第11話 初めての都市
「ついた…!」
旅を初めてから約1ヶ月。俺は南大陸の1番の都市、ガランバランに到着していた。大きな城壁に囲まれた都市は中心に行くほど高くなっており、赤い屋根の建物の中、1番上には王城がそびえ立っている。
「ここに来るのは初めてかい?」
「ええ、初めてです!」
同じ馬車に乗っている女性にそう答える。
俺は今、馬車の中にいる。ここへ向かう道中、ついでだと言うことで乗せてもらうことが出来たのだ。馬車にはもちろん先客がおり、それがこの女性だ。腰に剣を差し、真っ赤な髪を一つ括りにしている。服装は薄着で下は黒のズボンを履いているが上半身は胸を隠しているだけだった。お腹には大きな古傷のようなものがある。
「まぁ反応的にそうだろうねぇ」
「ミランさんは来たことが?」
ミラン。それが彼女の名前だった。
「もちろんさ。ここは私の本拠地でもあるからね」
「例の冒険者という職業ですか」
冒険者。それは何でも屋と同じ認識で問題ないだろう。用心棒から傭兵、魔物退治、掃除等々。何でもござれな集団らしい。腕に覚えのあるものが多く、元軍人などもゴロゴロいるのだという。
「そうだ。私はここを拠点に動いている」
正直、冒険者というものには大変興味がある。何でも依頼をこなせばそれなりの金が報酬として貰えるらしい。旅を続ける上で金は大事だ。多くあることに越したことはない。ならば冒険者という職で稼ぐというのも一つの方法だ。
先生から貰ったお金はあるものの、それもいつか尽きるのだ。
「ミランさん。俺も冒険者になってみたいんですが、どこへ行けばいいんでしょうか」
「なんだ坊主。あんたも冒険者志望かい」
「ちょっとお金を稼ぐ必要があって」
「へぇ。いいじゃないか。冒険者は一攫千金の職でもあるからね。なら、私が連れて行ってあげるよ」
「どこへ?」
「冒険者たちの集まるところ。冒険者協会に」
馬車が止まる。どうやら都市に入るためのチェックを行っているらしい。馬車の中を確認するために簡素な鎧に身を包んだ兵士が顔を覗かせた。
「お、ミランじゃないか」
「おお、ユリース。今日はお前か」
どうやらミランさんの顔見知りだったらしい。まぁ冒険者として都市の外に出る機会が多いなら当然か。
「ミラン、そいつは?」
「ここに来るって言うからついでに乗せたのさ」
「なるほどね。…うん、特に覚えのない顔だな。入っていいよ」
「あ、ありがとうございます?」
覚えのない顔とか言われてしまった。犯罪者の顔でも把握しているのだろうか?
「あんがと」
「はいよ。また飲もうな〜」
「お〜う」
馬車は都市への入口を超え、大きな王城のそびえるガランバランへと入った。
やがて、馬車は馬車置き場に止まり、俺たちは馬車から降りた。
「これがガランバラン」
さすが南大陸で1番の都市。多くの人で溢れかえり、至る所で商売が行われている。貴金属を売っている者や、食料を売っている者などさまざまだ。
みんな一様に通行人を呼び止め、商品の売り込みをしている。
「中に入ってみると凄いだろ?」
「ええ。こんなの見たことないです…!」
「この都市は商売が盛んだからねぇ。毎日これやってるよ」
「毎日!」
それは心が踊る。これだけの店が並んでいれば何か自分好みの店でも見つけることが出来そうだ。多くの店がある分楽しめそう。
「さて、じゃあ冒険者協会に私は行くけど坊主はどうする? もう行くかい?」
「あ、御一緒させてください」
「いいとも。じゃあ行こうか」
ミランさんの後に続いて都市を歩く。ミランさんはそこそこ顔がしれているようでそこかしこで声を掛けられている。みんなが「また来てね」とか「寄っていって〜」とか言っているところからするに、ミランさんはそこそこ人気者なのだろう。まぁ実際姉御肌って感じだしな。
しかし、本当にすごいな。中心に向かってい行くにつれて土地が高くなって行っている。そしてほとんどの家が赤い瓦にクリーム色の壁をしている。統一感が凄まじかった。
「ここにはこの国の王様がいるんだ」
ミランさんはそう言って語り始めた。
「ここら一帯を占めているルーズベルト王国。その中心都市がここなんだ」
「じゃあ、あの中心の城には王様がいるってことですか?」
「そういうことさ。だから街並みもこんなにも揃っているし、多くの人が溢れているんだ」
まぁ、確かに国の中心ならば人が多くて当たり前か。
「と、話してたらすぐ着いたな」
ミランさんはある建物の前で足を止めた。その建物は赤い屋根でも、クリーム色の壁でもなく、無骨な石で作られた建物だった。上の方には盾と剣を交差させたようなマークがついていた。
「ここが冒険者協会だよ」
「いかにもって感じですね…」
「まぁ外もそうだけど、中もいかにもって感じだよ」
ミランさんがドアを開け、入るのと同時に俺も中へと入る。
中は食堂と一体となっているようで、まだ昼なのに飲酒をしている者や、もう潰れている者もいた。そして、そこにいるほとんどのもの達が軽微な装備と剣や短剣、杖などを携えていた。
特にこちらに注目する者はおらず、みんなそれぞれで楽しんでいた。いや、喧嘩してる奴もいるけど。
「おう、帰ったぜエリー」
ミランさんは受付嬢っぽい人に片手を上げながら近づいた。
「おかえりなさいませ、ミラン様」
「相変わらず硬いね〜。幼なじみの帰還だってのに」
「仕事中なので」
「ふ〜ん。ま、いいや。今回の調査依頼だけどな…」
ミランさんは受付嬢と依頼内容に関して話し始めた。馬車の中で聞いた話ではミランさんは今回、近くの森の調査依頼だったそうだ。何でも魔物が活性化している恐れがあるとの事で依頼が出されたのだと言う。
その内容を報告している間、俺は暇だったので冒険者協会内をウロウロと観察しながら歩いていた。
お、これが依頼ってやつか?
俺は多くの紙が貼り付けられている壁を見た。多くの紙には星と依頼内容が書かれている。星は恐らく難易度だろう。強そうな魔物の討伐や危なそうな依頼に関しては星が多く着いている。特に星の数に上限はなさそうで難易度が高いものには沢山付いているという感じらしい。常設の依頼もあるようで一般的に使われる薬などを作る際に必要な薬草や魔物の素材なんかは常設されているようだ。
「君、杖を持っているって事は魔法使いかな?」
「え?」
依頼を見ていると当然後ろから声を掛けられる。まさか声をかけてくる人がいるなんて思ってなかった俺は思わず聞き返してしまう。
「あ、すまない。私はレイダ。見ての通り剣士だ」
振り返ったそこに居たのは黒い髪を肩の辺りで短く切りそろえた女冒険者だった。
「あ、俺は京太郎です」
「変わった名前だな」
「まぁ少し遠いところの出身で…」
「そうなのか、それは失礼した。所で再度聞くが君は魔法使いだろうか?」
レイダは俺の持っていた杖を指さしてそういった。杖を持ってるやつは大体魔法使いだ。杖を物理攻撃用に使ってるやつなんてそうそういないからな。
「まぁ魔法使いの端くれではありますね」
「よかった…」
何がだろうか。俺以外にも魔法使いなんて、そこら辺にいるだろうに。軽く見渡しただけでも10人前後はいるぞ。
「私達はちょうど魔法使いを探していてな」
「はい」
「良ければ一緒に来てくれないだろうか?」
レイダは親指でクイクイっと肩越しに後ろを示した。その方向に目をやると、レイダと同じくらいの歳の青年と女性がテーブルに座っていた。
「なぜ俺なんでしょうか」
「見た感じ君はどこにも属していないみたいだったからだ」
「? なんでわかったんですか?」
「なんだ、知らないのか?」
「すみません、まだここに来たばかりで正式には冒険者にはまだなっていないんです」
「あ、そうだったのか。あれ、でも依頼を見てたような」
「あれは本当に見ていただけですね」
「そ、そうなのか」
レイダは少しだけ肩を落とした。すまないレイダ。紛らわしい真似をしてしまって…。
「おーい、坊主。ちょっとこっち来な〜」
受付の方からミランさんの声が聞こえる。まず間違いなく俺のことだろう。振り返るとやはり俺の方に手招きをしているミランさんが見えた。
「すみません、レイダ。ちょっと呼ばれたので」
「あ、ああ。また後で声を掛けるよ」
「ありがとうございます」
とにかく今はミランさんの方へ行こう。
俺はレイダを視界から外し、ミランさんの方へと足を進めた。
無能な俺は異世界転移したらこの世界の頂点に立つ人に誘拐されました。 @anaguramu
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