第7話 (最終話)【私の文章】

そんな淡い心境を秘めたことも忘れかけていた晩秋のことだった。

涼しさから、少しずつ冷たさに変化し始めた頃。


イルミネーションや電飾で街が色彩溢れる宝石箱のように、華やかな活気に包まれ始めた時期だった。



健斗から、

「大切な話が有る。」

と電話口で言われ、マネージャーさんが迎えに来てくれた。


車から降りると、ライトアップされたエメラルドの噴水が煌めく場所に来るようにと言われた。


よく見ると、スタッフやメンバーが円形に囲む空間に、大ブレイクしたきっかけの『DESTINED SOUL MATE(ディスティニード ソウル メイト)~運命の人~』の衣装を着た、静寂の健斗が佇んでいた。



状況が掴めずに唖然と佇んでいると、リーダーの海琉が、

「清水さん、驚かせて申し訳ないけれど、

ちょっと、こっちに来てくれないか?」

と呼びかけた。



たじろぎながらも近付いていくと、

「理彩、突然呼び出したりしてごめんな!!」

と言うので首を横に振ると、

「僕達が出逢って、もう10年だね!!

長い下積み時代を支えてくれて、理彩には星の数くらいの感謝を伝えても言い足りないよ。

針を飲むような苦しみも、雪が溶ける程流した涙も、何も言わずに寄り添ってくれた。

これからは妻として、どんな想い出(=みち)も一緒に歩いてくれないか?」

そう言って、煌めく満月と星を象ったダイアモンドのエンゲージリングを優しく左手薬指に通したのだった。


「健斗、有難う!!

嬉しいわ!!」

剰りにも唐突のサプライズに、左右から雨粒が溢れて降り止まなかった。

秋麗(しゅうれい)が運んでくれた雫は指輪にも滴って、ダイアモンドも堪えきれずに貰い泣きをしてくれたのだった。


厳戒態勢で行っていたつもりだったが、このプロポーズの様子を、週刊誌『デビル スマイル』に激写されてしまったことで、熱愛を世界中が知ることに成ってしまった。

潜水していた長期的な交際が、双眼鏡で覗いていた水夫に見付かってしまったことで、怒号と罵声、悲哀の声も矢のように飛んできたけれど、うわべだけでも何とか笑顔を取り繕って祝福しようとしてくれる木漏れ日のファンも居てくれた。


雨が一日中降り頻り、少しずつ暑さも感じられるように成った初夏のことだった。


今日は、健斗と理彩の挙式も兼ねた結婚パーティーが行われる。

優柔不断の空も、今をときめく煌びやかな大スターを祝福する為に、束の間の微笑を浮かべながら、固唾を飲んで見守っていてくれる。


健斗と理彩が出逢ったカフェ、フランス語の『輝く月』を意味する、『LUNE BRILLE(リュンヌ ブリーユ)』の店長が、特別に貸切にしてくれたのだった。


タキシードと純白のウェディングドレスを着飾って、更に見惚れる神々しさが漂っていた。


リュカの祖父でフランス人牧師が、『誓いの言葉』を進行させていく。

言葉で相愛を誓った後に、理彩の誕生石でも有る、猫を象ったレインボームーンストーンのマリッジリングを左手薬指に通し合った。


理彩のベールを捲り、唇から更に深愛と親愛を込めてハグを交わし、未来永劫に続く夫婦(ふうふ)愛を宣誓した。



サプライズで新郎から新婦に、4本のホワイトローズ『死ぬまで愛は変わらない』、8本のレッドローズ『あなたの思いやりに感謝します』、ハーデンベルギア『運命的な出逢い、出逢えて良かった』の花束を通して、メッセージと感謝を伝えた。



更に、EMERALD MOONのメンバーから贈られた「永遠の愛」という花言葉を持つスターチスの花束を抱えた2人に、

「おめでとう!!」

の弾む歓声が上がる空間で、店長がハンドメイドしてくれたライスシャワーの花吹雪が舞い、メンバーと新郎新婦の父母や家族が響かせるクラッカーと、紅白ワインの詮を抜く音が交錯して、耳に心地好かった。


健斗も交えて10人で、理彩の面前で祝福と愛をパフォーマンスしたのだった。

最新曲『NIGHT VIEW~深夜の陽光~』は勿論、10年前のCDデビュー曲『ANGEL’S SUNSET~宝石の雫~』、リュカが作詞したフランス語曲『Plevior de roses(プルヴォワール デュ ロゼ=ローズの雨が降る)~Lumiere et amour~(リュミエール エ アムール=光と愛) 』、2年前に大ブレイクしたメガヒット曲『DESTINED SOUL MATE~運命の人~』では、理彩の瞳を見つめて優しくしなやかに、全身全霊を込めて踊った。



白は『感謝』、紫は『尊敬』、全般的に『家庭の徳、家族愛』という意味も含まれるサルビアと、『家族、団欒』の意味も持っている紫陽花の花束を両親4人に手渡した後に、朗読した父母への感謝を認(したた)めた手紙では、

「お父さん、お母さん、33年間育ててくれて、ありがとう!!

紫陽花の『家族、団欒』と、『家庭の徳、家族愛』というサルビアの全般的な花言葉が物語っているように、お父さんとお母さんの花束のような優しく温かい愛情に育まれたからこそ、私達が邂逅の出逢いを果たすことが叶えられたと現在でも、感謝と尊敬で溢れています!!

2人のように、いつまでも御互いを尊敬して想い合いながら、神村健斗さんと家族団欒を築いてゆける夫婦に成ります!!

御互いの笑い声と笑顔を見つめて、歳月の過ぎる音を楽しみながら、体を大切にしてこれからも素敵な夫婦で居て下さい!!」

という言葉に、出席者全員がすすり泣きの主役に成った。


パーティーが終わり、店を後にする出席者の背中までもが、笑顔で満ち溢れているような素晴らしい時間だった。


微笑みと優しい温かさが残る店内で会話をした後に、2人きりで不意に外へ出た時、突然通り雨が降り始めたのだった。


店内に戻ろうと促す理彩に、通り雨は僅かな時間しか降らないから、このまま暫く佇んでいたいと言う。

健斗の言う通り直ぐに空は泣き止んだのだった。

見つめ合い他愛もない会話を交わしながら、何気なく再び空を見た次の瞬間に、晴れ渡ったスカイブルーの絨毯から、美しい橋が架かったかのように、煌めく虹が現れたのだった!!


天空からのさりげない祝福に思わず歓喜の声を上げて、マリッジリングを上空へ翳(かざ)した。


すると、レインボームーンストーンの輝きと虹の光が反射して、地上と上空を結ぶ更なる虹のアーチが出現した!!


ジューンブライドの花嫁には、更なる幸せが訪れるという伝説が、現実に成った瞬間だった。


想い描くことを諦めずに、夢を持ち続けていれば、時間は流れたとしても、やがて叶う瞬間が訪れてくれるのだということを教えてくれたような気がした。


夢は鮮やかな花を咲かせ、愛は麗しい紅い糸を結んでくれるのだ。



止むことを知らない雑踏が交錯する、眠らない街『東京』で、今日も誰かの夢が、『深夜の陽光』のように眩しく煌めきながら、現実に変化しているのかもしれない。



―FIN(完)―







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『LOVERS&WEATHER(2)』深夜の陽光~Sunny~ 陽溜まりの6匹猫【杉浦 佳代】 @6cats_sunny_place

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