色をまとって
友達と共通の推しのライブに行くという、いかにも青春っぽい予定ができた。その推し、基本的に東京でしかライブをしない。たとえば私たちが都内に住んでいたら、週末の日常かもしれないけど、新幹線に乗るにも車で二時間弱かかる地域に住んでいるから。ちなみに飛行機も保安検査を含めたらそれぐらい。田舎だ。
その遠征を1ヶ月後に控えた日、私たちはショッピングモールに来た。ただフードコートで食べるぐらいのつもりだったのに、友達につき合って雑貨屋さんに入った。コスメを見るらしい。
「れなちゃんも買えば?」
「いいのあればね」
その数秒後に、紫のアイライナーにときめいてしまった。「まだ店内を見るけど買うことは決めている」ときの持ち方をした。すぐそばには赤い眉マスカラがあった。
「れなちゃん赤っぽく髪染めとるけん似合うかもよ」
そしてまたその持ち方をした。
別の棚を見ているとそこはマニキュアの売り場だった。なぜか私はカラフルな空間をずっと見てしまう。フードコートの前に行ったフィギュア屋さんでも、カラースプレーにうっとりしていたぐらい。他のコスメ売り場は同系色が多いけれど、マニキュア売り場はすべての色を許容していたから大好きになった。
「推しに会うんやけん、かわいくしよ」
そう友達は言った。アイドル好きには常識なのかも。ラメ入りのピンクを選んだ。私は、「ピンク好きな女の子はかわいい子ぶってる」みたいな圧力に負けていたわけではないけど、最近になって好きな色が黄色からピンクに変わっている。アイライナー、眉マスカラ、マニキュアを買った。なんで積極的な友達と消極的だった私が同じぐらいの額を使っているんだろう。
「いいよね、旅行のための投資だから」
そう思うよ、いいホテルを予約するのと同じだよね。
カラオケに移った私たち。前日の睡眠がお互いに3時間ほどだったせいで、歌うことには疲れてしまった。友達が自然な流れでコスメを開封し始めた。私も眉マスカラを開けた。友達はメイクに詳しい。
「毛の流れに逆らってつけてね」
「わからん、つけてくれん?」
つけてもらっている間、西日本の方言でくすぐったいを意味する「こしょばい」しか言えなかった。
「けっこう強い赤かなと思ったけど、れなちゃんの髪色に合っとる。当たりやね!」
貸してもらった鏡で見ると、きれいな色であることに感動した。アイライナーもつけてもらった。くすぐったさに笑ってしまって、友達にキレられそうになったけれど。好きな色をまとっている感覚があった。
私たちが通っていた高校には、メイクをする女子に「なぜ校則を破ってメイクするのか」と尋ねる先生がいた。大半の女子が「かわいくなりたいから」と言っていたことに私は納得が行かなかった。たぶんその理由は、カラフルなものにときめく私にあるのだと思う。
「私はメイクをお絵かきだと思ってる」
高校を卒業したばかりだった私が友達に言った。
「れなちゃんのメイクは色塗りでしょ」
そう返されて納得して、悔しくて、自分の美的感覚をちゃんと知っておきたくなった。でも、ほとんどメイクをしない私の、卒業後の時間でそう気づいてくれたことが嬉しかった。
夜型さんのエッセイ帳 阿部蓮南 @renalt815
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