竜の目を持つ者(プロローグのみ)

るいす

第1話 プロローグ

 暗雲が立ち込める空の下、広大な山脈の中にひっそりと佇む小さな村、エルドラン。ここは、大自然と神秘の力が交錯する場所で、村人たちは日々の生活に忙しくも安穏とした日々を送っていた。しかし、彼らの平穏な日常が突如として脅かされることになった。原因は、空を覆い尽くすような雷鳴と、地を震わせる大地の揺れだった。


 その村の一角に、孤立して暮らす少年アルトがいた。彼は年齢に似合わぬ深い目を持ち、その瞳には青白い光が宿っていた。これは単なる目の色ではなく、彼の眼には古代の力、すなわち竜の力が宿っているとされていた。しかし、村人たちはその異様な光を恐れ、アルトを疎ましく思っていた。村の子供たちは彼に近寄ることすらなく、大人たちは彼を避けるように振舞った。アルトにとって、村の生活は孤独そのものであり、彼の心にはいつも静かな悲しみが漂っていた。


 ある晩、村全体が激しい雷鳴に包まれ、空が切り裂かれるような閃光が走った。雨は激しさを増し、まるで空が自身の怒りをぶつけるかのように滂沱の雨が降り注いだ。地震もその夜に重なるように発生し、家々の壁は揺れ、木々は折れ、村の人々は恐怖に震え上がった。雷の稲妻が空を引き裂くたびに、まるで神々が怒り狂っているかのような光景が広がっていた。


 村の広場に集まった長老たちは、顔を青ざめさせながら互いに相談していた。彼らの話の中には、村の外れに住むアルトの名前が頻繁に登場していた。伝説に語られる竜の力と、彼の目に宿る異様な光が結びつけられていたのだ。


「この天災は、ただの自然現象ではない」と、長老の一人が震える声で言った。「我々の間に語り継がれる伝説には、雷鳴と地震が龍の仕業であるとある。龍はその力をもって世界を揺るがし、時には人間たちに試練を与えることがあると言われている。」


 長老たちの間に、恐怖と不安が渦巻いていた。雷鳴の音が遠くで鳴り響き、地震が広場を揺らし続けていた。彼らの焦りが募る中、ひとりの長老が決断を下した。「お前の目が、何か知っているはずだ。もしこの天災が龍の仕業であるのなら、お前の力を借りるしかない。」


 アルトはその呼び出しに応じると、村人たちの恐るべき視線を受けながら広場へと向かった。彼の瞳は冷静でありながらも、心の奥では不安と混乱が渦巻いていた。彼は、自分に何ができるのかを理解していたが、その力が村に対してどのように働くのかが不明瞭だったからだ。


 広場に到着すると、村の長老たちが集まり、彼を取り囲むようにして話を始めた。「アルト、お前の目に宿る力が、この災厄の鍵であると考えられている。どうか、その力を使ってこの村を救ってほしい。もしこれが龍の仕業であれば、竜の力を借りなければならない。」


 アルトは深く息を吸い込み、長老たちの目を見つめた。彼の目は確かに竜の力を宿している。しかし、その力が実際にどのように作用するのかは、自分自身も分からないままだった。彼は不安を抱えながらも、村のために何かをしなければならないと感じていた。


「分かりました」と、アルトは低い声で応じた。「私の力が役立つかどうかは分かりませんが、試してみます。」


 その言葉とともに、アルトは手を広げ、心の中で力を集中させる。彼の目が青白く輝き、雷鳴と雨の中でその光はひときわ鮮やかに輝いた。その瞬間、村人たちは目を見開き、驚きと希望の入り混じった表情を浮かべた。


 アルトは、竜の力を使って村を襲う天災の原因を探り、その解決の糸口を見つけるための第一歩を踏み出した。彼の心には不安がある一方で、村を救うという使命に対する決意が強く刻まれていた。


 こうして、孤独な少年が村の、しいては大陸の運命を左右する壮大な冒険の幕が開けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の目を持つ者(プロローグのみ) るいす @ruis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ