキルや魔法属性を決めてしまいますか?」

「うぉおおお! マジかマジカマジカ!! ありがとうございます、本当に有り難うございます」


 女は淡々と、男は偉く興奮した様子で会話を続けている。

 というか男の方、ちょっとマジになり過ぎて……と思うが、不思議と胸に湧き上がるのは懐かしさだ。

 あんなテンションの高い男なんて知り合いに居ないが……これは一体。


 にしても、『スキルを決める』 って何?

 とか何とか戸惑っている俺を待つことなく、目先の男は興奮した様子で喋り続ける。



「じゃあじゃあ、俺鍛冶師になりたい!」



 片手をビシッと上げハッキリと宣言する男。

 コイツ一々リアクションがオーバーだな。

 そして、男に難色を示したのは俺だけじゃない。


「鍛冶師……ですか」

 先程まで淡々と対応をしていた神職の女が、少し声色を変え微妙そうに相槌を打つ。


「え、何か問題が?」

「いえ、別にそこまで問題ってほどでは無いのですが……転生者の方が勇者・冒険者といった戦闘系以外の職種を希望した場合挫折率が凄くて」

「え? でもスキルがあるんですよね」



 ん? こいつら何話してんだ? 転生? 勇者?



 本当は割って話を止めたい、どういう事だと聞き返したい、けれど体は動かず声も出ず。

 二人の会話だけが進んでいく。


「この世界のスキルは、勿論多少補正能力もあるんですが……メインは権限の付与なのです。スキルというアクセスキーを使って、対象の現象を具現化させると言いますか……言ってしまえば魔法なんです」

「ん? あ、うん、へー。うんうん、ナルホドネ。OK,完璧に理解した」


 おいこの男、絶対理解してない。

 絶対今適当言ってる、間違いない。

 しかし、女は女で思う所があるのか、男の様子を気にすることなく言葉を喋り続ける。


「これ、毎回毎回ちゃんと説明してるんですよ? 転生者様、本当によろしいのですか? って私ちゃんと毎回毎回聞いてるんです! 皆最初は言うんですよ「大丈夫です!」って」


 何だろう、夢の筈なのにコッチにも寒気が。


「それなのにいざ転生してみたら全然出来ない、上手くいかない、これ本当にスキル付与されてるんですか? とか教会に文句言いに来るし。だから最初に説明した通りスキルを手に入れたからって出来る様になる訳じゃ無いんですよ! それなのに……ねえ、酷いと思いません“!?」

「ひ、酷いと思います」


「そうですよね、酷いですよねぇ! 大体転生者って皆祈りに来ないんですよ? 私が、善意で、好意で転生させてあげてるって言うのに!!! 都合の良い時は感謝一つせず、上手くいかなくなった瞬間協会にきて悪口ばっか……次は私が魔王をやっても許されると思いません? ねえ!」


「そ、それは……その」

 詰め寄る女、困る男。

 何だろう、急にこの男に親近感が。


「はぁ、分かってます。勿論冗談ですよ? 私は全てを司る全能の神『ファイナ』、魔王何てやったら一秒で世界征服終わっちゃいますし」

 神ファイナ!? え、あの人が? 俺、今までメッチャ失礼だったんじゃ……いや、大丈夫大丈夫。

 何焦ってんだよ、これは夢。


 だからセーフ、セーフって事にしてくれ。


「ハハハ、流石神ですね。いや、にしても俺はそんな「文句」なんて言いませんよ? もう転生させて頂いただけで感謝ですから」

「え、ほんとですか? 嘘だったら呪いますけど」

「ん”ん”……う、嘘じゃないですよ?」


 神ファイナの呪宣言――冗談でも笑えない。

 てか男お前、その反応は嘘じゃん。

 大丈夫? お前呪われるんじゃない?


「なのでそろそろスキルの話を」

「あ、そうでしたそうでした。鍛冶師で良かったんですよね?」

「あ、い、いえ!『なんちゃって鍛冶師』でお願いします」


 あ、あの男『鍛冶師』から逃げた。

 そっか、文句を言う自信があったか。

 まあ神に『呪う』とか言われたら怖いよね。

 というかいっそのこと冒険職にすればいいのに。



 まだ諦め悪く「なんちゃって鍛冶師」にする……ん、

 だ、

 ぁ、

 あ、

 あ、あー!?



 ――お前のせいか!!!!!!!!!


 え、てか待って。

 という事はお前……って・・・・・・


 *


 せめて、せめてせめてせめて、


 自分の授かったスキルが『なんちゃって鍛冶師』なんてふざけた物じゃ無かったら。


 *


 どうしよう、要するにお前って俺でしょ?

 俺、呪われる?

 いやほら、これは夢。

 夢。夢。




―――――――――――――――――――――


ここまで読んでいただきありがとうございます。

正直こんなに長くなると思ってませんでした、明日・明後日がちょっと更新できるか怪しいのでブクマをして待って頂けると嬉しいです。

……多分、明日は出来る。多分。


応援、ブクマ、レビュー、どれも有り難く思っています。

引き続き、応援よろしくお願いします。

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