変化と気づき

@oglbr10

気づけっ!

「えっ…なんで...!」鏡に映った自分を見る。そしてそっと体に触れる。頭の上に耳が生えて毛深くなり始めてる。いや、間違いない。確実に体は変わっている。人間ではない獣みたいな動物に。「これは幻覚。疲れているんだ!!」そうは言いつつ不安はよぎる。体に異変が出て1週間。最初は毛深くなっただけだった。疑問に思いつつきっと体が成長しているのだろうと、放置していたら2日前くらいから獣みたいな耳が生えてきた。笑えない。体が他の動物になるとか聞いたこともないから怖い。だからそんな自分を隠し通さなければいけない。家から出るが帽子は必須、肌が見えないように服を重ね、なるべく人と会わないように。話しかけられないように。今が夏休みで本当に良かった。思えば、昔から対人関係は苦手だった。だから人と話さず毎日を過ごすのは苦ではない。たぶん。でも今日は街に洋服を買いに行って気分転換をすると決意した。はずなのに、体は自然と山に向かっている。なんなんだよ...!なぜ自分が変わっているのか、いつ戻るのか、これは気のせいなのか。色々頭の中を駆け巡るがどうやら気のせいではないらしい。山を登っている途中にヘビが現れた。自然と「おいしそう!」と思ってしまった。これはおかしい。カエル、バッタ、トカゲを見ても食欲が湧く。恐怖と驚愕が入り乱れる。その他にも歩いていたら急に山に穴を掘りたくなったり、自分がなんだかわからない。歩いている途中に思い出した。今日は気分転換のために街に行くはずだった。山に居たい気持ちを抑え、街へ歩き出す。思えば、久しぶりにたぶん自分のしたいことをする気がする。私が選ぶのは最近流行りのブランドの服。みんなが着ている安心感に魅力を感じる。買ったらまっすぐ帰路につく。ご飯を食べて、テレビを見て、お風呂に入って日が変わる前に寝た。

目覚まし時計が鳴った。鳥のさえずりが聞こえる。ここ最近寝た気がしないうちにあっという間に朝が来る。まだ眠りたいなとか思ったりするがそんな気持ちを無視して伸びをする。そのまま顔に手を当ててモフ。ん?モフ。いやモフはおかしいだろ。なぜ顔がモフモフしているのか。慌てて鏡を見ると鏡には人間じゃないものが写っていた。「なんで、キツネがいるのっ!」どうやら寝ている間に完全にキツネになってしまったようだ。家の中にキツネがいたらパニックになってしまうに違いない。バレないように階段を降り換気で開いていた窓から外に逃げた。町中を歩いている人間に見つかってもパニックになる気がするから隠れながら山に向かう。走っていると途端に悲しくなってくる。いつまでこのままなのか。もう人間には戻れないのか。てか人間の感覚はまだ残っているのか、人間の言葉は話せるのかな。よし、試してみるか。息を吸って…「コンッ!!!!」おはようって言ったつもりなのに声として出た言葉はもう人間ではなかったみたい。走り回ってたどり着いた場所は昨日の山。いい感じに隠れれる場所を見つけて休憩をしようとしたらお腹から大きな鐘がなった。朝から何も食べずに走り回っていたことに気がついた。こんな山に食べ物があるのかと思ったが、今の私はキツネなので食の好みが変わっている。動体視力の調子も良い。ありがたくそこら辺を歩いているトカゲを捕まえていただいた。家族が心配するだろうから夕方までには家に帰りたいと思うがこの体をどうする事もできなそうなのでこの山を探索することにした。普段山なんて来ることがないので新鮮でよいが不安でそれどころではない。探索中小さい小屋みたいな何かを見つけた。近寄ってみると神社っぽい。なんでこんなところに?と見上げていたら人が出てきた。怖そうなおじさん。隠れようとしたが遅かった。「あんた、きつねのふりした人間だね」なんで分かるのか。「今、なんで分かるのかって思ったでしょ。すべてお見通しだよ。あんたは人間だね?」もう逃げられない。この人が救ってくれるだろうと希望をかけ首を縦に振った。「一年に一回くらいあんたみたいなやつがいるんだよ。しかもみんななぜかここに集まるんだよ。キツネになったということなら嘘をついたのかい?」でもどれが決定打なのかわからない。徐々に変化していったな。困っていたらお菓子を持ってきてくれた。「好きな方をお食べ。余った方をおれが食べる。キツネでも安心して食べれる素材で作られているぞ!」と。そんなことを言われると余計決められない。私は余った方でいいのにとか思ってしまう。そんな姿を見ておじさんはニヤリとしながら「あんた、もっと欲張りになっちゃえ。おれのことばっか気にしないで自分の気持ちに正直に。いつもそうやって気にしながら生きてきたんだろう。優しいことだ。だけどな自分の意志を通すべきときは通さないとしんどくなるだけだぞ!まぁ、こんなお菓子ごときどうでもいいよな」と笑った。見通されている。私の中で感情かなにかが動いた。私はいつからなのか、自分の気持ちに正直に生きるということを忘れてしまったようだ。なんとなく周りに合わせて共感と行動をする。周りから浮かないように。自分の居場所が無くならないように。自分が本当はしたい行動なんて押し殺した。嘘をついた。ただそんな生き方をしている自分のことも好きだった。相手が何を欲しがっているかが当たってうまく周りに溶け込めたとき、最大の幸福を感じた。自分の居場所が他の人から与えられた瞬間、あなたはここにいていいんだよと態度で示された瞬間、これらが大好きだった。そのためだったら自分の思っていることなんて言えなくても良かった。みんなが納得するなら余ったものでも同じででもなんでもいいやって。でも気づいたときには良くない方向に向かっていたみたいだ。もう遅かった。自分が本当に好きなものはなにか、どうしたいのかそんなことも人に聞かなきゃわからない。嘘をついてまで自分を隠して過ごすことで自分の意志が言えなくても良かったんじゃなくて、自分の意志がわからなくなってしまって言えなくなっていたんだ。そう気づいた瞬間光に包まれて人間に戻っていた。そこには神社なんてなかった。おじさんなんていなかった。さっきまでいたのにいなくなったという事実に怖くなって家まで走った。何者だったかはわからないけどきっと私の人生を変えてくれる縁のある人だったはずだ。でもいくらアドバイスをもらっても行動しなきゃ変わらない。まずは自分がほんとはどう思っているのか心に意見を傾けてみようと思う。空は快晴。これからの人生がきっといいものになると信じて私は家に帰った。

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