スワンプマンのシステムエラー

砂漠の使徒

In the Dream

「それは本当に君の想い人かな……?」


 声が聞こえてきた。

 目を開けると……いや、辺りは暗闇でなにも見えないから開けているかさえわからない。

 そればかりか上か下かもわからなくて、どこかフワフワした感覚だけがある。


「それは本当に君の想い人かな……?」


 また、問いかける声が響いた。

 なんのことを言っているのかさっぱりだけど、無意識に言葉が口を出た。


「うん、そうだよ」


 静寂が辺りを包む。

 しばらくすると、声は会話を続けた。


「しかし、勇者は死に戻り。なにゆえ同じ彼がそこにいるとわかる」


 勇者……?

 死に戻り……?


 身体だけじゃなくて、頭もフワフワだ。

 まるでここは夢の中のよう。

 でも、返事ははっきり浮かんでくる。

 間違いない、これしかないんだ。


「わかるよ。私、好きだもん」


「好いておるから、なんなのだ」


「愛……かな?」


「ふはははは! バカバカしい! 笑止千万!」


 一際大きな笑い声が鳴る。

 だけれど、どこか寂しい音色。


「そっか。あなたはまだ、知らないんだね」


「……ははは」


 疲れ切った笑い声が、かすかに聞こえた。


「大丈夫、安心して」


「なにが」


「私があなたを愛してあげる」


「ありえん」


 拒絶し、動揺しているのがわかる。

 今まで言われたこと、ないんだね。


「ありえるよ。あなたもここに生きている。私とこうして出会えたんだから、もう泣かないで」


「な、にを……。クソっ、これはなんなのだ!!!」


「さぁ、私のところへ来て」


「くっ……ぬぅ……」


 抱きしめる。

 胸の中には、柔らかいなにかが眠っていた。


「おやすみ、かわいい子」


――――――――――


「うぅん……」


 今度こそ本当に目が覚めた。

 ここは見慣れた寝室。

 けど、重たい。


「佐藤……?」


 愛しの彼はベッド脇に座っていた……のだろうけど、前に倒れて寝てしまっている。

 顔からは疲労の色が見える。


「……ふふ」


 なんだかわからないけれど、私を看病してくれていたみたい。

 心配してくれたであろう彼の頭をなでる。


「ん……。あー……あっ! シャロール、起きたのか!?」


 佐藤は目を覚まし、驚く。

 よっぽど寝てたのかな、私。


「うん、もう大丈夫」


「えっと……シャロール、どうやって……!?」


「もう、それどういうこと?」


「今な、町中で人に悪夢を見せるモンスターが悪さをしてて……」


「ああ、それなら解決したよ」


「え?」


「私がなぐさめてあげたから。こんな風に」


 私は佐藤をぎゅっと抱きしめる。

 胸の中の彼が呆気にとられて言葉を失っていると、ドアを激しく叩く音がした。


「佐藤さん! 寝たきりの人達が、続々と!」


 ほら、もうみんな起きたみたい。

 佐藤はそれを聞いて、目を細めた。


「すごいなぁ……シャロールは」


「ううん、私だけの力じゃないよ。佐藤がいたからだよ」


 あなたがいたから、私がいるの。


「愛してる、佐藤」


「僕もだよ、シャロール」


(了)

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