第12話 本当の理由


「あらあら、寝ちゃったみたいね」

「そう……みたいですね」


 疲れからなのかぐっすり熟睡をしている二人を見つつ、ふと結月は「今がチャンスかも」と思った。


 アルバイト先でも何度か聞こうとは思って機会をうかがっていたが、そもそもアルバイトのシフトが平日は夜しか結月は入れない。

 その為、時間の関係で会えない事が多く、たとえ休日で会えたとしても話を切り出そうとしたタイミングで誰かしら入ってくる事が多々あり、なかなか聞く事が出来ずにいた。


 二人が寝たふりをしている可能性が全くないとは言えない。


 ただ、このタイミングを逃したら、もう聞くタイミングはないかも知れない……そう思ってしまう。


「……樹里亜さん」

「何かしら?」


 樹里亜さんは寝てしまった二人にどこから取って来たのか、毛布を優しくかけてこちらを振り返った。


「以前、アルバイトを始めた理由。樹里亜さんは『社会勉強の為』だって言っていましたよね?」

「ええ、そうね」


「本当に……それだけ……ですか?」

「……」


 正直なところ。この他にも色々と聞きたい事はある。しかし、それ以上にここでアルバイトをするためにわざわざ休学してまでやり始めた『理由』について。

 これに関してはやっぱりどうしても何か『社会勉強』以外の理由がある様にしか思えない。もしくはあくまで『社会勉強』は建前で『本当の理由』は隠されているのではないか……とすら思えてしまった。


「……やっぱり、その理由だけで強行突破は無理そうね」

「え、やっぱり?」


「ずっと納得していなさそうだったから。でも、他に人がいるところで聞くのは……って考えてくれていたのでしょう? ずっとタイミングをうかがっていた様に見えたから」

「それは……その」


 樹里亜さんは結月の行動を分かっていたらしい。いや、もうそれが分かっただけで十分結月としては恥ずかしいのだが。


「私としてはその気遣いはありがたかった。結月ちゃんはともかく。他の人に色々と聞かれるのは嫌だったから」

「……」


 そう言うと、樹里亜さんは「ふぅ」と息を吐いて小さく笑う。


「だから……ちゃんと言うと、そうね。アルバイトを始めた理由は色々あるわ。もちろん『社会勉強』もそうだけど……その中であえて一つ上げるとしたら……うん。一番は弟の月の様子がきになったから……かしら」

「月の様子……ですか」


 しかし、もしそうだったとしてもわざわざ休学をする理由には……と思いつつ樹里亜さんの次の言葉を待っていると……。


「ええ。あの子ね、今。入院しているの」

「……え」


 怒るでもなくだからと言って悲しむのでもなく、いつもと同じ様に穏やかな口調でサラリと言われた言葉だったのだが……結月にはその言葉がやけに大きく聞こえた。

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白いタンポポ 黒い猫 @kuroineko

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