【少し怖い話】キャハハハ!!

高遠 ちどり

キャハハハ!!

 私が大学生だった頃の話です。


 二学期制が四学期制に変わった年、夏のことでした。


 二学期制とは前期、後期でカリキュラムが組まれます。

 一方、四学期制は一学期が、約二分の一の期間でカリキュラムを組むことになります。


 学期制変更の影響で、週一回だった授業が単純計算で週二回に変更ですから、授業も課題提出も頻度が二倍に上がります。


 先生も生徒も疲労を隠せず、教室では常に気怠げな雰囲気が漂い、先生の注意の声も心なしか勢いがありませんでした。


 私も例に漏れず疲れており、夢の中でさえ授業を受けてうなされる日々を過ごしていたある日。いつもより早い時間に床につきました。当時は夜更かしが大の得意でしたが、あまりにも眠くて起きていられなかったのです。


 こんなに早く寝たのだから、朝にはスッキリ目覚めるだろうと期待していた私は、期待に反して夜中に目が覚めました。


 トイレでもなく、冷房の効き過ぎで咳き込んだ訳でもなく、スッと目が覚めたのです。


 ベッドから窓を見ると夜明けのような明るさはありましたが、近くの街灯で明るく感じたのでしょう。時間は、まだ夜明けには程遠かったことだけを覚えています。


「いつもの睡眠リズムを引きずって、早くに目が覚めてしまったのだろう。まだ眠れるな」と寝返りを打とうとしましたが体が動かず、瞬時に「金縛りだ」と冷や汗をかきました。


 実は小学生の頃にお爺さんの霊を見た経験があり、霊現象は人より信じる方でした。そのため、「金縛りは体が寝ている状態で、脳が起きている状態だ」と知っていても怖いことが起きる前兆だと考えていたのです。


 ただ意外なことに瞬きはできるので、「金縛りで動けないなら、視界も閉じてしまえ」と目をつぶった瞬間。


「キャハハハ!!!」


 複数人の小さい子の笑い声が耳に響きました。

 ゾッとしたものの、一度閉じた目を開けるのが怖くて更に強く瞼を閉じました。


 響き続ける甲高い声から逃げようと耳を塞ぎたくても金縛りで動けず、頭に響く不快感で気絶もできませんでした。


 このまま朝になるまで耐えるしかないのか。そう思ったとき、何かのホラー特集で「霊現象に遭ったとき、『出てけ!』と大声で叫んだら現れなくなった」という話があったのを思い出しました。


 もしかしたら、怒鳴ったらいなくなるかもしれない、と早速実践しましたが口も動かないので小さく開くだけでした。


(……さい!!)


 声が出ない状態で何度も叫ぼうとしましたが、小さく開かれた口からは息しか出ません。「うるさい」の一言を頭に浮かべようにも、何故か途切れ途切れになりました。


「キャハハハハハハ!!!」


(……さい!! ……うるさい!!)


 止まぬ笑い声と金縛りに、対抗するように叫ぼうとすること数分。


 ようやく「うるさい」という言葉が鮮明に頭に浮かべるようになり、喉の奥が引き攣り呼吸が苦しくなってきた頃。


 子どもの笑い声が突然パタッと止みました。


 同時に体が動き、すぐさま起き上がると部屋は静かになっていました。

 冷房の効いた部屋で呼吸は乱れ、全身は冷や汗でびっしょり。


 震える足で窓の外を見ましたが、隣家の庭が見えるだけで子どもの姿は一つもありません。窓やドアを行き来したような物音もありませんでした。


 夏になると、近隣のスーパーの駐車場に中学生や高校生がたむろするため、よく笑い声を聞くことはあります。ですが時間も遅く、私が聞いた声は明らかに小学校低学年か、それよりも小さい子どもの声でした。


 以降、私の部屋で例の笑い声を聞くことはありませんでしたが、あのときの恐怖は何年経っても忘れられません。


 子どもの笑い声の幻聴が聞こえるほど疲れていたのか、多忙の中で子どもの無邪気さを懐かしんだ私が何かを呼び込んだのか。


 どちらにせよ、「当時の忙しさ故の出来事だったのだろうな」と思うことにしています。

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