四葉のクローバー
白崎なな
第1話
「あった!」
そう言って私は手を伸ばした。どちらが先に見つけられるか競争をしていたのだ。まだ向こうから声がかかっていない。ということは、私が先に見つけれた、そう思って嬉々とした声を上げた。
「ねぇ! あったよ、四葉のクローバー」
私は、先ほど見つけた四葉のクローバーをギュッと握りしめて勝ち誇った笑みを浮かべる。後ろで同じように探している舞に声をかけた。
私は、しゃがみ込んで探している舞のそばに腰を下ろした。
「ちょっと、すみれ? 顔に泥つけてるんだけど」
私の頬についていたであろう泥を、舞はハンカチで拭き取ってくれた。そして、私の手の中にある四葉のクローバーをに視線を落とした。握りしめてしまい、少しくたっている。
「拭いてくれてありがとう! これ、前から持ってた栞よりも大きいでしょ?」
もちろん、先に見つけれたという喜びもあった。しかしなによりも、以前から舞が大切に使っていた栞よりも大きいものを見つけれた。
きっとこれからは、私の見つけたこれを栞にして使ってくれるはずと考えていた。
私は、握りしめていた四葉のクローバーを手渡した。舞はカバンの中から栞を取り出して、今渡したものと見比べている。
律儀に見比べるのも、いかにも彼女らしい。そんなところも含めて、私は舞が好きだ。
「うん、ちょっと大きい気がする。っていうか、中学生にもなってなんでこんなこと……」
ここで昔、先ほどと同じように四葉のクローバーをどちらが先に見つけられるかの勝負をしていた。
その時のことを思い出だしたら、またやりたくなった。それに、栞にされている四葉のクローバーは舞が自分で見つけたもの。
悔しくて、それから何度もひとりで探していたのにやはり見つからなかった。
今回は、すぐに見つけられてとても嬉しい。それに、今度こそ私の見つけたものを渡すことができたのだ。嬉しいわけがない。
私の声は、嬉しさが滲み出ている。
「理由なんてなんでもいいでしょう? ねぇ、それよりもそれ…… 栞にしてくれるんでしょ?」
舞は、目を見開いて驚いている。そして、私の探そうと言った理由がわかったのか笑い出した。
私は思わず、不貞腐れたような顔をしてしまう。
「ねえ、忘れちゃったの? この栞、一緒に作ったの。大好きなすみれとの思い出だもん。私は忘れないし大切なんだよ?」
私は “大好きなすみれ” の言葉が心の中に突然落ちてきて、溶かされず心に置き去りにされた。
私が言葉をようやく理解できたとき、舞は自分の言葉に頬を染め上げた。思わず、私の頬が緩む。
「大事にするほど、私のことが好きなの?」
舞はぷいとそっぽを向いて、何も答えてくれなくなってしまった。言葉が溶かされないのもそのはず、自分の想いと同じだなんて信じられなかったのだ。
私の想いと同じなのか、確かめたいと思うのはあたりまえだろう。
「私、舞のことが大好き!」
今までの想いを言える嬉しさ、今まで持っていた栞にそんな思いがあったのかと知れた喜び。全てが混じり合って、目を輝かせてしまう。普通なら、告白というのは緊張で目が合わせられなかったり震えてしまうはずだろう。
しかし、この気持ちは心に仕舞い続けなければいけないと思っていた。
このまま友達としてあるべきだと思っていただけに、伝えられる喜びが勝る。それに、好きな舞から “大好きなすみれ” と言われたら誰でも舞い上がってしまうだろう。
「う、ん。……私も、すみれのことっ……すきっ」
全く目を合わせてくれないが、頬が染まってるそれは桃のようだ。それに、舞からは甘い香りがしてくるように感じる。それは、この甘い空気がそう感じさせているのかもしれない。
(甘そう…… 食べちゃいたい)
考え事をしていて返事のない私に、チラリと視線を向けられる。その様子の伺い方も、可愛くてしかない。
「これが、キュートアグレッション…… 恐ろしい」
心の声が口に出てしまっていた。それに対して、じろりと舞は睨んでくる。その顔は、恐ろしいのは私のセリフだと書いてあるようだ。
私はしまった口に出ていたと、自分の手で口を押さえた。私のその行動に、舞は小さく笑った。
「四葉のクローバーの花言葉、知ってて渡してきたの?」
「当たり前でしょう?」
“私のものになって”
この意味を知らないで、探したりしない。ましてや、見つけられずあんなに悔しい思いはしなかった。
自分で見つけたものを渡したいというのはその意味を知っていたから。
それに、一緒に探すというのも幸福を呼ぶ四葉のクローバー。私たちに、幸せを運んできて欲しいと思った。
ずっとずっと、好きだった。はじめは、友達として好きだったのに。気がついたら、舞のことが大切で離したくなくなっていた。
これが恋なんだと自覚してからは、ひた隠しにしてきた。
本好きの舞に、少しでも私を感じていてほしくて。四葉のクローバーを栞にして贈りたかった。
「知ってて、何も言わずにだなんて。タチが悪い」
(なんとでも言ってくれても構わない。今は、気分がいいからね)
私は、拗ねてしまった舞の肩に自分の頭をのせる。心地の良いほどの重さをかける。自分という存在を、重さでも感じてほしい。
「甘いね」
そう言って私は肩に頭を乗せたまま、舞の顔を伺う。爆発しそうなほどの顔の赤さ。普段は滅多に表情が動かないのに、こういうのには弱いようだ。
きっと、その雰囲気を出しているのは誰だと抗議したいのだろう。こんな距離感なんて、何年もこうだったのに。意識をしてしまうと、こうも人は変わってしまうのだ。
「栞、一緒に作ろう? 何個あっても、別に困らないでしょ?」
私は、舞に預けていた頭を起こして立ち上がった。手を差し出して、舞の手を取った。
舞の手を引いて近い距離に顔を寄せ、おでこをこつんと合わせた。私よりも体温の高い、舞のおでこ。真っ赤に染まった舞の顔が目の前にある。
「舞、大好き」
舞は、パチパチと音がするほど瞬きを繰り返す。一度視線を下に落とし、長いまつ毛が太陽の光にあたってキラキラと輝いて見えた。
目線を私の瞳に戻し、舞の瞳の中には私しか映らなくなる。私はその一連の動きをじっと眺めていた。
「すみれ、私も大好き」
今度は、語尾までしっかり言い切ってくれた。私は満足気に笑って、手を握って帰路に着くことにした。
家もお隣、ずっと一緒にいた。握った舞の手の甲を親指で撫でる。それだけなのに、舞はぴくりと反応をする。
思わず私は、笑ってしまった。
「そ、そういうのは、言ってからにしてくれる? 心臓に悪いんだけど!」
またも可愛いことを言われてしまった。笑いそうになったのをグッと堪えた。笑うと馬鹿にされたと思って、もう何も言ってくれなくなると感じた。
(可愛いなぁ)
「言ったら何してもいいの?」
パクパクと口を開けては閉じ、言葉を紡げないでいる。そんな反応をされるために言ったのではないが。可愛いので、良しとしよう。
手を引いて私の部屋に上がる。ラミネートの機械を出して、しっかり四葉のクローバーの水分を抜いて同じように栞にする。
「やっぱり、自分で見つけたのっていいね」
私は、穴にリボンを結んで手渡した。舞は、渡された手元の栞を見て顔を輝かせる。
そんなに喜んでもらえるなら、もっと早く探すべきだった。以前の栞に嫉妬をしている場合ではなかった。
舞のカバンから覗く、以前の栞が視線の端にうつる。
喜んでいる舞の顔に手を添えて、視線を独り占めした。自分だけを見ていて欲しい、なんて私のわがままだろうか。
そう思いつつ、そっと顔を近づけた。舞は、目を開いたまま固まっている。
柔らかく暖かい舞の唇を奪った。
舞は驚きすぎて、呼吸も止まっているのではと思うほどだ。私は、柔らかさを感じとるように唇をはんだ。
ふわっと香る匂いは、やはり甘い。このまま食べ尽くしてしまいたいと思ってしまう。
「……っ! これ以上はダメ!」
そう言って、舞は顎を引いて私の唇から離れた。名残惜しいが、いつでもすることができるのだからと思うことにした。
「はぁい。また、しようね?」
また、顔をそらされてしまった。耳まで赤くした舞をじっと眺めた。
まっすぐに降りた長い黒髪を、優しく耳にかけた。
ふいに視線が合い、舞は頬を染めたまま口を開いた。
「うん」
(あぁ、本当に可愛すぎて食べてしまいたいっ!)
四葉のクローバー 白崎なな @shirasaki_nana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます