第6話 【T子さんの文章】
図書館で司書として働く理彩は、本の返却に来た女子高生ふたりの会話に、思わず耳を傾けた。
「昨日のテレビ見た?
EMERALD MOONが出てたでしょ!!
『NIGHT VIEW~深夜の陽光~』って、神曲だよねぇ!!」
「私、ダウンロードして、毎日何度も聴いてる!!」
「私も!!
曲は勿論いいけど、やっぱパフォーマンスが最高!!」
「ずっと健斗さん推しだから、私♡!!」
「私はリュカさんと海琉さんラブだよ♡♡!!」
賑やかな笑い声と共に去るふたりを、理彩は複雑な気持ちで見送った。
カフェのバイトから転職して、図書館の司書として働き始めた頃。
EMERALD MOONの人気が急上昇した。
健斗や他のメンバーの名前を耳にする事も増えた。
初めは嬉しかった。
やがて、複雑な気持ちを抱くようになった。
誰よりも健斗の近くに居るようで、やはり彼は遠い存在のように思える。
少なくとも、街角のビルボードで、不特定多数に微笑み掛ける写真の健斗は、理彩の知らない人だ。
会えない寂しさから、理彩はネガティブになっていた。
特に先日、珍しく体調を崩して以来、まだ疲れやすく、思考がネガティブになるのだった。
健斗からのLINEは増えた。
時間が少しでもある時は、短くても電話を掛けてきてくれた。
返却された本を書棚に戻しながら、理彩は小さくため息を吐いた。
私達、付き合い始めて何年になるだろう。
健斗は私との将来を、描いてくれているのだろうか。
決して口には出来ない思いを抱えながら、モヤモヤと過ごしていた。
健斗の事情はよく解っている。
でも彼は、私の事情を解ってくれているの?
「愛してる!!」「理彩が一番大切だ!!」
そんな言葉を何度となく言われて、ここまで来たけれど。
行動で示して欲しい、理彩はそう思うようになった。
私は健斗の傍に居たい!!
きちんとした形で、彼の傍に居たいのに…
健斗がパフォーマンス中に見せる、笑顔と滴る汗を思い浮かべながら、理彩は自分の願いをそっと胸にしまっておこうと決めた。
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