【没ネタ】オタクに厳しいギャル

夏目くちびる

第1話

 それは、ある日にクラスの女王であるギャル子ちゃんの家へ遊びに行った時のこと。扉に見慣れないポスターが貼ってあったから、それについて尋ねてしまったのがきっかけであった。



「……え? なに? ブレードランナーも見てないのにSFファン語ったワケ?」

「ま、まぁ。いや、うん。でも、他にも攻殻機動隊とかバック・トゥー・ザ・フューチャーとか、あとはスター・ウォーズも見てるよ。7、8、9以外」

「まぁ、その三つはゴミだから見なくてもいいんだけどさぁ」



 そうなんだ。



「でもさぁ、言ってることおかしくない? それって、SF映画が好きなんじゃなくてサイバーパンク2077が好きなだけじゃん? 『ゲームしゅき♡』とか言っておきながら好きな配信見て有名な無料FPSばっか漁ってるカス女と同じじゃないの?」

「まぁ、うん」

「だったらさぁ! 最初っからオタクとか名乗らないで欲しいなぁ!? それが好きなだけって言って欲しかったなぁ!? あーしだって、普段隠してるモンをブチ撒けてもあーしの側にいてくれると思ったから色々と知ってる前提で話したのにさぁ!! ねぇ、分かるよね!? あーしみたいなのがフツーのオタクちゃんと話せない理由は、もはや前提を説明するのがクッソダルいからだって分かるよね!?」

「う、うん。分かるよ」

「んもぅ!! だったら好きになんてさせないで欲しかったんですけど!! もう戻れないところまで来て、散々キモい正体晒した後にリリースされるのとか傷つくんですけど!! あーし、一応は女王様で通ってるんですけど!? オタク君が色んな知識を網羅的に知ってると思い込んで!! 結婚する妄想までしちゃったんですけどぉ!?」



 ……まさか、彼女がこんなにディープなオタクちゃんだったとは。



 道理で、俺のキモい趣味を肯定してくるワケだ。だって、ギャルちゃんにとってはもう、とっくに通った道だったというだけの話だったのだから。



「……それで、なに? じゃあ、オタク君ってなんなら知ってるワケ?」

「萌アニメ、とか?」

「正確に!!」

「う、うん。2010年より後の萌アニメなら一応色々と見てるよ。あと、ハルヒとかキノとか、もう少し前だとスレイヤーズ、フルメタ、ブギーポップ。そんな感じ」

「一番好きなのは?」

「えっと、ゼロ魔とか?」

「それはそれで違う!! あーしたちはあーしたちの世代の作品から入るでしょ!! そんで、普通は一番を選べってなったら読み始めた頃の三、四作目をあげるでしょ!? 古い作品ばっかり挙げてると懐古厨っぽくて逆にキモいって気持ちくらい分かってよ!!」



 まぁ、ハッキリ言って怖かったから媚びた部分はありますけども。好きであることには変わりないよ。



「ねぇ、もうあーしは『今期はどのアニメが面白い?』なんて浅く広い感想を言い合うフェーズはとっくに過ぎてるんだよ。キャラクター談義なんてモノは、リアタイ視聴でちょっと触れるくらいでさぁ、これって決まったジャンルを深堀りするフェーズに来てるんだよ?」

「その割には、色々と知ってるような気がするけど」

「知ってるのは知ってるよ、ちゃんと見てるもん。でも、トレンドを追うのは最低限にしておかないとさぁ、時間が全然足りないようなオタクになってきてるワケじゃん? そして、あーしはオタク君がそれくらいディープな人間かもしれないって思ったから、もうこんなに拗らしちゃってる痛々しい部分を見せなきゃ気が済まなくなっちゃってるんじゃん?」

「買い被り過ぎではないでしょうか。それって、要するにギャル子ちゃんの浅い部分を、たまたま人より広く知ってた俺が理解出来たってだけの話な気がするよ」



 だから、俺たちの恋愛はただ『オタクに優しいオタクが両思いになった』ってだけなんじゃないかな。



「ただ浅いだけのオタクは! そんなふうにあーしが納得しちゃうような優しい言葉を思いつかないんだってば!! ああああ!! 好きすぎてムカつくぅぅぅぅ!!」

「お、落ち着いてよ」

「ムキイイイイ!!」



 言うと、ギャル子ちゃんは俺をベッドに押し倒してからロッカーを開けて同時に二体のガンプラを見せてきた。



「これは!?」

「さ、サザビーとナイチンゲールでしょ。これは流石に分かるよ」

「じゃあこれは!?」

「クアンタとエアリアル。並べて見ると結構違うね」

「じゃあこっち!」

「で、えぇ? なんだろ。百式と、デルタガンダムだっけ?」

「ねぇ! おかしいじゃん! 浅いオタクにパッと見でこの違いが分かるワケないでしょ!? 浅いオタクがデルタガンダム知ってるワケないでしょお!?」

「そうかなぁ」

「それなのに!! なんでSF映画好きを語っておいてブレードランナーも見てないんだよぉぉぉぉぉ!! おかしいじゃんかあああああっっ!!」



 ひょっとして、ギャル子ちゃんって人生二周目なんじゃないかなぁ。そうじゃないと、俺と同い年なのに使える時間の辻褄が合わないよ。



「よし、じゃあ分かった。見よ、ブレードランナー。そしたら、サイバーパンクって世界観を理解出来るハズだから。あーしの副音声を聞いてれば、なんであぁいう世界では階級差や国家間じゃなくて企業同士での争いがメジャーなのかが分かるから。というか、分かれ」

「うん」

「その次は、まぁなんでもいいや。とにかく、これだけは知っておかなきゃダメっていう作品がこの世界には幾つかあるじゃん? 『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』とか、『大列車強盗』とか」

「まぁ、うん。俺は、原典よりモダナイズして洗練された作品の方が好きなこと多いけどね。ちょっと反則かもしれないけど、ゾンビ映画で一番好きなのは『カメラを止めるな』だし」

「それは当たり前でしょ、いわゆる金字塔って話は面白いのにテンポ悪くてダレる作品多いし」

「ストーリーテリングは『ストリート・オブ・ファイヤー』で確立されたって言われてるもんね」

「……もう、なんでそういうことは知ってるかなぁ。だから、安心しきって全部話しちゃうんだけどなぁ」



 そんなワケで、俺はオタクに厳しいギャル(オタク)と一緒に夜が明けるまで映画を見ていた。



 冷静に考えて、なぜアニメオタクの俺が「元ネタだから」という理由で実写映画を見せられまくるのかよく分からないし、別に面白いモノが面白ければいいだけで、知識は二の次だと考えているからクソほどどうでもいいと思った。



「でさぁ、ここのシーンはさぁ」



 けれど、ギャル子ちゃんが楽しそうだからいいか。



 結局、ディープなオタクが一番懐きやすい相手というのは、自分よりも少しばかり知識が浅い人間ということなのだろうと、彼女のニコニコ笑顔を見て思った。

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【没ネタ】オタクに厳しいギャル 夏目くちびる @kuchiviru

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