第10話 一方その頃



 京太郎がツルギの元を旅立った時、王城に残っていた級友達も旅立ちの時を迎えていた。


「勇者たちよ。あなた方はこの1年間で大きく成長しました。さぁ旅立ちの時です。魔王を倒すために、この世界を救うために」


 王城の玉座の間。

 王の座る横で仰々しく生徒たちに告げる皇女。

そして、皇女の前には、跪く生徒たち。もう制服は来ておらずそれぞれが旅装束に身を包んでいる。背中や腰にはそれぞれが得意とする得物が携えられていた。


「はい。皇女殿下。我々は魔王を倒すためにこれから旅立ちます。そして必ずや魔王の首をとり、この国へと献上いたします」


 生徒を代表して剣を腰に差した藤原が前に出てくる。

その顔は以前のように自信に満ち溢れ、自分に敵うものは居ないとでも言いたげな顔であった。


「ええ。勇者たち。期待していますよ?」


 皇女はその端正な顔を緩ませながらにこりと笑った。

 こうして、彼らもまた、京太郎と同時期に旅立つこととなったのである。







 ※※※




 ぞろぞろと王城から生徒たちが出ていく。

 それはやはり、藤原を先頭として次に雪乃が続き中心メンバー達が続く。京介はその中でも最も後ろ。最後尾から続いていた。

 この1年間彼らはこの国の者たちから教えを受け、成長してきた。レベルを上げるための魔物討伐も行われ、レベルに関しては全員平均して50程度まで上がっていた。

 もう十分だと判断された彼らはこの都市を旅立ち、魔王を倒すためにそれぞれで強くなっていくことになったのだ。


「さて、じゃあ今後どうしようか」


 王城から出て数分。都市の中の広場に着くと藤原は振り返ってそう切り出した。


「どうするって?」

「今後どう動くかってことさ。どこを目指すのかとかね」


 藤原達は旅立てと言われただけでどこを目指せばいいのかなどは聞いていなかった。正確には自分で判断しろとの事だったのだ。


「どこって魔王のところじゃないのか?」


 生徒のひとりが言う。


「ああ、最終的にはね。でも今の状態でいきなり魔王の所へ行っても殺されるだろうね。なんせまだ僕たちは50レベなんだし」

「…確かに」

「それと、この大人数で一緒に動くのは得策じゃないだろうしね」


 そこには藤原を含めて約30名ほどの生徒がいる。この大所帯で移動していれば時間もかかるしなにより、衝突が発生するだろう。


「僕は数人ごとに分かれて行動した方がいいと思う」

「でも危なくない?」


 藤原の隣にいた雪乃は分かれることにより、危険性が増すことを危惧していた。


「そこは大丈夫だと思う。僕たちはこれでも勇者だ。それも大きな力を持っていると皇女も言ってた。並大抵の事じゃどうにもならないさ」

「でも…」

「それに僕は全員が魔法の所へ向かう必要はないと思うんだ」

「?」

「中には先頭が苦手な人もいるだろう? だから無理強いはしないよ。そういう人たちは別の生き方をしてもいいんじゃないかな」

「確かに…」

「そして、もしそれでも分かれることが怖いと言うなら僕に着いてくればいい。ただ基本的には僕の方針で動くことになるけどね。そんな感じでどうだろう?」


 藤原はそう言ってみんなに問いかける。確かに規格外のステータスを持っている藤原に着いていけば安全な旅を送ることができるだろう。

 しかし、中には藤原のことをあまり好ましく思っていない奴もいる。藤原はそんなヤツらと一緒に行動する気なんてさらさらなかった。だからこんな回りくどいやり方でふるいにかけているのだ。


「わ、私は藤原君についてく!」


 藤原の問いかけに一番に応じたのはやはり、雪乃だった。


「お、おれも!」

「わたしも!」


 雪乃を皮切りにおよそ2分の1。15人程度が藤原に同行することにした。残りの15人は藤原にはついて行かず、思い思いに旅の仲間を勧誘し、いくつかのグループに分かれた。



「うん、じゃあ僕についてくる人は今日はゆっくりして明日旅立つことにしようか。雪乃、貰ったお金で適当に宿を取っておいてくれるかい」

「分かった!」



 藤原のグループを含め、それぞれが行動を開始した。あるグループは直ぐに旅立つことにし、あるグループはまずは隣町を目指すことにしている。

 そんな中、京介だけは誰とも組まず、1人で広場に立っていた。


「やぁ、京介くん」


 そんな京介に藤原は話しかける。


「なんだ、藤原」


 京介は藤原に対してつっけんどな態度で対応した。京介は昔から藤原含め、同じクラスの奴らがあまり好きではない。理由は単純で友人である京太郎への態度、そして無駄に高いそのプライドが気に入らなかったからだ。故に誰からの誘いも断り人で行動することにしたのだ。


「僕たちと来ないか?」

「なんでだ。お前のところにはもう十分に人がいるだろう」

「僕は君の戦闘力の高さを買っているんだ。是非、僕たちの力になってほしい」

 

 京介は生徒たちの中で2番目に強かった。元々運動神経がいいことや筋肉がついていたことも多少影響しているのだろう。彼の繰り出す拳の連撃には多くの生徒や魔物が打ちのめされていた。ちなみに生徒とは模擬戦を行っただけだ。


「断る。俺は京太郎を探すからな」


 藤原の誘いをあっさりと断ってしまう。京介は魔王討伐に何ら興味は無い。あるのは京太郎との、友人との再会だけであった。


「あいつを探すっていうのかい?」

「そうだ」

「考え直した方がいいと思う。あんなやつの為に時間を使うなんて全くもって無意味じゃないか」 

「なんだと?」

「時間を使う価値がない」


 これだ。京介が最も嫌いなこと。こいつらは京太郎のことを人間として扱わない。そしてそれを悪い事だとは思っていない。当然のこととして、話してくる。京介は反吐が出るくらいそれが嫌いだった。


「もういい。お前と話すことは無い」

「僕たちとは来ないのかい」

「ああ、いかない」

「そうかい。残念だよ」


 藤原は言葉ではそう言いながらも全く残念そうじゃない。まるで最初からこうなることが分かっていたかのようである。

 藤原は踵を返して歩いていった。

 そして京介も京太郎を探すべく、その場を後にするのだった。



 

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